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そのご!    『おーこーってーるー』

 今回も読んで下さって、ありがとうございます!

 ……ところで、サブタイ、誰がでしょうね?


「失礼いたします。ご注文いただきましたパフェをお持ちいたしました」


 数回のノックの音がしてから、ドアが外から開いた。

 店員さんがあたしのパフェを持って来てくれたみたい。あれ、でも、この声、どこかで聞いたことあるような?


「ありがとうございますぅ?」


 振り返りながらその店員さんにお礼を言うと、そこにいたのは、見覚えのある人だった。動揺で、あたしの語尾が不自然にトーン上がる。


 なっ、なんでここにサンタくんがいるの!?

 思わず目を擦っちゃったけど、幻覚じゃないよね。


「立谷さん?」

「……」


 隣にいた樫木くんに呼びかけられたような気もするけど、あたしは返事をできない。


 目を丸くしまじまじと観察している間にも、サンタくんは着々と仕事をこなしていく。中腰になり、片腕で支えてるアルミ板のお盆から、パフェをテーブルに静かに置いてあたしの前に滑らせる。

 その一連の流れがなめらかだから、もしかしてこの仕事に慣れているの?


 ……ということは、まさかここって、サンタくんのバイト先!?


 パフェの器を手から離すその時、ちらりとサンタくんがあたしのことを横目に見てきた。その目はたかみたいに鋭くて、数秒くらいしか視線が合わなかったけど、背筋に氷が落ちてきたみたいに、ひやっとした。


 おーこーってーるー。

 完璧に目が据わってた! あれは魔王(バイト)モードだよっ!


「ご注文の品に、間違いはありませんか?」

「は、はははははははははいっ!」


 営業スマイルでにっこり笑ってるけど、目、目が。目が笑ってないよ! あの目は、「あとで裏に顔出せや、このチビがぁ!」って言ってるぅ!


 怖いぃいいい! どこのヤクザさんなのぉおおおおお!


 冷や汗を流しながら怯えているあたしの耳に、少し離れた場所に座る結美ちゃん達の会話が届いた。


「……結美、あんたまさか」

「ふふ、楽しくなってきたね」

「げぇ! なんで害虫がこんなところにいるのー! 奈々、あいつ嫌ーい」


 サキちゃんは戸惑った様子で、結美ちゃんは楽しそうに笑い、奈々ちゃんは心の底から嫌そうにそう呟いてた。

 そういえば、なんでか、奈々ちゃんってサンタくんのこと初対面のときからからずっと嫌悪してるんだよね。二人とも顔を合わせれば、笑顔で話すのに。でも、その光景を見たサキちゃんと結美ちゃんは、あれは同類嫌悪だって言ってた。よく、わかんないけど。


 あたし達四人の反応に、他の男性陣のみんなは不思議そうにしてる。

 結美ちゃんは彼氏の景さんに小声で二三言会話を交わす。たぶん、軽く説明をしたのかな?

 ……でも、それを聞いた景さんが、いつものホワホワした温かい笑顔で、あたしとサンタくんを見つめてるのはなんでかな? そんな癒しの微笑みを浮かべながら眺めるような状況じゃないです、景さん!


 サンタくんの声色は普通だから、他のみんなは異変に気づいてない。

 結美ちゃん達は、さすがにサンタくんが接客をしてる事実はわかってるみたいだけど、彼の言葉の裏は読み取ってないみたい。と、いうか、あたしのみに向けた圧力だから、察知しにくいのかも。


「他のご注文の品は後ほどお持ちいたしますので、少々お待ちください」


 ひぃいいいいいいまた来るのぉっ?


 部屋の外に出て、あたし達に向けてお辞儀をした後、サンタくんはドアを丁寧に閉めた。扉が完全に締切る前に一瞬見えた彼の目に、あたしは頬をさらに引きつらせた。


 ぎ、ぎらーんってしてた! きらーんじゃなくて、ぎらーん、これ重要だよ! 一文字違うけど、すごく大きな差だよ!

 あの目はマジだ。一週間分の嫌味攻撃をしてくる気満々だ!


 い、行かない、行かないからね!

 そういう意思を込めてあたしは、ぷいっとドアから顔を背けた。


「わ、わぁーい、パフェだぁ!」


 とりあえず、目の前の喜びを噛み締めることにした。現実逃避とも言うかも。

 傍に置かれた長めの細いスプーンを手にとろうとするけど、うまくいかない。手が振動してるのは、決して恐怖とか動揺とかじゃないよ? ホントだよ?


 ……それにしても、なんで樫木くん、さっきからあたしのことチラチラ見てるんだろ? やっぱり、さっき返事しなかったから?

 あ、そっか、パフェ食べたいんだ!


 彼の視線に、睨んで「あっ、あげないよっ」と牽制をしておく。このパフェはあたしのだもん!

 だけど、樫木くんは首をブンブン振って違うと言ってきた。うん、一安心。でも、なんで顔が赤いの? 暖房の効きすぎかな?


 でも、これでこのパフェはあたしのもの! ふっふっふ、やったね!


 さてと、何から食べよっかな~? う~ん、ここはやっぱり、一番上に乗ってる、オレンジからだよね。

 手づかみでオレンジをつまんで、両手で持ち直してからかぶりついた。それを美味しく思う前に、目に果汁が飛んできた。


「痛っ!」

「ちょっ、立谷さん平気!?」


 い、痛い痛い痛い!

 少しくらい入るくらいなら大丈夫なんだけど……モロに入っちゃった。こう、ブシャァッと。

 シャレにならないくらい痛いよぅ。


 あ、涙出てきた。うう、前が見えない。

 樫木くんが声をかけてくれたけど、涙のせいで顔が見えない。


「だ、大丈夫。少しすれば、治ると思うし」

「いや、めっちゃ直撃してたじゃん! マジで痛そうだし」


 や、やっぱり直撃だったの? 初めてこんな大惨事になっちゃったよ。もしかして、今日はついてないのかも。サンタくんに遭遇しちゃうし、オレンジには嫌われるし。


「どうした? 何があった?」

「大悟。いや、立谷さんの目にオレンジの汁が飛んでよ」

「あー……とりあえず、トイレで目ゆすいできたらどうだ。多少はマシになるだろ」


 な、なるほど! ナイスアイディアだね、宇崎くん。早速行きたいところだけど、前が見えないんだよね。どうしよ。


「行きたいけど……」


 あたしが言いたいことがわかったみたいで、宇崎くんらしき人影が動いた。


「祐也、お前連れていけ」

「へっ? お、俺!?」

「……バレバレだ、お前。本人以外は気づいてるからな」

「マジで!? 通りでみんな話しかけてこないとは思ってたけど! ちょっ、みんな目ぇ笑ってないっ?」

「温かい目と言え」

「……なんか、スッゲェ微妙な気分なんだけど」


 むーなんかごちゃごちゃ言ってる。それよりあたし、さっさと痛みをなんとかしたいなぁ。

 とりあえず、二人の会話から樫木くんがあたしをトイレまで誘導してくれるみたい。うう、面倒をかけてごめんなさい。


「好感度上げてこい」

「っ! サンキュー大悟! 心の友よ!」

「いいから。さっさと行け」

「アイアイさー! そ、それじゃあ、立谷さん、行こうか」

「うう、お願いします」

「オッケーオッケー!」


 樫木くん優しい。迷惑なはずなのに、こんな気軽に面倒見てくれるなんて。いい人ー。


「祐也、立谷さん前見えてないだろうから、手でも貸したらどうだ」

「はっ? て、てててててててて手ぇ!?」

「あ、うん。あたし、涙で全然見えないから、助かるかも」


 涙が止まんなくて、ホントーに何にもわかんないんだよね。このままだと、転んじゃいそう。

 宇崎くん、よく気がつくね。サキちゃんみたいに、面倒見のいい人なのかな?


「お、おおおおおう、わかった! 任せろ!」


 樫木くんの手が、あたしの手をかるく握った。わ、なんか、樫木くんの手、震えてる? ケイタイのバイブ機能みたいに振動してるんだけど。

 も、もしかしてつなぐの嫌なのかな? ただでもトイレに連れて行ってくれようとしてるのに、申し訳ないよ。


「ごめんね」

「い、いやいやいやいや! 謝んなくていいって! むしろ役得だしっ」

「うん? そう、なの?」

「そうそう!」


 すごい勢いで否定したから、つなぐのは嫌じゃないみたい。よかった~面倒を増やしたくないもん。


「伊月、大丈夫?」

「いっちゃん平気?」

「あんまり擦らないようにしなよ?」

「うん、ありがと。ちょっと行ってくるね」


 みんな優しいなぁ。歌ってたはずのサキちゃんも一時中断して声かけてくれるし。


「災難だね、立谷ちゃん。しっかり洗ってきたほうがいいよ」

「うう、ありがとうございます」


 ぽややんとした声でしっかり促された。景さん、心配かけてごめん。


「手を出すなよ」

「うっせ、浩! それじゃ行ってくる」



 この小説がコメディーなことと作者の趣味で、王道が出てきます。

 ありきたりですみません。

 おまけで、下に伊月ちゃんの友人達の会話をのせました。


 ****


サキ「ね、奈々。どうして樫木には威嚇しないの? 伊月に気があるみたいだってことは、わかってるでしょ」

奈々「え~? だってぇ、あの人はそんなの無理だよぉ」

サキ「……そう」

サキ「(虫にすらならないってことか……哀れ樫木)」

結美「ふふふ。奈々ってば正直ね」

サキ「……結美も、何考えてんの」

結美「あら? 私はただ、彼と世間話をしただけよ? その時にもしかしたら、伊月と出かけることも口にしたかもしれないけど」

サキ「……そう」

サキ「(絶対確信犯でしょ!?)」

サキ「(ダメだ、この子たち! 本当に早くなんとかしないと!)」

 

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