盗賊少年の決死
浮かび上がった瓦礫を兵士達へと衝突させていく。ルビの成長を垣間見て、頼もしさすら感じるが、態勢が崩れた今が好機だ。
司令塔のイントゥリーグ王さえ抑えれば片がつく。後は脅すなり、盾にでもすれば否が応でも止めるだろう。
颯爽とイントゥリーグ王へ斬り込む。だが、側近の兵士達が反応して防がれる。やはり王の警護はそこそこ腕が立つようだ。
それに加え、非常に戦いづらい。防御することなく、攻撃を仕掛けてくる。全員が刺し違える覚悟だ。
攻めあぐね、後退すると他の兵が果敢に掴みかかろうとする。少しでも動きを止めて、ダメージを与える算段か。
左右から兵士がタックルするのに合わせ、待ち構える。
ーー火薬の匂い!ーー
危険を察知してすぐさま離脱する。予感は的中した、突っ込んで来た兵士がなんと爆発したのだ。
「ヒッ……!?」
「惜しい、これで傷でもつけば儲けものだというのに」
「外道め……」
まさに捨て駒だ、これじゃあ迂闊に近づけない。
「……まずいな」
四方八方から軍が押し寄せてくる。これで捨て身の戦法も、数に限りがなくなる。絶え間なくやられたら、かなり苦しい。
「それではご機嫌よう、生きていればまた」
イントゥリーグ王は次々とやってくる兵の後ろへと、退却していく。
「卑劣な……!!」
「……ここは退こう、あまりにも分が悪い」
「……そうだね、これ以上は犠牲が……」
人を殺すために、人の命を無駄にする。心優しいルビにとっては耐え難い光景だろう。一刻も早く抜け出さねば。
「とりあえず一点突破する。荒れるよ!」
「援護は任せて!」
ルビを担いで、兵の少ないとこへ目掛けて駆ける。
「ハイヤアァァァ!!」
掛け声と共に槍を突き刺してくる騎馬兵。上へ飛んで回避し、その騎馬兵の頭を踏んづけて更に前方へと距離を稼ぐ。
着地を狩ろうと、続々と駆け込んでくる兵達を、ルビの魔法で足場の瓦礫を崩し、転倒させていく。
「ナイスアシスト」
片腕が潰されたため、逃げ出すのも困難かと思いきや、戦闘を最小限にし、魔法による援護もあればそう難しくない。
このまま順当にいけばーー
「第2、ラーウンド〜♪」
馬に乗り、斧を構えたオニスが不吉に笑いかける。
「何っ!?」
「キャァ!?」
気づいたと同時に斧が振り下ろされ、咄嗟によけたものの、ルビと離れ離れになってしまう。
「クソったれ! 貴方を相手にしてる場合じゃないんですよ!」
「だからコソコソ近づいて来たんだ。俺はお前やアメトと違って、襲うのに気配を隠すのが完璧じゃないからな。殺気立つ人間は、死にものぐるいで殺しにかかる群れに紛れれば目立たねぇ」
「ま、待ってください! 今は見逃してください! 必ず後で再戦しますから!」
「ダ・メ。そんな嫌々で相手されたら萎えるじゃねぇか。さっきだって、一回ヤッたら即終了じゃあ燃えねーよ」
オニスはくるりと後ろへ振り向き、横たわるルビの元へと歩く。
「殺してやりたい、そこまで思ってくれねぇと」
オニスは斧を振り上げ、ルビへ狙いを定める。
「よせ!!!!」
「コイツが死ねば、お前が本気になって、シフが死んだと聞いたらサフィアも飛びついてくる。入れ食いになるぜこりゃあ!」
急いでオニスへと向かう。だが、
「邪魔だぁぁぁぁ!!」
今度は兵達が邪魔してくる。爆破される前に、瞬時に蹴り飛ばしていくが、その一瞬すら惜しい。
「あばよ」
オニスが首を傾げる直後、ルビは勢いよく立ち上がり、剣を突き刺そうとする。
「悪くねぇ突きだ。サフィアの剣技か」
ルビの手首を抑えられ、剣先はオニスの直前で制止する。でも突きは囮だ、本命の攻撃としてオニスの背後に剣や槍が飛んでくる。
「次点の攻撃に繋げんのもまぁまぁだ」
オニスは後ろを見ずとも、背後の武器を薙ぎ払う。
「温室育ちの姫にしちゃあ、やるじゃねぇか」
「……カンダル王女として命じます。仇は不要、生きてください」
オニスの称賛を介さず、死を悟ったルビのメッセージは、自分に向けられたものだった。
でも受け入れられるはずがない。死ぬことだって許せるわけない。それと同時に、自分の考えがいかに甘かったかを思い知った。
「オニス」
激昂する感情とは裏腹に、冷ややかに呼びつける。
「おまっ、その殺気……さいこーー」
オニスの戯言を最後まで聞く気はない。左手で短剣を振るう。当然、防ごうとする。オニスに正面から堂々の攻撃は当てられない。
ならば、想定外の攻撃……ボロボロの右手で無理矢理拳を握る。
左の短剣はフェイク、本命の右腕で全身全霊殴り飛ばす。
「ッ!!……ハッハァ!」
よろめくオニスは尚も享楽している。それもこれまでだ。このまま、オニスを始末する。ルビさえ帰還できればいい。身をもって止めるべき相手なんだ。
オニスも察しただろう、次の攻防で決着することに。衝撃を踏み止まり、反撃する気だ。
殺す、互いにそれだけが通じ合う。雌雄を決しようとた刹那、視界に花びら舞う。
「タイムストップ」




