盗賊少年と見張り
白スーツの男が王宮を襲撃してから一週間が経過した。一応、王宮でずっと待機していたが、その間は不気味なほど何も起こらなかった。暗殺できないと諦めたか、それとも次に向けての工作をしてるのか……
「いよいよ、明日だな」
王宮の外で、本を読みながら見張りをしていると、サフィアが声をかけてくる。
そして、サフィアが言う明日とは、王族会議のことだ。カンダル王国が開催国のため、各国の王族がこの王宮内に集うことになっている。王宮内はおろか、周辺施設ですらピリピリとした雰囲気になっている。
「こんにちは、サフィア。あなたは何か準備をしなくていいんですか?」
「私は簡単な自己紹介をして、後は王の近くにいるだけで済むから、大した用意は必要ない。主役は王族だからな」
「口は災いの元を体現したサフィアですから、ナイスな采配ですね」
「……最近言葉に棘があるような」
「爆弾発言してくる人に言われたくありません。それに、近づいてくるのに怯えなくなっただけ、進歩したと思ってください」
「よ、喜んでいいのかこれは……? 私はてっきり本に夢中になってるかと。何を読んでるんだ?」
「『君のアナ』という本です、ルビが勧めてくれて」
「……エッチなやつ?」
「違いますっ! 恐ろしい能力を身につけた王女様が、妹と中身が入れ替わる……王道SFファンタジーですよ」
「色々詰め込み過ぎなんじゃ……理解できてるのか?」
「……ルビに感想言うついでに、細かいところを教えてもらおうと……勿論、王族会議を終えてから」
「フフ、そうか。でも、ついこの前までは読み書きの練習をしてたというのに」
サフィアは微笑みながら、優しく頭を撫でてくる。その行為は、珍しく邪気がなく、温もりがあった。
「成長、したのだなぁ」
「あ……って2年も前のことでしょう! ……あの時と違って当然ですからっ」
恥ずかしくなり、サフィアの手を払う。容姿が綺麗なぶん、それに見合った行為をされると、流石にドキッとしてしまう。本当に、中身がずっと今みたいだったら……
「っと、そういえばアメト隊長からシフを呼ぶよう言われていたんだ」
「アメトさんが?」
「用件は聞いていないが、明日のことだろうな。見張りは私が変わろう」
「じゃあお願いします。とはいえ、あれ以降刺客や"白バラ"も音沙汰なしってのが……嵐の前のような静けさでなければ……」
王宮にも周辺にも、怪しい様子や目立ったトラブルはない。それがかえって、不安を募らせる。
「今気にしても仕方ない、我々は我々の成すべきことをしよう」
「それもそうですね……でも寝ちゃダメですよ?」
「気、気をつけるとも……あ、それならその本を貸してくれないか? 」
「又貸しになっちゃいますが、まぁルビなら許してくれるでしょう」
「助かる、なら今度は私の股ーー」
「言わせないですよ!?」




