そのさん! 「サンタくんには、教えない!」
三話目にして、ようやっとサンタくん登場。
おや、サンタくんの様子が……?
「どうしたんだ、チビ。顔が普段以上にひどいことになってるぞ」
休み時間、廊下でそうサンタくんに呼び止められた。
怪訝そうに見つめるサンタくんをよそに、あたしは笑顔を返した。
サンタくんがなんか言ってるけど、気にしない。機嫌がいいあたしは、ひろ~い心で暴言を流してあげることにした。
「べっつに~なんでもないよぉ」
「……本当に、どうした、チビ。なんか変な物でも拾い食いしたのか」
失敬な。とは思うものの、彼は口は悪いけど、真剣にあたしのことを心配してるみたいだった。
なんだかんだ言っても、サンタくんは実は、優しいんだよね。喧嘩ばっかりしてるあたしのことも、こうして気遣ってくれる。
気苦労をさせるのも悪いし、週末の予定を誰かに言いふらしたいのも少しあって、あたしはサンタくんに話すことにした。
「えへへ~。あのね今度、合コンに行くんだ」
「……へぇ」
なんか、低い声が聞こえたような。サンタくんにしては、いつもより数段低い声だ。
「うん? サンタくん?」
え、えええええっぇえぇ!?
見上げてみたら、そこに鬼がいたんだけど。こ、誇張じゃないよ!
表情や仕草は、いつものサンタくんだ。だけど、その雰囲気が、その、おどろおどろしいというか、禍々しいというか。
あと、表情が浮かんでいないのがまた怖いよ。
「なぁ、チビ?」
「う、うううううううん! な、なに、サンタくんっ!」
わ、笑わないでぇっ! その整った顔で今微笑んでも、怖いだけだよ!
あたしの心の叫び声なんてもちろん聞こえてないサンタくんは、そのまま問いかけた。
「いつだ?」
「な、ななななにがっ?」
寿命とかっ? あたしがサンタくんに〆《しめ》られるまでの、タイムミリットとか? どっちにしても、秒読み間近な予感がするよっ!
「合コンとやらの、だ」
「……へ? ご、合コンの?」
予想外の単語が出てきたから、目を丸くしちゃったよ。まじまじサンタくんを見ても、あたしが確認するつもりで返した言葉を否定する様子はゼロ。うーん、聞き間違いじゃないみたい。
サンタくんの威圧にビクビクしつつ、恐る恐る答えた。
「こ、今度の日曜日だけど」
「場所は?」
サンタくん、なんでそんなこと聞くのかな?
「な、なんで?」
「……」
「……」
「……えっと」
「……」
ど、どうして黙るのぉおおおおお!?
表情と威圧を変えないままで、沈黙しないでほしいよ。
暑くもないのに、あたしの手のひらはサンタくんの迫力に汗をかいてるし。
サンタくんは、にっこりと綺麗な笑顔を見せて、問い直した。
「チビ、場所は?」
「っサ、サンタくんには、教えない!」
その瞬間、サンタくんの表情が固まった。ピシリ、という音が聞こえそう。
嫌~な予感がして、あたしは自分自身のほっぺが強ばったのがわかった。
な、なんだか、サンタくんのにじみ出てる黒い空気が濃くなったような?
「え、えへへ……?」
や、やっぱり笑顔で誤魔化せない。こ、怖いよぉ! 禍々しいし!
もう鬼なんて次元突き抜けて、魔王っぽいんだけど!? もうあたしは涙目だよ!
迫ってくる魔王サンタくんの黒さが、すごく怖い。それだけじゃなくて、身の危険を感じる。
ジリジリと後ろに下がって、くるりと後ろを向いた。
「そ、それじゃあねっ!」
「あ、おいチビっ!」
あたしはサンタくんをおいて、自分の教室に走って戻った。
うん、逃げるが勝ち、だよねっ!
サンタくんが追いかけてくる足音はない。もうすぐ授業が始まるからだと思う。……とりあえずは、だけど。
でも、あの様子だと、会うたびに聞いてくるよね。きっとそのときは、あの魔王状態のまま、だよね。それに、逃げたことについてグチグチ言ってきそう。サンタくんって、根に持つタイプだから。
な、なんとかほとぼりが覚めるまで、逃げ切らないと! 最低でも、合コンが終わるまで!
……だけど、そういえばなんでサンタくん、急に様子変わったのかな? おまけにあんなに聞いてくるし。
ん~……ま、いっか!
***
▼サンタくんはオニに進化した!
▼サンタくんは魔王に進化した!
▼伊月は混乱している!