036
「ふぅ、今回は疲れたな」
「そうね、強敵だったわ。私は何もできなかった」
「マスター、それでもマンティコアを倒したんですよ。命があっただけ良しとしましょう」
酒場で微妙な祝勝会をした後、ジンたちは陸の鯨亭に戻ってきた。
三人は相変わらず同じ部屋だ。フィーネの好感度も結構上がってる筈なので、村を出た頃と今ではフィーネの視線が違う。
なにかねっとりしていると言うか、ぽーっとしていると言うかそんな感じなのだ。
「ねぇ、これからどうするの?」
「とりあえずこれかな」
ピンと一枚のコインを弾く。それはマンティコアが落としたミスリルコインだった。しかもレア確定の特殊コインだ。以前は金ガチャでデュランダルを当てた。
ジン自体が使わないにしても、誰かの装備が最上級のものに更新することができる。
もちろんオリハルコンコインなど上位のコインはあるが、今手に入るのは
ミスリルコインが精一杯だ。
「そのコインも特別なの」
「あぁ、特別な奴だ」
「じゃぁジンが使いなよ。止めを刺したのもジンなんだし」
「そうですよ、マスターが使うべきです」
ベッドに座っていると、フィーネとアイリスがプッシュしてくる。ジンとしては自分はデュランダルがあるので、フィーネ辺りを強化したかったが、オーガを倒していれば金コインは手に入る。迷宮の奥に行けばミスリルコインも落ちるだろう。
「よし、使うか」
「そうよ、使いなさいよ」
「そうですよ、マスター」
ジンがそう言うと二人は大輪の華を咲かせたような笑みを浮かべた。
◇ ◇
「今日から三十階層の攻略か。ジン、それが新しい得物か?」
「本当だわ、でもなんだか禍々しいわね。魔剣かしら」
探索者ギルド、迷宮前で待ち合わせしていたジンの出で立ちに二人は驚いたような表情をした。
ジンの腰にはミスリルコインで出た新しい相棒、魔剣グラムがある。デュランダルのような修復機能はないが、斬れ味、攻撃力ともにデュランダルの倍はある逸品だ。もちろん耐久力も高い。これからの迷宮探索でも十分役に立ってくれるだろう。
「あぁ、先日のマンティコアを倒した時のコインでな」
ジンがそう言うとカインとトトリは納得したような表情をした。
神殿にはフィーネとアイリスと三人だけで行ったのだ。もちろんジンがマンティコアから落ちたコインを使う事は二人に事前に承諾を得ている。
「俺は防具がダメになっちまったからな、また次のガチャに期待だな」
そういうカインの防具は以前の金属鎧に戻っている。金ガチャで出た鎧はマンティコアの一撃を受け止めてくれたが、修復不能なまでに壊れてしまったのだ。
金属鎧も修復に出し、使えるようにしたらしい。
「三十一階層からはトロールなんかも出るからな。気をつけろよ」
「わかってるわ。でもこの短剣でトロールが倒せるかどうか不安よね」
「俺の大剣もなぁ。オーガにはいいがマンティコアには通用しなかったからなぁ」
「私の矢も通用しなかったわ。魔法は通用したけれどね」
フィーネ、カイン、トトリはマンティコアに自身の得物が通用しなかったことを気に病んでいるらしい。
「私の妖精魔法も通用しませんでした」
アイリスもしょんぼりしている。それだけあの戦いは全員の心に残すものがあったのだ。
「三十一階層はトロールも出ると言ってもオーガが中心だ。トロールは俺がやる。今の編成でも大丈夫だろう」
「そうだな、トロールから落ちるコインも気になるよな」
「私はそろそろ新しい武器が欲しいわ」
「私も新しい武器が欲しいです」
カイン、トトリ、フィーネと自身の武器に不満があるようだ。ただオーガと戦うのならば今まで通りだ。問題なく倒せるだろう。
「さぁ行こう」
ジンの号令を元に、フィーネたちは新しい迷宮の底に挑んでいく。
◇ ◇
半年後。ジンたちの装備はかなり変わっていた。
ジンのメインウエポンが魔剣グラムなのは変わっていないが、フィーネはミスリルの短剣を双剣にし、トトリはより上位の精霊樹の弓を手にしていた。カインはミスリルの大剣にミスリルの全身鎧に変化している。アイリスも結界が張れる特殊機能のついた服と、雷を飛ばせるシミターを装備している。
「いらっしゃい、Aランクパーティ〈黄昏〉の皆様」
「あぁ、今日も迷宮に潜らせて貰うよ」
「皆様は一人も欠けることなく四十五階層まで到達したので。もうこの迷宮都市ではトップクラスのパーティですよ」
ジンたちが探索者ギルドに顔を出すと専属になった受付嬢が相手してくれる。ジンたちの要望を一早くギルドに通してくれる大事な役目を請け負ってくれている。
そう、ジンたちはBランク探索者からAランク探索者にランクアップしていた。半年でBランクからAランクへの昇格は異例だ。それだけジンたちが迷宮に潜り、結果を出してきた証左でもある。
「今度こそ五十階層かぁ?」
「あのクソボス倒してくれよ」
「期待してるぜ、〈黄昏〉」
ギルドの他のAランク、Bランクの探索者たちから期待の目を向けられる。
そう、この迷宮は五十階層が最下層ではない。もっと下があるのだ。
だが五十階層のボス、ブラックドラゴンが倒されていない為、他のAランク探索者たちもそこで足踏みしてしまっている。
「お前達も一緒に戦ってもいいんだぞ」
「あいつの相手はもうこりごりだぜ」
「攻撃が通らないんだよなぁ」
「ブレスがなぁ、耐えられん」
ジンが彼らに水を向けるとさっと顔を逸らされた。
ダンジョンボスからは逃げられる。勝てないと思えばボス部屋から逃げ出してしまえば良いのだ。
故に幾つものパーティがブラックドラゴンに挑戦して敗退してきた。
この迷宮は五十階層までだと思われているのだ。
ジンは魔剣に手を添えて前を向いた。
ジンたちなら戦える。勝てる。それだけの努力はしてきたし、連携も完璧だ。
「行こうか」
「応」
ジンが声を掛けると全員が頷いた。
今回の戦いで五十階層を攻略する。その気持ちは全員に共通したものだった。
「右二、トロール。特殊個体。左三、オーガロードもいる」
立派なレンジャーに成長したフィーネは確実に敵の位置を探り当てていた。相手が何であれ、倒して進むしかない。
「オーガロードは俺がやる」
「任せた」
「魔法を放つわよ、みんなかがんで」
「私はトロールをやるわ」
「私もトロールに行きます、マスター」
パーティの信頼を受けてジンは一人で戦う。
左のオーガロードに率いられたオーガ特殊個体たちの軍団にジンは吶喊していく。
オーガロードは大剣を持ち、鎧も装備していた。ジンはそれを気にせず突撃する。オーガロードやオーガたちとはもう十分戦ってきたのだ。どう相手すれば良いかわかっている。
「笑っているな、その笑みを消してやるぜ」
オーガロードはオーガの王と言われるだけあって探索者など相手にならないと思っている。その鼻持ちならない首を落としてやろうとジンは進む。
魔剣グラムは魔力を注がれ、黒く輝いている。オーガタンクとオーガソルジャーを一刀で斬り伏せる。
それでもオーガロードは大剣を振りかぶってジンを踏み潰そうとする。
ジンは半身になり、それを避けてオーガロードの首元に魔剣グラムを滑り込ませる。
斬。
一刀の元にオーガロードの首が落ちる。首から飛び散る返り血を避けながら、三体のオーガが粒子に変わっていく。
コインが三枚、落ちた音がする。一枚はミスリルコインだ。四十五階層まで幾度も見たコインの色だった。
「マスター、大丈夫でしたか」
アイリスが急いで羽ばたきながらジンの様子を見に来る。アイリスが来たと言う事はトロールたちの相手は出来たと言う事だ。
実際彼らの足音が聞こえて来た。
「このコインもガチャに突っ込みたいんだがな」
そう呟きながらジンはかがんでコインを拾った。ドロップアイテムは大剣だったのでアイリスのアイテムボックスに仕舞って貰う。
「さぁ、行こう。もうすぐブラックドラゴン戦だ」
ジンが声を掛けるとパーティの全員が戦意を漲らせて頷いた。
しばらく進めば大きな門が現れた。ドラゴンのレリーフが門には描いてある。
門に手を当てると自然と門が開いていく。
巨躯のブラックドラゴンが身動ぎしながらジンたちを見つめているのがわかる。
口元からブレスの炎が漏れている。
「行くぞっ」
ジンたちAランクパーティ、〈黄昏〉は誰もクリアしたことのないブラックドラゴンとの戦いへ身を投じた。
◇ ◇
これで第一部完です。面白かった、続きが気になると言う方は是非フォロー、☆5つ評価お願いします((。・ω・)。_ _))ペコリ




