盗賊少年と決起集会
「おぉエメル! 久しぶりだな!」
カンダル王国に戻り、サフィアと再会すると喜びながらエメルに抱き着こうとする。そこでエメルは僕の後ろに隠れ、盾代わりにする。
「ハハッ、そんなことしてもむしろ役得だぞ?」
「いいから止まってください!」
「むぅ……でも心配していたのだぞ、最後は突然いなくなったたから。一体何をしていたのだ?」
「……食って寝てた」
「うん、間違いなくあのエメルだな」
「……疲れたから眠る」
「えっ、背負って来てその間も寝てたのに……」
「スースー」
「はやっ」
「フフッ、相変わらずういやつだ。2人が戻ったら集会を行う予定なんだ。思ったより帰りが遅かったが……ゴネられたか?」
「それもあるんですが……前回の輩とは違う“白バラ"に襲われてーー」
サフィアにこれまで経緯を話す。
「呪いの武器を持ち、土の魔法を使う新たな構成員……口ぶりからすると、戦争にも参加してくるだろうな」
「その時はサフィアの担当です。まぁ僕ですら対抗できたし、例え相手が束になってもサフィアなら大丈夫でしょう」
「おいおい、少しは心配してくれてもいいんだぞ?」
「貴女の変態的な強さと変態さを信頼して言ってるんです」
「最後重複しとるぞ」
話を終え、集会へ向けて王様とルビに合流する。しかし、かなり忙しいそうだ。
「至急食糧の配備手伝いを商人協会に通達しといて。おぉシフ! 連れて帰ったか、早速で悪いが決起集会がある、ちと待っててくれ。ルビ、ちゃっと説明頼む」
「お帰りなさい! この後の集会にはシフ君とエメルさんにも出てもらうから、準備できるまで待っててほしいんだ!」
「あぁ、そうなんだ……出なきゃダメなやつ?」
「うん……もしかして疲れてる? いきなりだったからごめんね……」
「あ、いや! 表立って出るのは初めてだしさ……ほら、僕は世間体に死んでたことになってたし……」
要は気まずいんだ、色んな意味で……今まで何やってたとか非難されるだろうし……
「あぁ大丈夫大丈夫! そこはちゃんと上手く弁明するから! 気負いしないで待ってて! ごめん、私お父さんの手伝いあるからまた後でねー!」
嵐が過ぎ去ったように王様への元へと戻るルビ。もう秘書のように補佐している。
「多忙だなぁ……なんだか申し訳ない」
「仕方ないさ、国との戦争だ。いかにカンダル王国といえど、慣れてはない。慣れてはいけないものでもあるが」
「……そうだね、でも後は任せるとしよう」
大人しく待っていると30分足らずで王宮中の兵士、大臣達を広間へと集合していく。王様が先頭に立ち、演説を開始していく。
「諸君、急に集まらせてすまない! じゃが重要な話がある。前もって言っていた、イントゥリーグ王国と戦争になるやもしれんってことだったが、実現することになった! いい加減うざったいし、余の娘を狙うロリコン野郎をぶちのめす。つーわけでヨロシコ!」
そうか、僕が潜入してた時にはあらかじめ公言していたのか……にしても、軽いなぁ……
「よく言ったチャラ王!」
「ルビたんを渡すわけにはいかねー!!」
「舐め腐った奴らに、我らカンダル王国の力を見せつけてやんぞー!!」
兵達の反応は良好だ。多少チンピラっぽいが、慕われてるのは間違いない。
「あ、言い忘れてたんだけど、ウチにいた元戦士隊長のオニスが敵にいるんで、ガンバ」
この一言で、ノリに乗っていた兵士達が一変する。
「ふざけんじゃねぇ!? そう言うのはもっと早く言えよ!!」
「命がいくつあっても足らなぇよ!!」
「もうダメだ、おしまいだぁ……」
元々オニスはここで兵士達をしごいていたから、皆よくご存じだろう。彼の強さと残虐性を……ブーイングと悲鳴がこだまする。
「これは言わないほうが良かったのでは……?」
「いいや、戦場でこうなるよりはよっぽど良いぞ……」
「おほん、皆の言いたいことはよくわかる。安心せい、何も彼奴に向かっていけとは言わん。見つけたら全力で撤退するのだ! 相手をするのは彼が担う!」
あ、ここで僕の紹介か……
「彼は勇者サフィアとあのオニスと肩を並べ、魔王討伐に尽力した盗賊、シフだっ! しかし彼は……幼き身で何度も死線を潜り抜けた結果、精神病を患い、休息のために戦死したことにしていたのだ……」
あぁ、そういうシナリオね……
「しかぁし! 我が娘の危機を知り、救い出してオニスに一矢報いた! この戦争でも力を貸してくれる、オニスの相手を引き受けてくれるぞ!!」
「若いのになんて献身的なんだ……!」
「へへっ、なら問題はねぇ! やってやろうじゃねぇか!」
「ありがてぇ、ただありがてぇ……!!」
あぁなるほど……非難されるどころか、感謝されるとはね……余程、オニスの相手はしたくないなんだなぁ……
「更に朗報だ、同じく魔王討伐に旅立った仲間、回復術師が駆けつけてくれた! お世話になった者もいるじゃろう、彼女の治癒能力は世界一だ。これでもうーー」
「「「「ウオオオォォォォ!!!!」」」」
「ったく、現金な奴らじゃのう……」
僕らが帰って早々集会をしたのは、士気を高めるためだったか……まんまと利用されたわけだ。いつもいつも、驚かされる。




