第17話 今日は、いい日にしてもいい気がした
「……」
私はスーパーにいた。
入口の自動ドアが開いて、冷たい空気が流れる。
ひんやりした風が、いつもより心地よかった。
特に理由はないけれど、なんとなくそう思った。
「……今日は」
少しだけ考えて、カゴを手に取る。
「……いい日にしてもいいか」
根拠はない。
けれど、そういう日もある。
もやしを手に取る。軽くて、いつも通りの重さ。
「……おまえは通常運転だな」
カゴに入れると、音は小さくて安心する。
売り場を少し歩く。
おにぎり、デザート、惣菜と視線だけが動く。
「……」
ひとつ手に取る。少しだけいいやつ。
普段なら戻すけれど、そのまま持ったままにする。
「……まあ」
「……今日はいい日だしな」
少し迷ってから、カゴに入れる。
こういうのは、だいたい後悔する。
でも今日は、後悔してもいい気がした。
戻す理由が思いつかなかった。
レジを通して、袋に入れる。
持ち上げると、いつもよりほんの少しだけ重い。
帰って、テーブルに置いて、食べる。
「……うん」
一口食べて、もう一口続ける。
「……いい日だな」
思っていたより、ちゃんと美味しかった。
理由はないけれど、悪くない。
スマホを見る。残高が表示される。
「……」
少しだけ減っているのを確認する。
「……まあ」
「……いい日だったしな」
私は小さくうなずく。
「……まだ、いけるか」
残りは、千円ちょっとだった。




