運命の日
「特設隊中央支部エリッサ・マクスウェル中尉に敬礼!!」
東郷さんの掛け声で俺たちは敬礼した。みんながエリッサの死を悲しんでいた。エリッサは二階級特進により准尉から中尉となっていた。
あの時、エリッサが黄金のヴァリアント・モンキーを食い止めてくれたお陰で被害が少なく済んだそうだ。
そんな活躍をしたエリッサを俺はみすみす死なせてしまった。あの時、俺がもっと早く敵の接近に気づいていればエリッサは死なずに済んだのに。
梨沙も東郷さんも俺のせいじゃないと言ってくれたが、そんなに簡単に割り切れるはずがなかった。
エリッサから本当のことを聞かされて俺は戸惑っていた。エリッサが同じ小学校にいたことも俺に憧れていたことも全然知らなかった。
エリッサ自身が隠していたこともあるが、俺が如何に周りを見てないかが分かってしまった。
「良太」
すると、俺の後ろから声が聞こえた。
「梨沙か。悪いけど、今は1人にしてくれ」
「まだ、気にしてるの?」
梨沙は少し離れた所から心配している。
「あれは良太のせいなんかじゃないの良太もほんとは分かってるんでしょ?」
分かっているよ
「それでも気にしてるのはエリッサの過去を聞いたからだよね?」
全然知らなかった
「私だってエリッサのこと何にも知らなかったよ?良太だけじゃないよ」
でも、俺は俺の不注意で……
「良太はよく闘ったよ。私が保証する」
その時、俺の中の何かが爆発した。
「何なんだよ!! さっきから! 俺のこと何にも知らないくせに勝手なこと言うなよ!!」
つい、かっとなってしまった。言ってしまったあとすぐに後悔した。梨沙は俺を励まそうとしてくれてただけなのに。
けれど、梨沙は
「知ってるよ!? 良太のことなら何でも知ってる! だってずっと一緒にいる幼馴染みじゃん! だから良太が今抱えてることは分かってるよ! 分かってるよ……」
咄嗟に俺は自分を殴りたくなった。梨沙とは幼馴染みで俺の好きな人なのに。
「もう……知らない!!」
そう言うと梨沙は何処かへ去っていった。
「はぁ……」
その場に座り込み、頭を抱えた。
「良太……。その、盗み聞きするつもりはなかったんだ……」
「えぇ……。ここに来たらたまたま聞こえてしまって……」
俺が座り込んでると、マックスとライラが申し訳なさそうに出てきた。
「いや、いいよ……。なんか変なとこ見せちゃったな…」
俺が落ち込んでると、2人も励ましてくれた。
「良太。良太の気持ち分かるよ。僕も前に大切な人を亡くした。その時、ライラが励ましてくれたんだ」
「梨沙も励ましてあげてたのよ? 叔母様を亡くしているとは東郷さんから聞いているけど、今1番良太君を理解してるのは彼女じゃないかしら?」
「分かってるよ。分かってた……のに。ついかっとなってしまった」
「良太1ついいかい?」
すると、マックスが俺に聞いてきた。
「なんだ?」
「僕はエリッサ君とは1度しか話してないからよくは知らないよ。けれど、彼が死んで悲しいと思ってる」
マックスは静かに話してる。
「良太は彼とは付き合いが長かったから悲しみは深いだろうけど、梨沙も同じだよ。梨沙も彼の死を悲しみ、けれど自分より悲しみの深い良太を想って必死で励ましたはずだよ」
俺はハッとした。なんで梨沙も悲しんでると思わなかったのだろう。そんな簡単なことにも気付かなかったのだろう。
「今彼女を慰めてあげられるのは君だけだ。彼女のとこへ行ってあげなよ」
俺は立ち上がって走りだそうとした。でも、その前に
「マックス、ライラ! ありがとう!!」
2人に感謝を伝えて俺は梨沙の元へと走った。
「どういたしまして。強くなれ良太。君は僕のライバルなんだから」
マックスとライラは目を合わせてその場を去った。
「……良太のばかぁ。もう知らないぃ……」
私は自分の部屋で泣いていた。エリッサとはそこまで仲良くはなかったけど、目の前で死んだ時すごく悲しかった。
私もエリッサの真実を聞いた。全然知らなくてすごく驚いた。
けれど、良太の方がすごく驚いてるし悲しんでる。だから、私は良太の励ました。
でも、突き返された。良太が私のことを分かってくれなかったから私も言い返してしまった。私のことを何でも分かってくれてると思い込んでいた。
「そうだよね……自分の気持ちを伝えてないんだから伝わる訳ないよね……」
私は小さい頃から良太のことが好きだった。他人のために一生懸命でそのくせ、夢中になると自分のことを疎かにする。
そんな良太を見てると私が守らなきゃって思い気が付いたら好きになってた。
「怒ってるかな……良太」
その時、突然部屋のドアがノックされた。
「は、はい!」
「梨沙! そこにいるのか!?」
「りょ、良太!?」
ノックした人物はさっきまで考えていたその人だった。
私は慌てて涙を拭い、ドアを開けた。
「ど、どうしたの?良太…」
良太は私と目を合わせると勢いよく頭を下げた。
「ごめん!! さっきは悪かった! 梨沙のこと考えずに怒鳴ってごめん!!」
「ちょ、良太!? そ、そんな別にいいよ! 私だって悪いとこあったし…」
「それでもごめん! 俺、自分のことしか考えてなかった!」
「と、とりあえず中に入って!? は、恥ずかしいから!」
見れば騒ぎを聞きつけて人が集まっていた。
「ご、ごめん…」
「う、うん…」
ひとまず良太を部屋へ招き入れ、事情を聞いた。
「で、どうしたの? ……ってさっき言ってたね」
「うん。梨沙のこと考えずにさっきは怒って悪かった…」
「もういいよ。私も悪かったから」
「そんなこと! ……でも、ありがとう。俺を励ましてくれて」
「う、うん」
私は良太にありがとうと言われ、少し嬉しかった。
「俺さ、エリッサのこと何も知らなかったしむしろあいつを嫌ってしまってた。けど、あいつは俺に嫌われていることを知ってても俺に憧れていたんだな」
「うん…」
私は静かに良太の話を聞いていた。
「それに、エリッサが死んで悲しいのは俺だけじゃないってことを忘れてたよ。梨沙もマックスもライラも東郷さんも支部のみんなが悲しんでることを」
「そうだよ。良太だけじゃない。みんな悲しいよ」
「そうだな。それなのに俺を励ましてくれてありがとな梨沙」
そう言うと良太は私の頭を撫でてきた。
「ちょ、ちょっと! 良太!? な、何してるの!? は、恥ずかしいからやめて!?」
けれど、良太は私の頭を撫で続けた。私は顔を赤くして俯いた。
しばらくすると、良太が撫でるのをやめてくれた。
「もう……撫ですぎだよ」
「悪い悪い。ただ、こうしてたかったから」
私はその言葉にまた顔を赤らめた。
「さ、さぁ!! もう用がないんなら出てった出てった!! 女の子の部屋に長居するもんじゃないよ!?」
「そ、そうだな! もう出るよ!」
私は良太の背中を押して部屋の外に出した。
「じゃあね良太。また明日」
「ああ。また明日」
そう言って私がドアを閉めようとすると、
「梨沙。今日はありがとうな。色々助かったよ」
良太がそんなことを言ってきた。
「うん!」
そう言って私は静かにドアを閉めた。
その後、私がベッドの上で悶えたのは言うまでもない。
エリッサの死から約1ヶ月。俺たちは悲しみを乗り越え、ヴァリアント・モンキーの殲滅作戦に励んでいた。
マックスとライラは正式に特設隊へ加入した。マックスが隊長、ライラが副隊長のチームは瞬く間に順位をあげて俺たちのチームと並んだ。
その日はあいにくと雨だった。それに加え、俺のチームでは欠員が出ていた。
少し前の任務で美咲が、足を負傷ししばらく任務に参加出来ない状態だった。
美咲に代わり俺のチームに加えられたのは美咲の後輩、福本花織だった。
俺と梨沙が支部内を歩いていると、突然サイレンが鳴り出した。
オペレーターから事情を聞くと、今までに見たことのない大型のヴァリアント・モンキーが発見されたとのことだ。
その大型種の殲滅作戦に俺とマックスの合同チームが割り当てられた。
そして、俺たちはその作戦を受けてしまった。
参加しなければ、あんな悲劇は起こらなかったかもしれないのに。
さぁさぁ!終わりに近づいてしまいました!
いや〜前回は梨沙の出番なかったですからね〜!
今回梨沙の萌えシーンを見せることが出来たでしょうか?
この話に関しては多くは語りません。
ただ言えることはここから展開が速くなります。
次回は謎の大型種登場です。楽しみにしてください。
ここまで読んでくれた方どうもありがとうございます!!
次回も是非読んでいただきたいと思います!