盗賊少年は執事に
アメトさん専用の部屋を開ける。そこで目を疑った。中にいたのは美人のメイドさんだったからだ。
ここは仮にも隠密部隊の長の部屋。扱う物だってシークレットなはず。メイドさんが部屋に掃除に来る、なんてことはありえない。
「すいません、間違えましたー」
「いや、合ってますよシフ君」
ドアを閉めようとしたところ、聞き覚えのある落ち着いた声を聞いて制止する。
「ってまさかアメトさん!?」
「そりゃあ私の部屋ですから」
改めて目の前の人を確認する。黒紫のポニーテールだったのが、結ばずにそのまま下ろしている。
それに、今まで鼻から下を黒いマスクで隠していたのが外して、素顔が明らかになっている。小顔で整い、妖艶な顔立ちだ。服装もメイド服で、印象ガラリと変わっている。
「そういえば、素顔を見せたのが初でしたっけ」
「え、えぇ、想像以上にお綺麗で……」
「私にはもったいないお言葉で。今のは天然でしょうが、ルビ姫様やサフィア様にも言ったほうがいいですよ」
新鮮なアメトさんに見惚れていたが、その言葉で正気に戻る。まずそもそも、なんでこんな格好をしているのか……?
「どうしたんですかアメトさん、転職ですか? 趣味ですか?」
「どちらかと言えば、前者です。と言っても、王族会議の間だけですが」
「だ、だとしても何で?」
「警備ですよ、王達の側近として。これでも私は裏方の人間ですし、コソコソ守ってて賊と間違えられるのもあれなんで」
「だからメイドに……」
「呼び出したのは、シフ君にも給仕役として警備に回ってもらおうと。王は親戚とか言ってたみたいですけど、そういう設定ならシフ君も会議に出なきゃいけないんで」
「……警備はいいんですけど、給仕としての作法とか全然ですよ」
「大丈夫ですよ、私とくっちゃべるだけでいいんで」
「そんなんで務まるんですか!?」
「見習いが色々教えてもらってる、という図には見えるでしょう。それに、シフ君がドジっても子供のお茶目で済みますから」
「……相手が他国の王とかだと、お茶目で通用しますかねぇ」
「いいんです、全部チャラ王の責任になるんですから」
「投げやりが酷い」
「はいこれ、シフ君の制服です。オーダーメイドですから」
渡されたのは、執事服だった。
「本当はメイド服でもいけると思ったんですが」
「血迷いましたね」
「サフィア様の格好の餌になると思いまして」
「その自制心、痛み入ります」
「では着替えてみてください、きっと似合うと思いますよ」
「わかりました、秒で着替えるんで後ろを向いていてください」
「私は構いませんので、どうぞ」
「僕が気にするんですよ!?」
「私はサフィア様と違って発情なんてしませんよ」
「いや、ですけど……」
「ただ、困ってるシフ君を見て楽しんでるだけです」
「それはそれでタチ悪いですから!?」
弄ぶようなアメトさんを説得し、なんとか後ろを振り向かせ、速攻で着替える。サイズは問題ない。むしろ、しっくりくる感じだった。
「なんか、妙にピッタリなんですが……よくサイズ合わせられましたね、採寸なんかしてないのに」
「サフィア様に身長と体重、スリーサイズも教えてもらいましたので」
「やだ、何それ怖い……」
……身長やスリーサイズは目視でわからなくもないが、なんで体重がわかるんだ……?
というか、男のスリーサイズを把握して何の得があるんだ……!?
「気を取り直してと言うか、気をしっかり持ってと言うべきでしょうか。後はルビ姫様にでも、そのお姿をお披露目するといいでしょう。明日見せたら、ちょっとしたパニックになるかもしれないので」
「それもそうですね……僕から伝えときます」
今頃、ルビは会議に向けての準備と練習をしてるのだろう。様子を伺うのも兼ねて、会いに行くとしよう。
「……やけに積極的になりましたね、王に頭を下げられたとはいえ。優雅に怠惰に平和に、暮らしたいんじゃなかったのですか?」
部屋から出ようとすると、アメトさんが何か引っかかるような声のトーンで話しかけてくる。
……言われればそうかもしれない。言うことを聞くのが当たり前はおろか、自主的に動くようになった。それも、躊躇することなく。
「……単に嫌なんだと思うんです。王様やルビが死んだり、悲しんだりすると思うと。勿論、アメトさんだって」
「……私を入れてくれる辺り、ポイント高いです。そして、そこにサフィア様はさりげなく省かれるんですね」
「あの人はそう簡単に死にませんから。火山口にぶち込んでもきっと大丈夫ですよ」
「いや死ぬでしょ」
「……そうですね、流石に死にますか。火山が」
「火山がっ!?」
「……結論を言うと、魔王討伐の冒険と違って、身の回りの人々がまともだからこそ、役に立ちたいと思うんです。あの時は仲間全員がストレッサーで、協力という名の利用が蔓延り、百害あって一利なしな……」
「やっぱりもう、休んでもいいんですよ……?」
愚痴をこぼしていると、アメトさんが哀れみに満ちた表情で肩に手をかけてくる。
「ど、どうしたんですか急に……」
「いや、12歳の子がストレッサーとか言うから」




