盗賊少年と宣戦
舞い上がる無数の花びらは、自分達を包むようにピタリと静止する。自分もオニスも止まらざるおえない。下手に動けば身体はズタズタ、それでも花びらを動かすことは叶わない。
完全なる時間停止。目の前の現象は理解できても、張本人が何故この場にいるかはさっぱりだ。
「そこまでだ、2人とも」
忽然と現れるサフィア。来てくれたのは正直ありがたい。これでルビはもう安全だ。だが、そもそも王様の守りは、勇者としての不干渉は……様々な疑問が浮かんでいく。
「ご協力感謝する姫。私は物体の時を操れるだけであって、自由自在に操れる訳ではないからな」
「でもどうして花びらなの?」
「見栄えがいいじゃないか」
「そんな理由!?」
「おいこらサフィア、いいとこなのに水を差すんじゃねぇ!」
「フッ、変わらないなオニス。差し入れたのは花なんだが」
冷静沈着なサフィアの様子から、私情で勝手に来たわけではなさそうだ。ただこちらとしては何も聞いていない。考えあってのことならば訳を聞きたいし、王様も心配だ。
「……サフィア、大丈夫なんですか?」
「案ずるな、私の独断ではない」
「それを聞いて安心した」
「……むぅ、ひどいぞ」
「オイオイ、じゃあお前がシフとバトンタッチして戦ってくれんのかよ! なぁ!?」
「いや、あくまで私は止めに来たまでだ、余計な血を流さないように。これでも勇者だからな、私益で戦うわけにはいかないさ」
「自分でこれでもって言っちゃったよ、ギャラリーが多いのに……」
「おっと、そうだった……諸君!! 聞いての通り、私はこの場を収めに来ただけだ! 争う気はない! もうこれ以上自分の身も、逃げ遅れた民も危険に晒すのはやめないか!」
サフィアの号令が響いてか、取り囲む兵士達は武器を構えたまま動かない。殺める対象ではないからか、それともあの勇者サフィアという存在に萎縮しているかはわからないが、良い影響を与えている。殺伐としたこの場にはとても心強い限りだ。
「……フーッ、おかげさまで助かりましたよ」
なんにせよ、ようやく肩の荷が降りた。張り詰めていた警戒を解き、ドサッと座り込む。
「待て待て、何終わった感出してんだぁオイ」
「いんや、終わったんじゃよ一旦はな」
「な、何故王様まで!?」
これは流石に驚いた……まさか王様でここにいるとは……しかし、自分の国を留守にしておいてサラッと敵国に来ていいものなのか……
「ほ、本当に大丈夫なんですか? 王宮だってもう主要な人が……」
「心配せんでもよい、余らがいなくても回らんような腑抜けではないぞい。それに、ちゃーんと言っといたから」
「それなら……」
「トイレ行ってくるって」
「明らかな嘘じゃん!?」
「まぁ待て、王の言いたいことはこうだ。トイレとはすなわち発展場。欲を満たすための捌け口に過ぎない行為、それだけのこと」
「そうは言ってねぇ」
「……オーオー、おっさんまで出てくるとは予想外だぁ」
「いやはや、こっちのセリフじゃよ。何勝手に寝返ってんの?」
「生を謳歌するために最善を尽くした結果だ。自分を押し殺して、ただ生きるってのは虫と一緒だ」
「そのせいで物理的に押しつぶされて、虫の息になった人達が大勢いるわい……さて、雁首そろえてやって来たのだ。どっかで見ておるのじゃろ? とっとと出てこんかイントゥリーグ王」
王様の問いかけに応じるよう、兵士達が道を空けてイントゥリーグ王がやって来る。
「……これはこれは、告知なしの訪問とは驚きましたぞ」
「王族会議でプロポーズするお人が、よう言うわ」
「フハハ! それもそうですなぁ! しかし! 流石に訳も聞かずにいられませんなぁ! まさか愛する娘が心配で思わず付いて来ちゃいました、なーんて軽率な理由で一国の王がーー」
「え? その通りじゃよ」
「なっ……なんと……!」
「どう思われようと構わんよ、おかげさんでとんでもないことを知れたからのぅ」
いつになく強気な王様だ……イントゥリーグ王もペースを乱されている。
ただ、王様の作戦が知らされてない以上、政治的なやりとりもどう転ぶかわからない。
そもそも、この時点で一触即発のようなものだ。カンダル王国は自作自演の誘拐に、イントゥリーグ王国はオニスの引き抜き……最終的には戦闘も起きている。これでどちらもお咎めなし……とはならないだろう。
気掛かりなのはこのタイミングで出てきたことだ。もうまるで対立するとしか考えられない……
「……ま、理由は良しとしましょうか。そんなことよりも、我々は深く話し合う必要がーー」
「よろしい、ならば戦争だ」
「はっや!? まだ何も言ってないのに結論早すぎやしませんか!?」
「もうえぇじゃろ、因縁は十二分にあるし」
ーーまさかの全面戦争!?
「お、いいじゃん! こりゃめでてぇ!」
「黙っておれ大馬鹿者!! 大体貴様が出しゃばったばっかりに、街も知略も滅茶苦茶にしよって!」
「おやおや、そちらでも飼い慣らすのは苦戦しておるようで……良い厄介払いになったやもしれぬなぁ」
「ぐぬっ……!」
さしものイントゥリーグ王もオニスはコントロールできてないらしい。予想外なのはこちらもだが……
『戦争までいっちゃたらアカン』
過去に言っていた王様の発言、それを捻じ曲げてまで宣言したのだ。ルビの人情の良さは血を引き継いでると言っていいほど、王様は平和主義である……少なくとも、自分の知る限りは……
サフィアは動じてないし、ルビも口を挟む気はない……このまま行方を見守るとしよう。
「……よろしいでしょう、受諾いたします」
「そうと決まれば話が早い。負けた国は勝った国に完全服従で、勝利条件は負けを認めるか私達トップが死ぬかでいいかね。戦争だもの」
「……!」
そ、そこまで言っていいものなのか……!? 相手の狙いが何にせよ、負けたら思うままだ……元々王様達を殺す気だったんなら、さして変わらないはず……
「あぁ、ご心配なく。余は君を死なせる気はないぞい。手に入る駒を減らしたくはないからのう」
両者の生殺自由を提示したうえでの不殺。と同時に余裕綽々の勝利宣言……侮れない人だ。自身の娘を盗ませて汚名を着せるプランは、オニスというイレギュラーで失敗に終わった。
だと言うのに、バックアッププランとして……国を盗るつもりだ。




