第8話 球技大会〜バレーボール編〜
〜藤澤彰人side〜
一方、聖嶺學園の体育館ではバレーの試合が行われていた。
1年C組からは俺こと藤澤彰人が参加していたのだが…
――予選敗退でする事がねぇ……。
俺は内心そう思った。
体育館では、シューズが床に擦れる音やボールが弾む音、やる気に満ちた生徒達の掛け声や応援の声。
熱気に満ちた体育館で、俺は汗を拭いながら観戦していた。
……大好きな天宮さんと。
「あー…何て言うか初戦で終わるとやる事がねぇよな…」
「う、うん。私の所は後で試合があるけど、直ぐに終わった人って見てる事しか出来ないもんね」
「それな〜」
と、何気無い雑談を交わしつつ、俺は周囲の視線に晒されている事に気付き、こっそり周囲の声に意識を向けると…
「あの男子、何て言うんだっけ……ああ、そうそう、C組の藤澤。狡いよなぁ。あんな可愛い子とお近付きが出来るなんてよ」
「ああ、ずりぃ。ルックスは悪くねぇけど、何処か地味だし。ぶっちゃけ『何でアイツが?』って話だよな」
「それに加えて陽キャ女子の望月とも仲が良いって聞いたぞ。両手に花じゃねぇか!マジでふざけるんじゃねぇよって話だよなぁ〜」
耳に届く男子達の会話。そこに含まれる感情が、俺の心をざわりと揺らす。気にし過ぎても仕方が無いとは思ってはいるが、やはり天宮さんや望月眞希と一緒にいるとこう言った嫉妬などを向けられる事もある。
……まあ、所詮は自分で動かない奴等だし、気にしないように心掛けておくか。
──と、その刹那、会場が湧いた。
西側ではバレー、東側ではバスケがそれぞれ行われており、今の音の発生源は男子バスケの方からだった。
其方に意識を向けると男子バスケの試合に出ている幼馴染の葉山颯吾が逆転のスリーポイントシュートを決めたのだ。
「よし!良くやった葉山君!」
「神楽坂君も良い指示だよ!さあ、頑張って行こう!」
男子バスケでは1年A組の神楽坂雅紀が指示を出し、それに運動が得意な颯吾の奴が華麗に相手チームを捌いてシュートを決める。
そうして観戦に来た女子達の黄色い悲鳴、それに手を振って応える金髪イケメンの颯吾。
――相変わらずイケメンは人気者で良いな?
俺は少しの嫉妬を颯吾に向けつつ、天宮さんと会話を再開する。
「何か凄いね葉山君…」
「……そうだな。文武両道でイケメン。女子が黄色い声を上げるのも納得するわ」
1年男子で断トツのイケメンランキング1位。勉強も出来て、運動神経も抜群。身長は俺より高く、人当たりも良い。
神は彼に色々と与え過ぎなのではないかと何度思った事か。
そうしてそのまま、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響き、男子バスケは1年A組で終わり、次は女子の試合だった。
「あ、じゃあ次だから行って来るね!」
「おう!頑張って」
『有難う♪』と天宮さんからニコッと言われ、俺は顔を真っ赤にして見送ると、試合を終えた葉山颯吾と神楽坂雅紀が隣に来た。
「あ、お疲れさん」
「有難う。相手チームが中々手強くて葉山君に頼っちゃったな」
「別に頼ってくれて良いぜ!僕も楽しいからやってる事だしね」
俺達はそんな会話をしながら女子バレーの試合を見る。
次は1年B組と1年D組の女子バレーの試合だったな。
天宮さんと望月眞希が出るからしっかり応援しないと。
△ △ △
さて。女子バレー予選第二試合。天宮さんと望月眞希が出場する1年B組がぶつかるのは、1年A組──その男子達の情報曰く、バレー部員の実力者が率いる強豪らしい。
試合は二五点先取の一セットマッチ制。一チームは六人で、試合中いつでも交代可能な控え選手を六人まで登録が出来る。
見た感じ、天宮さんは控えで望月眞希がメインで出るらしい。
「ナイスサーブ!」
「ドンマイ!」
「ファイト、一発!」
ボールを追い掛け、奮闘する望月眞希。しかし相手チームが中々手強く、若干1年B組が劣勢だった。
「いやぁ、流石に経験者は強いねぇ……」
手すりに持たれ、コート頭上のキャットウォークから試合を眺めつつ、神楽坂雅紀が呟いた。
バレーは経験者か否かで、実力差が開き易い球技だ。サッカーやバスケ程、触れる機会も無いし、トスやレシーブ等、単純にボール捌きが難しい。
一人のミスがそのまま即失点へと繋がる上に、メンバー間で上手くボールを繋ぐ必要があり、チームワークが重要なのもハードルが高かった。
「ふんふん、B組も頑張って入る感じだね〜」
と、颯吾は試合を客観的に分析し、そう言った。
一三対一八。A組はセッターが経験者のようで、少々レシーブが乱れても綺麗にトスを上げたり、攻撃を諦めてボールを返す事に徹したり、不意にツーで打ち込んだりと、攻守の要になっている。
対するB組は高身長の強力なアタッカーがいるのだが、彼女にボールを上手く回せない場面が多く、全体的にわちゃわちゃしていた。
このままだと、押し切られそうだ。
「良し、このまま勝つよ!」
「「「「「いえっさー」」」」」
相手チームは完全に勝利したと思っているのか、余裕の笑みを浮かべ、観客達も1年B組を見限ってA組の方を応援していた。
このままエリート集団のA組が勝利して終わるのだろう。
──と誰もが思っていた矢先の事だった。
「……………」
此処で望月眞希が左手でボールをふわっと上げ、右手でぺしんっと打つ。
サーバの勢いは弱く、軌道も緩やか。確実にネットを超えられるように無難なサーブを選んだのだろう。
相手チームのバックライトが、愚直な程に真正面に飛んで来たボールを意気揚々と受けようとした。しかし――
「……っ!?」
ボールが床を打つ。ピィッとホイッスルが吹かれた。
「おや?」
「何故かあの子、動かなかったよね?」
「……違う」
どよめく会場。細かく分析していた神楽坂雅紀はごくりと唾を呑み込んだ。
「動かなかったんじゃ無い……」
望月眞希が再度、真剣に構える。未だ動揺が収まっていない様子のバックライトを冷徹な視線で射抜き、
「動けなかったんだ……!」
ホイッスルが響くと同時に打った。
──ふわっ、ぺしんっ。一回目と同じくへろへろのふんわりサーブ。
だがそれは、ネットの上を超えた辺りで不意にぐらぐらと揺れ、無秩序な動きで以て、相手選手に襲い掛かる。
ボールは伸ばされたレシーブの腕を躱すように擦り抜け、床を鳴らした。ホイッスルが吹かれる。一六対一八。
――静寂の後、歓声が轟いた。
「――無回転サーブ」
立て続けにサーブを決めた望月眞希は、相変わらずの表情。相手チームには同様の波が広がっていた。
「回転を全く掛けず、空気の流れに任せる事でボールがランダムな軌道を描くサーブだね。あれ、経験者じゃないと取るの難しいんだよね」
神楽坂雅紀はそう言った。
「お、落ち着いて!空中でブレるだけ、しっかりと集中すれば――」
──ふわっ、ぺしんっ。
「えっ!?また私って…くっ!?」
次は何とかレシーブするも、当たりが悪かったのか、ボールは明後日の方向へ飛んで行った。
セッターが慌ててカバーに走るが、間に合わず、カウントのホイッスルが鳴らされた。
一七対一八。
「うわぁ…流石に分かったぞ。えげつねぇ事をするなアイツ」
「あー成る程。敢えて狙って同じ相手に打ってるね」
ミスが続けばら焦りで更なるミスが生まれる。試合に戦術が必要とは言え、標的にされた女子は涙目だろう。
しかし、どんな手を使おうとも勝てれば何でも良い。
それが望月眞希の考えた作戦なのだろうか。
──ふわっ、ぺしんっ。
「任せて!」
堪らず、セッターが動いた。
トスの為にネット際に上がるのでは無く、後衛のまま。手を上げて割り込み、代わりにサーブを受ける。
「調子に……」
バレー部らしくレシーブは綺麗に、仲間が上げたトスに対して自ら跳んだ。
「乗んなぁああぁっ!!」
強烈なバックアタックが放たれる。
それをB組のセンターバックが見事受けるが、ボールはセッターが居る前衛から盛大に逸れて後衛、コートの外へ。
これは流石に取り返されたか──
「上げますっ!!」
刹那、鋭い声が響いた。
宙を舞うボールの下で、望月眞希がトスの構えを取っている。
「レフト!」
望月眞希の声が、煮え滾った空気を震わせる。
ボールが望月眞希の手元に吸い込まれ、指をクッションにして、ふわっと柔らかく打ち上げられた。逆サイド、最も離れた位置の前衛レフトへ。
弓形の軌跡を描き、飛ぶ。
望月眞希達から見て右に集まっていた相手チームの前衛が急いで動き、ブロックに回ろうとするのだが、それより速く、跳んでいる者が居た。
「チェストぉおおお!!」
ネットギリギリの宙先で、レフトアタッカーの手がボールを叩き、そのまま相手チームのコートに突き刺さる。
──一八対一八。同点だった。
「ナイス〜」
望月眞希がそう言い、手を上げた。相手チームや俺達観衆は勿論の事、チームメイトまでもが呆気に取られる。
「………。あれ?えっと……」
「望月さん!ナイッスゥゥゥ!!」
すごすご下されかけた手を、先程スパイクを決めた女子の手が打つ。直後、体育館全体を割れんばかりの歓声が満たした。
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