盗賊少年と希望の便り
イントゥリーグ王国との戦争まで一週間を切った。あの化け物、戦士オニスと闘わなくてはならない。憂鬱なのは変わりないが、オニスを倒せるかどうかで戦局を左右する。
そのため領地内の森で、サフィアと組み手をしている。
「シッ!」
「ハァッ!」
まともに相手ができるのはサフィアがぐらいしかいない。戦い方は全然違えど、全力で技を繰り出せるだけで、良い練習にはなる。
「……休憩にするか?」
「まだまだ! 『狩の巣』!!」
木々を利用し、立体的な高速移動ですれ違い様に一撃を繰り出していく。それでもサフィアには全部捌かれる。いや、オニスだって致命傷を与えられなかった。もっと速く、もっと鋭く攻撃をせねば……
立ち上がる足のバネを活用し、手刀にて強烈な突きを放つ。
『噴槍』!!
サフィアは身をよじり、『噴槍』は離れた木を貫く。
「おい待てシフッ!」
当たらなければ意味がないか……ならば、威力もあり範囲も大きい技がある。オニスのように一撃が風圧を起こす回し蹴り。
『風薙車』!!
「うおっ!? 待つんだシフッ! 一旦ーー」
これも避けられたか、どうすればオニスを倒せる……!?
「落ち着けシフ!」
まずい!? 肩を捕まれた……! 前回はこれで大打撃を喰らった、投げられる前に頭突きをーー
「『天地足頭』」
視界がぐるりと回ったかと思ったら、急にオニスの足元しか見えず、地面がすぐそこにあったのだ。
理解した時にはもう遅かった、天に足があり、地に頭がある。手を付いてない逆立ち状態だ。
間に合わない、頭がぶつかっーー
「大丈夫かシフ、聞こえてるか?」
ピタリと落下は止まり、両足が掴まれてるのがわかる。よく見たら女性の、サフィアの足だこれ……
またくるりと身体を回され、サフィアの顔が目の前にくる。戻された、ちゃんと地に足が付いてる……
「ま、参った……」
「参ったじゃない、さっきから待ったと言ってだだろう?」
「え、あれ? そうだった……?」
「やはりな、正気ではなかったか。ダメだぞ、冷静さがない時点で戦いは不利だ……焦るのもわかるが」
「ごめんなさい……」
「……休憩にしよう」
「ハ、ハェ〜、凄すぎて参考にならなかった……」
見学に来ていたルビが驚きながら感想を言う。まいったな、悪いお手本を見せてしまった……
「技のキレ、スピードは申し分ない。ただ、乱発しても意味がない。使うタイミングが鍵だ。ルビも気をつけるように」
「はい師匠! でもまずあんな必殺技がほしいです!」
「それは訓練してからでな……っとそうだ、最後の2つは正に必殺級、当たったら死んじゃうじゃないか」
「いやまぁサフィアなら……万一当たってもエメルがいるし」
「こらこら、私とて人間なんだぞ」
しかし、課題だな。もしオニスを倒せねかったら……サフィアが止めるといっても、その時は全員がやられた後、すなわち負けである。
勇者としての制限が痛い。こうやって組み手をしてくれるのも、中立な立場としてはグレーなんだ。
戦場にエメルがいると言っても、簡単には回復させてくれないだろう。いや、わざわざエメルをひき入れさせたってことは、それくらいの余地がある……? いや、勝てなきゃ同じことか……なんとしてでも勝つしかないか……
「フゥ……そうだサフィア! さっきの『天地足頭』を教えてくださいよ! 組まれた時に使えます!」
「師匠! 私にも!」
「うーん、これは独特なコツがあってだな……短期間での修得はーー」
バサバサ!
サフィアに教えを乞う中、目の前の木に1匹の伝書鳩が止まる。
「む……私のではないな」
「王宮専用のでもないような……」
「あーー!! やっと来た!!」
「「!?」」
急いで手紙を取り、開封する。遂に来た、戦争が決まってから便りを出していたが、果たして……
「シフ君のか、そんなに待ち望んでたの……?」
「ぃやった!!」
「お、おう?」
「OKだって!!」
「「何がっ!?」」
「こうしちゃいられない! 急いで王様にも伝えないと! 2人ともついて来て!!」
「な、なぁ、少し事情を……」
『雷歩』!!
「「おーい!?」」
一刻も早く伝えて許可をもらわねば……! これで一気に勝率が上がる……!
王様の書斎へと辿りつき、勢いよくドアを開ける。
「王様ー!!」
「うおっ!? どーしたんじゃいきなり……なんでそんなウキウキなん?」
「助っ人です! 強力な助っ人が来てくれることになったんです!!」
「ほ、ほう……あれか、魔王討伐の旅で知り合った者か……?」
「そうなんです! というか、目的だったその人なんですけど!」
「そうかそう……えっ?」
「だから魔王ですよ魔王!!」




