盗賊少年と魔法使いの再会
門を潜り抜け、少し進むと空中に浮いてるイヤドを見つける。かなり離れているが、こちらにも気付いているだろう。
「やっぱり、いるか……」
「面はべっぴんに、たわわな物をお持ちで……性格が良ければ相手をしてもらいたいねぇ」
「人体実験されるのがオチですよ」
「えぐっ」
「ねぇアメト、たわわな物って何?」
「大丈夫ですよ、まだ気にしなくて。いつかきっとその内また、ルビ姫さまにも育んできますから」
周囲にはまだ“白バラ“は確認できない。プライドの高い彼女のことだ、勧誘を蹴って蹴散らしてくれている可能性も否定できない。ただでさえ、脅威はイヤドだけで充分なのに。
慎重に様子を伺いながら、ゆっくりと歩みを進めていく。話せる距離まで近づくと、イヤドが口を開く。
「久しいわね、シフ。まだあの国の犬なんてやってるんだ? 惨めに思わないの?」
「……あいにく、学がないもので」
「ま、そうやってアンタは媚び諂ってるのがお似合いね。大人が2人来てると思ったら、陰湿部隊長に……って、なんでアンタ達のところにも変なスーツがいるのよ!?」
「ということは……」
「これはおそらく、ウチらの裏切り者ってことッス!」
「あっ! ガネット!!」
突如としてイヤドの横に現れたのは、エメル奪取の時に襲撃した“白バラ“の構成員……ん? 服が黒く変わってる……?
「はぁ、教育が行き届いていないじゃない。そもそも裏切りそうな奴なんか加えるのが間違ってるわ」
((それを貴女が言うのか……))
「面目ないッス! 躾がなってなかったみたいで!」
「コラコラ! 好き放題言いやがって! 第一お前が見捨てたからこんなことなってんだぞ!? 後輩だったくせに何が躾だ!!」
「はんっ、見苦しいッス」
「うぜぇ!! つーかその服はなんなんだよ!」
「これはイヤド様が拵えてくれたユニフォームで、ウチらは新たに“黒バラ“と改名したッス!」
……まさか、蹴散らすとか仲間になるとかじゃなく、手下にしたのか……助けてくれた人達を……
「あークソ、悪い夢だこれは……抜けた矢先に職場改革されてやがる……なんだこの変わり様」
後輩だった者から邪険に扱われ、制服がまともになり、明らかにショックを受けるマイトさん。流石に可哀想になってきた。
「ところでそこの赤髪のガキんちょは誰なの?」
「あれはカンダル王国の王女様ッスね! ってなんでいるんですかね……」
「何よそれ、王族がピクニックにでも来たわけ? 呆れるわ」
「あ、でもそこのロン毛はその王女様にやられて捕まったようなもんなので、そこそこ戦えるッス」
「あっそう。そんな雑魚なら元からいなくて良かったわ」
怒涛の口撃にマイトさんは消沈する。かける言葉も見つからない……
「ルビ姫さま、気分を害されましたがここは堪えてください」
「私は大丈夫……だけど、本当にどうにかできるのかな……」
「と、申されますと?」
「あの人の魔力量、ずば抜けて強大……シフ君の仲間だったわけあるわ……暴れたら、とても手に負えないんじゃ……!」
「落ち着いてルビ。矛先が来るとしたらきっと僕だ。アメトさんもいるし、大丈夫だって」
魔法を会得してるルビにとって、イヤドの実力が垣間見えたのだろう。魔族の魔法ですらイヤドには及ばなかった。魔法使いで彼女を越える存在はいないと言っていい。
倒せる見込みはない。例え今のメンバー総出で戦おうとしてもだ。自分が囮になって、その隙に村の人々を助けもらう。そのためにも、機嫌を損いたくないが……
「さてと……ねぇシフ、アンタがこんな辺境のクソ田舎にぶち込んでくれたわけだけどさぁ」
いや出身地でしょーが、とツッコミたくなるのをグッと抑える。彼女なら村ごと吹き飛ばせるし、やりかねない。
「国の犬なんてやってるんだったら、アタシの犬になりなさい」
「……はい?」
「一度で飲み込みなさいよ。魔法が使えずとも、アンタの非凡な力は認めるわ。手元に置いてやってもいいってこと」
「そ、そう言われても……」
「不服? 世界の半分をくれてやってもいいわよ」
「おいおい……魔王みたいなこと言っちゃってるよ」
「魔王はそんなこと言いません」
「お前も何言ってんだよ」
これは予想してなかった……まさか勧誘されるとは。彼女に付いていくことで、少しは強引な行動を抑えられるとも考えたが……止まらないだろうな。
「貴女にそこまで評価してくれるのはありがたいですが……この世界が平和なら、これ以上乱したくない」
「……散々手を汚してきたのに綺麗事を言うようになったじゃない」
「必要が無ければ……やりたくはない」
「そう……なら後で直接潰してあげる。後は任せたわ」
「命に代えてもイヤド様の邪魔はさせないッス!」
そう言い残して、イヤドは一瞬で消え去る。
「……意外ですね、最大の敵がこうもあっさり引いてくれるなんて」
「……えぇ、おかしい。何か他に狙いがあるような……」
てっきり復讐も兼ねて立ち向かってくると思ったが……“白バラ“を改名までさせて手下にしたくらいだ、指示されたわけでもあるまい。他に目当てなんてサフィアぐらいなもの……!?
「ま、まさか……!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カンダル王国の王宮を目下に、イヤドは滞空して様子を見る。風に服と髪を揺られながら、笑みを隠しきれずにいた。
魔法による探知では、人数と背格好しかわからなかったため、肉眼で確認する必要があった。そして、シフが離れている今、サフィアを仕留める最大のチャンスと判断し、“黒バラ“に一行の足止めを指示していた。
「フフ……やっとアンタをぶちのめせるのね、サフィア。それじゃあ国中にノックしてあげようかしらーー」
忌々しい過去の精算と世界の頂点に立つための悲願。どちらにも該当する勇者に向けて。
「ーー隕石で」




