第六話
聖域。
聖十字、浄化と並ぶ聖教会の神聖魔法。
最高位の結界魔法と言われており、死霊や魔獣などの魔属性に対して相性がいい。
「ありえねぇ」
聖域を使えるやつなんて、聖教会の最高幹部クラスでも数人だぞ。
「バロンって言ったか?あんた何者だ?」
味方か、それとも敵か。もし後者なら確実に死ぬ。
「わたくしは、先ほど述べた通り、ただのしがない何でも屋の店主ですよ」
何者だ?正体が読めねぇ。
「ほら、やっぱりあったじゃんかよ!何でも屋」
ロイドはロイドで浮かれてやがる。
「まぁ、いい。じゃぁ、これだけ教えてくれ。あんたは俺らの味方か?それとも敵か?」
俺は単刀直入に切り込む。
「わたしは、依頼主の味方ですよ」
依頼主か。
「なら依頼するよ。ここにいる敵全部倒して」
ロイドが馬鹿なことを言う。いくら強かろうともうすでに数百体にもなろうという金剛の騎士。それと、大量の魔力を持つ金剛の大王を一人で倒せるわけがない。
「その依頼、承りました。依頼料金は後払いでよろしいでしょうか」
できんのか?いやさすがに無理だ。
「じゃぁ、後払いで」
ロイドは答える。本当に倒しちまったら、いくらすんだよ。依頼料。
「それでは、依頼料銀貨20枚は後払いということで。素材はこちらのほうで頂いてよろしいですね」
「おうっ」
「それでは、依頼遂行いたします」
〝呪祓〟
〝吸魂〟
男がそう唱えた瞬間、鎧の中から何かが抜けていき、そして崩れ落ちた。
金剛の騎士だけでなく、金剛の大王までもが一瞬で討伐されたのだ。
あっけなすぎる。SSS級をこうも簡単に...
「今、何を?」
目の前で起きたことにただ驚きを隠せない。
「ただ、魂を抜いただけですよ」
「すっげーな!でもなんで、あんたこのダンジョンにいたんだ?」
ロイドの疑問に俺は心の中で同意する。
確かに、なぜここにいたんだ?
「それはもちろん、資材調達ですよ。S級ダンジョンともなるといい素材が手に入るんです」
素材調達か。何でも屋らしいな。
「しかし、なぜあんたはここに来たんだ?」
「それはですね...大きな魔力を感じたからですよ」
金剛の大王のことか。確かに、SSS級なら最高の素材なんだろう。
「だけど、その金剛の大王を倒しちまうなんてすごいな!」
ロイドの言うとおりだ。金剛の大王を倒すのはすごいなんてレベルですらない。金剛の大王を単独討伐できる奴なんてこの世界に何人いるのだろうか。
「いえ、私の感じた魔力は二つですよ」
二つ?
ということは、これと同じレベルのやつがもう一体いるってことか?
「私が感じた魔力は二つ。そして、そのうちの一つはあまりにも大きいです。おそらくは魔族クラスでしょう。その大きさはもう片方のがかわいく思えるほどですよ」
そんな...
「しかし、その大きな魔力は、わざとそれを隠しているような感じがするのです。まったく意味が分からない」
まだ、化け物はいるってことか。このダンジョンを抜け出せるのか?
「おっと、こんな話をしているうちに、来てしまったようですよ」
瞬間、恐怖が全身を襲う。金剛の騎士でも、金剛の大王ですらここまでの恐怖は感じなかった。
生物の本能的恐怖。
まさしく死。
「これは...ダイヤモンド・クイーンでしょうか」
バロンがつぶやく。
ダイヤモンド・クイーン?初めて聞いた。
「クイーンってことはさっきのキングよりも弱いのか?」
ロイドが言う。
この空気感でなぜこんなにゆるいんだ?こいつは。
まぁでも、確かに、クイーンとキングだったらキングのほうが強そうだな。
「いえ、それは違いますよ」
バロンが言う。
だよな。
「ダイヤモンド・クイーンは金剛の大王のように金剛の騎士の召喚はしませんが、金剛の大王に比べても魔力量は多く、近距離戦闘においては、無類の強さを誇り、金剛の騎士どれだけいてもかなわないといわれています。クイーンといってもそれは妃ではなく、女王、いや女帝。それが金剛の女帝なんですよ」
衝撃的な発言。
金剛の女帝は金剛の大王より魔力が多くて、近接戦闘でも最強。
だが、金剛の大王ほどの恐ろしさはない。
「バロン、いけるのか?」
俺は尋ねる。
「ご依頼とあらば」
気軽に答えるその何でも屋は、やはり余裕に満ちていた。
「依頼だ。内容は金剛の女帝の討伐。頼んだ!」
「承知いたしました。先ほどとは別料金になりますのでご注意ください」
〝呪祓〟
向かってくる金剛の女帝にバロンは唱える。
「っ?」
しかし、金剛の女帝は止まらず動き続けた。
「なるほど...あなたもでしたか」
バロンは小さな声でつぶやく。
どういう意味だか分からないが、金剛の女帝に攻撃が効いてないことは事実だ。
「面倒くさいな」
バロンがだるそうに言う。
〝閃光〟
バロンがそう唱えると、ビームが発せられる。
それは、金剛の女帝の右腕を貫く。
すごい威力だ。
「もう一発...」
〝閃光〟
今度は左腕を狙う。
〝防御結界〟
今度は腕を貫かなかった。
どういうことだ?今、間違いなく金剛の女帝が魔法を発動させていた。
「やはりそうですよね。あなた、魔族でしょう?」
確信をもって問うバロン。
〝双炎〟
バロンが言った瞬間に金剛の女帝から放たれる。
「モンスターでありながら、魔法を使う。魔族ですね」
確かに、通常の魔獣や死霊は、知性を持たない。ゆえに、魔法を使わない。
複数種類の魔法を操るとなれば、それは知性を持っていなければ不可能だろう。
しかし、バカ強いうえに、知性を持っているなんて、倒しようがないな。
「さて、どうしますかね...」
バロンがわざとらしく思案する仕草をする。
10秒、20秒と時間が経過する。
なぜ、攻撃してこないんだ?
「おびえるのはやめましょうよ」
バロンが金剛の女帝にからかうように言う。
〝双炎〟
「おっと、怖い怖い」
バロンは放たれた双炎を相殺する。
やっぱり余裕そうだな。
「もう面倒くさいのでいいです。討伐しちゃいましょう」
バロンはもういいや、という表情で唱える。
闇に囚われし魂を浄めよ 〝浄化〟
浄化の詠唱破棄。
まばゆい光が金剛の女帝を包み、そして、金剛の女帝は崩れ落ちる。
「神聖魔法を二つも使うなんて、バロン、あんた本当に何者なんだ?」
バロンはおどけたように答える。
「私はただのしがない何でも屋店主ですよ」
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