追影の詩 中編
十年前の旅路を辿り、再び平原の街ドゥエチタへ向かう2人。
そこは勇者一行が初めて「正体の見えない敵」と向き合った場所でした。
英雄譚の裏で起きていた、事件の記録をお楽しみください。
平原を歩いていると街が見えてきた。
一度、足を止め当時の記憶を辿る。
当時と比べると、あの高く聳え立っていた壁も無くなり、今となっては何処にでもある街になっている。
【平原の街ドゥエチタ】
『…あの不細工な壁は取り除かれたんだな』
『当たり前でしょ?当時でも異様な光景だったんだもの』
『確かにな、あの壁…いや、檻って表現の方が近いか』
『檻…そうね』
いつもよりテンション低めのディア…まぁ無理もないか。
『お前にとっても、辛い思い出だからな…無理しなくていいんだぞ』
『大丈夫』
短い返事を聞き終わると、オレはディアの背中を強めに叩く。
『らしくないぜ。さぁ、行こうかドゥエチタに』
そう言ってオレ達はドゥエチタに向かって、再び歩き出した。
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街の一画に兵士たちが集まっていた。
状況を確認しようとオレ達が近づくと、街の警備を担当している兵士が話しかけて来た。
『御一行。今日出立のご予定でしたが、すみませんが今しばらくお待ちいただいて良いですか?』
『ちょっとそれは…』
『はい!かまいませんよ。何でも協力します』
オレが断ろうとした瞬間にイルが答えてしまった。
『おい!いいのかよ?こんな所で油売ってる暇ないだろ』
『大丈夫です!困ってる人は助ける。それが勇者です』
『確かに…こういうのが、後に語られる勇者の逸話になるんだ』
イルの口から出た【勇者】の言葉に反応して、ノビルが口を挟んでくる。
『メネス!オレの勇姿をしっかりメモッとけよ。そうだな…「誰もが黙りこくる中、一人の男が声を上げた。その名はノビル!後に勇者と呼ばれる男だった」どうだ?』
おいおい…「どうだ?」って、創作が過ぎるだろ。
最初に声を上げたのはイルだし、お前は腕組んで難しい顔してただけに見えたんだが…。
『そうね。できる限りの協力をしましょ』
マドレさんは、そう言うと犠牲者の近くで屈むと、観察を始めた。
『胸のあたりには大きな傷…顔色は真っ青…まるで生気を吸い取られたような感じに見えるわね。この人って兵士よね?顔色が悪いのは前から?』
『いえ、どちらかと言えば健康的なヤツでした。そういえば最近、少し調子が悪いと言っていましたが、笑いながら言っていたので特に気にしてませんでした』
『…そう。最後に見たのは?』
『確か昨日の夜です。宴会にも出ていました』
『なら死亡したのは昨日の夜から今日の早朝に掛けてね。何故、他殺と断定されたの?』
『はい、それについては、状況から自殺の線が無いこ事と、胸の大きな傷が理由です。これについては、今まで犠牲になった被害者に共通する事柄になります』
マドレさんは顎に手を置くと少し考え込んだ後、ボソリと呟いた。
『この傷…外側からつけられたと言うより…』
呟きが聞こえてしまったオレは、恐る恐る遺体を覗き込んだ。
確かに…この傷には違和感がある。
上手く表現はできないんだが、傷口が外に向かって開いている様に見える。
『どうして人の犯行だと判断したの?魔物の仕業って線はないのかしら?』
『魔物の仕業で無いことを判断した理由としては、
この高い壁にあります。最初の犠牲者が出る前から魔物の侵入を許した記録はありませんし、犠牲者が出てからはさらに壁を高くしましたから…』
オレは、思わずこの街をグルリと覆う高い壁を見あげた。
恐らく、この壁は魔物の侵入を防ぐ意味と、犯人を街の外に出さない意味があるんだろうな。
壁の増設された部分は、内側に尖った丸太が配置されている。
まるで檻だな…オレの目に、その光景は異様に映った。
『なるほど、でも、高い壁があるから、魔物の侵入を許してないと決めつけるのは危険と感じますね』
どういう事だ?魔物の侵入を許した記録がない以上、魔物の犯行じゃないんじゃないか?
オレの疑問を察したかの様に兵士が口を開いた。
『壁には魔法防壁の結界も施してありますし、魔法ですり抜けようとすれば警報がなる仕組みになっているのですが…』
兵士が困惑の表情でコルトに視線を向けている。
『はい、そのような話ではありません。むしろもっと単純な話です。人の体内に潜んで侵入した可能性があると言う話です』
"!?"
そこに居合わせた全ての者が驚きを隠せずにいた。
人の体内に潜む?そんな魔物がいるなんて…
『皆さんが驚くのもわかります。ですが、スライムと言われる魔物の中には、希少種ではありますが、動物に寄生して生命力を奪う、パラシタと言う種族が存在するんです』
『スライム…あのドロドロした気持ち悪い魔物か?弱いし斬り甲斐がなくて好かん魔物といった印象だがな』
ノビルの好みはさておき…確かにスライム何てオレでも倒せる低級な魔物だ。
いくら希少種だからって、人間に寄生する何てできるのか?
頭の中の疑問符と戦っているオレを尻目に、コルトが続ける。
『皆さんの知っているスライムなら、人間に寄生して生気を奪う何てできませんが、パラシタは取り憑いた生物の能力を一部ですがコピーする能力があると言われていますので、何らかのスキルを身につけて人に寄生したと言う可能性は充分あると考えられます』
『しかし…そのスライムの仕業と言う確証もないですよね?推測では我々は動けません』
兵士の言う通りだ…疑わしいだけで動いていたら兵士も疲弊するし、市民にも疑心暗鬼が広まるだろう。
『その通りです。せめて魔物の痕跡があれば…』
『それなら、一つ試してみたい事があるのだけど』
マドレさんは、そう言うとディアに視線を向けた。
『ディア。アナタにこの前あげた銀翼蝶の鱗粉から作った化粧品持ってる?少し使わせて欲しいのだけど』
マドレさんからの唐突な申し入れに、ディアは何とも言えない顔で、懐からおずおずと小瓶を取り出した。
何でそんなにガッカリした顔してんだ?
『安心なさい。全部は使わないし、また作ってあげるわよ』
優しく言いながら、マドレさんは渡された小瓶から少量の粉を手に出すと、目の前の遺体に振りかけた。
キラキラと振りかけられた粉は、遺体の傷に触れるや否や、その輝きを失いドス黒く変色した。
その異様な光景に納得したようにマドレさんが頷いた。
『この反応は間違いなく魔物の痕跡ね。銀翼蝶の鱗粉には魔物本体や、魔物の残留物に反応して黒色に変色する特性があるの』
『それは興味深い。その話もっと詳しく教えて下さい』
『綺麗で人体には無害だから、化粧品に使われる事が多いのだけど、元々は見失ってしまった魔物の足跡や痕跡を辿るのに使われてた薬なの…って、この話は後でね』
『これは失礼しました。興味深い話でしたので、つい』
「つい」じゃないよ!まったく…知りたいという欲求に勝てないコルトに心の中でツッコミを入れる。
『つまり、魔物の侵入した記録は無いが反応が出たってことは、コルトさんの言ってるスライムの可能性もあるって事になりますね。メネスさんもそう思いますよね?』
確かに、そういう事になるな…って何故それをオレに聞く…
ジト目でイルを見ると、既にコルトとマドレさん、ディアを呼んで会議を始めている。
聞いてきたのに、それはヒドくないか?
そんなオレの視界の端にノビルが写った。
相変わらず腕を組んで難しい顔をしている…その姿に、何だか切なさを覚えたのは気のせいにしておこう。
『コルトさんの言っているスライムかは定かではないですが、魔物の仕業の可能性が出てきた以上、ボク達の出番です。全力で解決しましょう』
イルの力強い言葉に、「おぉ!」っと兵士たちから感嘆の声を上げた。
その光景に思わずオレの口が開く。
『やっぱりオマエは…』
しかし、何故かオレはそれ以上言えずに言葉を呑んだ…
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『あの時だったな…』
街の前で立ち止まり、ふと呟く。
『何が?』
ディアが不思議そうな顔でこちらを見ている。
『いや、【勇者】ってのはこう言う物だってのを自覚した瞬間を思い出したんだよ』
『あの討伐隊に選ばれた時点で全員【勇者】だと思うんだけど…アナタこの街に着くまでに気がつかなかったの?』
言葉にトゲがあるぞ…テンション低かったから心配したが、どうやらいつもの調子に戻ったみたいだな。
『それはそうなんだがな。この街で改めてオレの中の勇者像ってやつを認識したと言うか…説明が難しいな』
『勇者像かぁ…』
ディアは、懐から小瓶を取り出すと、中に入っているキラキラした粉を見つめる。
『まだ持ってたのか、「物持ちが良い」のはオマエも同じゃねぇかよ』
オレのツッコミを無視して、ディアは小瓶を見つめ続けながら呟いた。
『…私にとっては、やっぱり討伐隊に参加した13人全員が【勇者】ね』
『13人って所以外は同意だ。異論はねぇよ』
『相変わらず、頑固と言うか…まったく困った人ね』
頑固も何も、それが真実だろ。
事実、オレは【あの時】だって何もできなかったんだから…
そう思いながら、オレはドゥエチタの街に十年ぶりに踏み入った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この街で起きた事件は、単なる殺人事件ではありませんでした。
あの日、何気なく交わした言葉や何気ない笑顔には、十年経った今だからこそ気づける意味があります。
それもまた、メネスが歌い継いでいる「英雄の詩」の一部なのかもしれません。
次回、「追影の詩 後編」もよろしくお願いいたします。




