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ラスト×ラスト the chronicle of samsara【再開】  作者: マナ'
Chapter2 地下の砦 "the Flame of the end under the deepest YOU"
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2/侵食・反転

 刕織は苛立ちを抑えきれないまま通路を進んでいた。苛立ちの原因はなんとも単純。それは、新しく隊に入った焉堂に着替え――下着姿を見られたということであり、これからの模擬戦闘訓練のことでもあった。

「――大体、哀子さんはいつも勝手なんだから」

 愚痴を言っても何が変わるわけでもないが、言わずにはいられない。自然と床を踏む足に力がこもる。

 哀子が身勝手なのは彼女の回りにいる者なら大抵は知っているはずだ。特別作戦行動の作戦構成、また作戦決定権を持っている哀子は時折不可思議な作戦を実行する。

 今回も、と刕織は舌打ちをする。

 哀子の<力>による暗示。哀子は焉堂の<力>を測るために理性のリミッターを緩めたのだ。哀子いわく、そんなに単純に説明できる<力>でないらしいのだが、詳しいところは刕織には分からなかった。

「焉堂……アラシ……」

 名を口に出してみる。

 森の中で倒れていた記憶喪失の不思議な少年。ありえないパーソナルナンバーを持つイレギュラー。彼に関する情報は名前以外ほとんどない。彼は何なのだろう、と思考をめぐらしてみても答えは見つからない。

 刕織は彼に会った時から妙に気になることがあった。それは焉堂に対するものでなく、自分のもの。歩く速さを緩め、胸に手を当ててみる。

「なんでだろ」

 なぜこんなにも、何かを忘れている気がするのだろう。



 †



 第一多目的訓練場。そこはヴィレの訓練施設の中で最も広い部屋だ。部屋の壁は合金で、ところどころに装飾されたアルファベットで構成されるヴィレのシンプルなロゴマークが刻まれていた。天井の端の方には、超硬度の強化ガラス張りの部屋が突き出すように位置している。ここがモニタリングルームで、この訓練場に設置してある様々のセンサーを用い、訓練を分析することができる。センサーのほとんどは簡単なものであるが、組み合わせることでより正確な情報を取ることができるのだ。

 そんな訓練場のモニタリングルームには哀子と修維、そして綾乃がスタンバイしていた。修維は奥の方のコンピュータ画面に向かっている。綾乃は綾乃で、落ち着きなくうろうろしていた。そして、哀子はガラス越しに厳しい表情で下界を見下ろしていた。

 訓練場にある左右の入り口には、それぞれ刕織と焉堂が立ち、お互いに向かい合っていた。

 刕織は哀子のいるモニタリングルームの方へ目をやった。すると、哀子の視線は焉堂の方に向けられていた。刕織も焉堂の顔色をうかがう。

 これといった感情が読み取れない。無表情とは言えないが、希薄な雰囲気を持った表情。無警戒な表情にも思えた。

 しかし、その立ち姿に刕織は驚いた。はっきりとはいえない、ただその立ち姿には隙がほとんどないようだった。それに気づくと、焉堂から殺気のようなものが圧力として伝わってくる。刕織は思わず半歩足を引いた。

 刕織には、焉堂のその姿が初めて戦う新人のものには見えなかった。哀子の暗示が早速効いているのかもしれないが、それだけでは説明のつかない気迫が感じられる。刕織はほぼ無意識のうちに、腰のホルスターの銃に手をかけていた。

 そこで頃合いを見計らってか、天井に備え付けられたスピーカーから哀子の声が響いた。

「さて、お互いの闘志も充分なようだな。そろそろ始めよう。短時戦だ。そうだな……。十分もあれば充分なサンプルは取れるだろう。片方が降参するか、または降参すらできなくなるか。それとタイムアウトで終了だ。いいな?」

 二人は静かに頷く。

「よろしい。ならば始めよう。新崎」

「はいっ」

 名前を呼ばれ、刕織は返事をし、哀子の方を見た。

「B装備の使用を許可する」

「え……? あ、はい……」

 刕織は少し戸惑った。B装備。それは<力>に基本的に関係しない一般の殺傷能力を持った武器。刕織のマグナムもそうであるし、刀のようなものを持つヴィレ所属員もいる。ABCとある装備の中では並のものだが、まさかこの場で使用許可が出るとは、刕織も予想していなかった。

 哀子の言った「本気で」という言葉が重みを増してくる。

 刕織は無言でホルスターから銃を引きぬいた。


「レディ、」


 視線をしっかりと焉堂に向ける。

 動きの一挙一動を見逃す事のないように。相手が誰であろうと、あくまで本気でやれと言われた実践訓練だ。負けるわけにはいかない。


「ファイッ――!」


 そう、本気でやる。


 †


 不思議と戸惑いや緊張のたぐいはなかった。なぜなのかはわからない。あるいは、哀子さんにまた何かをされたのかもしれない。でも、それだけでない気がする。それだけでないと確信している自分がたしかにいた。

 初めての闘い? いやそんな心地はしない。

 脳が記憶していなくても、体が何かを知っているようだ。

 不気味といえば不気味な感覚だ。自分の体なのに自分でないような感覚なのだから。誰か別の人間に意識が乗り移ってしまったかのよう。

 ……、この感覚に従えば闘えるような気がする。

 前を見る。拳銃を手にした刕織の姿。

 敵はただの少女。こんな、訳の分からない感覚に身を委ねてしまってもいいのだろうか。


 いいに決まってる。相手が誰であろうと関係ない。


 ……関係ない? ばかな。誰がそんなことを。

 そこで俺はふと気づく。思考しているのは紛れもない自分だということに。

 戦闘の開始を告げる声とともに、俺が気づくより早く足は地を蹴っていた。


 †


 気は抜いていなかった。しかし、気づいた時には先をこされていた。

「え……?」

 心のどこかで、本気になりきれていなかった。あの闘気を感じてなお、相手が初心者であるという先入観が残っていたのだろう。

 焉堂が走りだし、広くあった両者の間は、すでに半分ほどに縮められていた。

 焉堂が<身体強化(アンプリファイ)>を使用しているのは明白だった。そうでなければ、あんなに瞬発的なスタートダッシュはできない。

 刕織はすぐに冷静さを取り戻し思考を働かせる。退かず、前へ出た。

 同時に拳銃を構え、乱雑ではあったが引き金を引いた。走りながらでろくに照準も定まっていなかったし、咄嗟のことだったので腕への負担は大きかったが、それは刕織も<身体強化(アンプリファイ)>を使用し相殺する。

 轟音とともに射出される銃弾は、発射ぎりぎりのところで刕織の<念動力(テレキネシス)>により角度が補正される。焉堂へ襲いかかる弾丸。しかし、それを焉堂は最低限、身を軽く捻る動作で避けた。

 ただし、刕織もそれくらいは想定している。今の焉堂でなら楽に避けられるだろうと。

 お互い動きは止まらない。

 直線的な動きではあるが、閉鎖された空間の中、真向から向かっていくのが一番効率がいい。

 二人の間はすぐに失くなる。

 刕織は瞬間的に足に<力>を集中させ跳んだ。

「ハァ――ッ!」

 勢いをそのままに、体を捻り、回し蹴りを繰り出す。刕織は確かに、その刹那、焉堂の反応、そして対応が遅れたことを把握できた。このまま速やかに蹴りを叩きこむ。躊躇はいらない。

 しかし、そう素直にことは進まなかった。足は確かに焉堂にあたったかのように思えた。だが、それは錯覚だ。当たった感触は人のものではない。大量の綿のかたまりにでも足を踏み入れたかのような感覚。蹴りは焉堂にあたってはいなかった。寸前で見えない何かに受け止められていた。

「きゃっ!」

 反動もない包み込むような感覚を予想していたはずもなく、刕織は体勢を崩した。そこに、横からの見えない力が刕織を襲う。

「――――ッ!」

 体が吹き飛ばされ、数メートル床を転がった。激しく体が打ち付けられ、あちこちが痛む。それでもなんとか立ち上がり……しかし、息をつく暇もない。追い打ちをかけるように龍のように細く伸びた炎の渦が刕織に迫り来る。

「……女の子相手でも容赦無いってことね。サイテー」

 言いつつ、刕織は炎の龍に向かって手を伸ばす。

「そちらが不可視の壁ならこちらだって。……<エア・プレス>」

 ずん、と低い音が響く。刕織の手のその先の空間が、炎を受け止める。<|念動力テレキネシス>による空間障壁。物理的な干渉である限り、そう簡単には突破されない、リオ自慢の防御技。しかし、それは単に防御するだけのものではない。

「……からのソニックブーム!」

 もう片方の手の拳を突き出す。今まで炎を受け止めていた空間が衝撃波となり、炎を四散させる。衝撃波の力はそれだけでは収まらず、炎を先にいた焉堂へと達した。しかし、その衝撃波が焉堂を吹き飛ばすことはなかった。やはり、そこには見えない壁がある。ただ、今の衝撃波に刕織は手応えを感じていた。先程より、壁の厚さが減っている――。

 刕織は再び銃を構えた。今度はしっかりと照準を定め、引き金を引く。轟音とともに、三発の銃弾が続けざまに発射される。

 一発目は焉堂に当たる寸前で壁に阻まれ床に落ちた。続いての二発目は一発目とは異なり、焉堂に当たることはなかったが壁のあるはずの場所を通り抜けた。

「行ける――!」

 三発目に<力>を向ける。弾道をわずかに下へ向ける。

 銃弾は壁に阻まれることなく、焉堂の右腿を貫通した。焉堂は膝をつき、静止した。

 刕織は、訓練で許可されているとはいえ人を撃ってしまったことに不快感を覚えていた。致命傷でないことは分かっていても、焉堂の足から流れる血を見ると、なんだか息苦しかった。

 焉堂は動かない。顔を俯け、動かない。

 刕織はそんな焉堂がつい心配になり、様子を見ようと、一歩だけ前へ出た。


「……え?」


 変化を感じのがすことはなかった。

 明らかに空気が変わった。焉堂を取り巻く空気が。なんだろう、この何とも言えない嫌な感覚は。

 背中に悪寒が走る。これはまずい、なにかまずいことが起きると刕織の直感が告げていた。一歩出した足を退く。さらに一歩足を引いた。

 予感は当たった。

 ずるずると焉堂の影が広がっていた。照明がつくりだした黒い影が、生き物のように蠢き、床を侵食していく。

 目を凝らす。よく見るとそれは影ではなかった。平面的であったそれは、波立ち立体的に形を作り焉堂を取り囲んでいく。接触した床がわずかに削り取られている。

 黒い炎、漆黒の焔だ。黒炎の繭が焉堂を包み込んでいる。

「なに、あれ……」

 見たことのない<力>。例のオリジナルのものだろう。見たことのない……? いや、見たじゃないか。逃げ惑う<ハイテル>を灼き尽くした――――。

「――――ッハ」

 繭が爆ぜた。四散する黒い炎。

 咄嗟に刕織は<エア・プレス>による空間障壁を展開。それで防げるはずだった。

「え……え……?」

 しかし、そうはならなかった。炎はそこに何もないかのように刕織に襲いかかった。

「!」

 声も出せず、黒い炎に視界を覆われ、刕織は気絶した。



 †


「やりすぎだよ、お前」

 その声を耳にし、俺の視界は暗転した。

少しだけ遅くなりました2-2です。

今回は戦闘シーンとなってますが……いやはや。時間がかかった。

模擬戦闘とはいえ、哀子さんの手前、本気のバトルです。少し理由もありますが…。哀子さんは手抜きが嫌いなのはたしかです

此処から先は完全書きおろしとなっております(´・ω・`)


さてと、そろそろ本題を進めなくては、話が停滞するんですが、もうすこし、ね。


感想/批評お待ちしてます。

誤字脱字などありましたら、ご報告いただければと思います。

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