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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
二話 ~疑心暗鬼とシスターさん~
20/91

サーたん宗教団体

「こ、ここここがサーたんのいる孤児院ですな!?」


「サーたぁぁぁん!! 我らが女神サーたぁぁぁん!!」


「デュフフ……カメラメモリは十六ギガバイト……撮りますぞぉ!! 観賞用、保存用、実用用、撮れるだけ貯め撮りしますぞぉぉぉ!!」


「…………何これ?」


 目前に広がる異様な光景。それは、一人一人がキッショい見た目のオタク集団の塊だった。ギャーギャーと猿山の猿のように喚き散らし、中には第二形態か何かに変身してしまいそうな程にトチ狂っている奴までいる。


「おいウニ助よ。これは一体どういうことだ? さっきまでこんなキモオタ集団いなかったよな?」


「えーと……それが僕にも分からないんだよね。僕もさっきまで部屋で読書してたんだけど、なんか外が騒がしいと思って見てみたらこの有様だったわけで……」


「そ、そうなのか。でもこりゃぁ只事で済む話じゃねーぞ?」


 人数からして何十……いや、百人近くはいるように見える。しかもむさ苦しい見た目の奴らしかいないため、ずっと見ていると徐々に吐き気がしてくる。


「何何? 何か騒がしいと思ったら、一体どういうことよこれ?」


 オタク景色に呆気に取られていると、さっきまで喧嘩に明け暮れていたのであろう、泥まみれになっているミーナとリースも合流してきた。


「おうミーナ……俺達も今駆けつけたところなんだけどよ。何故こうなったか原因とか知ってるか?」


「原因って……そんなの知らないわよ。でも他に分かったことはあるけど」


「奇遇だねミーナ。僕も一つだけ分かったことがあるよ」


 幼馴染組が俺を取り残して以心伝心する。まぁ、俺も一つだけ分かってることはあるんだが、きっとそれはこいつらが考えていることと同じだろう。どう考えてもそれ以外に考えられない。


「ウニ助さん? その分かったこととは?」


「えーとね……それにはまずお母さんのことを先に説明する必要があるんだよね」


「お母様ですか? それってどういう……?」


 別に話すことでも無かったが、こんな状況になってしまっては話す他ないだろう。特に隠すことでもないし、いずれ知ることになることだろうし。


「実は私達のお母さんってね。表では医者として働いてるんだけど……もう一つの顔を持っているのよ。所謂、裏の顔ってやつね」


「裏の顔だと? まさか国家を握り潰せるような軍事組織を――」


「アンタは黙ってなさい戦闘馬鹿。お母さんが、んな凶悪な仕事に関わってるわけあるかっての」


「戦闘馬鹿だと? 貴様に言われたくないなゴリラインパクト」


「誰がゴリラインパクトよ! ぶっ潰すわよ傘オタクが!」


「おい、誰かこいつら退場させろ」


 短気組がいたら話が進まねぇよ。たったかストーリーを進めたいんだから邪魔をしないでほしい。


 ウニ助が二人を宥めているところで、俺はオタク達を目にミコさんに説明する。


「その裏の顔ってのが、非公式アイドルってやつでね。通称『サーたん』って呼ばれてるんだけど……」


「アイドル!? ちょっと待ってください旦那様! お母様って一体何歳なんですか!?」


「……自称、二十一歳と本人はいつも言ってる」


 絶対にそれはあり得ないが、他人がそう言われたら騙されてしまうだろう。それだけ沙羅さんの見た目は怖いくらいに若々しいから。でも実際は本当に何歳なのか、知る者は誰一人としていないという……。


「で、この『サーたん』ってのが凄い人気らしくてな。誰にでも優しい女神だの、神に仕える信徒の一人だの、後から後から尾ひれが付いてって超絶人気アイドルに祭り上げ立てられたってわけ。そのせいで『サーたん宗教団体』という危ない集団まで出来てる始末で、かなりの金を沙羅さんに支給してるって話だ」


「お金……失礼承知で聞きますけど、その金額ってどのくらいなんですか?」


「具体的な金額は知らないけど……本人曰く、宝くじ一等が百円と思えるようになってしまうような額らしい」


「えぇぇ!? それってとんでもない金額なんじゃないですか!?」


 ミコさんの言う通り、沙羅さんの言ってることが本当だとしたら、俺達の母親は○○姉妹くらいの資産を持ってるお嬢様ってことだ。俺も凄い母親に育てられてるもんだ。


「と、ということはこの集団団体の正体って……」


「うん。十中八九『サーたん宗教団体』の連中だろうね。何より、あの手に持ってるオリジナルグッズが証拠になってるし」


 タオルにうちわと、そのどれもこれもに沙羅さんの笑顔がプリントアウトされている。中には沙羅さんの抱き枕まで持っている奴までいて、その柄がまたなんというか……一言で言うとあざとい。


「出て来てサーたぁぁぁん!! 我らの女神サーたぁぁぁん!!」


「L・O・V・E・サ・あ・たん!! L・O・V・E・サ・あ・たん!!」


「愛してるよサーたぁぁぁん!! 僕と結婚してくれぇぇぇ!!」


 う、うぜぇ……マジで何処から湧いて出てきやがったこいつら? 騒音罪で通報されてぇのかこのキモオタ共?


「ど、どうするんですか旦那様? これじゃ近所迷惑で御近所さん達から苦情が来てしまいますよ?」


「そんなこと俺に言われてもどうしようもないって!」


 本当なら正当防衛という名の暴力で蹴散らしてやりたいが、そんなことをすれば警察沙汰になるのは必定。それに、俺が赤の他人に暴力を振っている光景を沙羅さんが見たら、間違いなく発狂してしまうだろう。そんな最悪の事態を招くのは論外だ。


 かといってこのまま放置にするわけにもいかないし……どーすりゃ良いんだか?


「ちょっとちょっとキモオタ共。さっきからギャーギャーキーキーと喧しいのよ。家の中にいる子供達が怯えるでしょーが」


「うるせぇぇぇ!! ベニヤ板は引っ込めぇぇぇ!!」


「んだとコラァ!! どいつもこいつも血の海に沈めてやろうかぁ!? あァ!?」


「落ち着いてミーナ! 手を出すのは駄目だってば!」


 ところ構わず胸の大きさをディスられるミーナが怒り狂い、馬鹿にする者全てを滅ぼすために一人飛び出していこうとする。何とかウニ助が羽交締めで引き止めているものの、あれじゃ時間の問題だろう。


「ったく! こういう時こそ全知全能ポンコツの出番だってのに、あの白髪はまだ屋根上で暇を持て余してんのか!?」


「儂がどうかしたかにーちゃん?」


「うぉっ!?」


 『どうにもならなくなったら神通力!』と、そんなチート技を思い付いた瞬間、すぐ真後ろから人の気配がして振り返ってみた。するとそこには、女子高生並の速さでスマホを弄っているコヨミの姿が。


「やっと来たか全知全能ポンコツ! 今の今まで何してたんだよ!?」


「あ~……ちょいと色々と所要がな。にしてもこのチュイッターというのは凄いのぅ。これがネット社会と言うやつなんじゃろうなきっと」


「あァ? チュイッターってお前……」


 そのキーワードを聞いて何かを察した俺。まさかとは思うがコイツ……。


「おいコヨミ。このキモオタ集団が集まった原因だが……ひょっとしてお前が関わってんのか?」


「……な、何のことかさっぱりじゃのぅ~?」


 騒動の現況発見。俺は躊躇うことなくコヨミの顔面を握り潰す。


「嘘を付くとためにならねぇぞ? 永遠に死なねぇってんなら、永久に続く生き地獄を味あわせてやんよ」


「いだだだだっ! すまんかったすまんかった! 正直に言うからお主のアイアンクローだけは勘弁してくれぇ!」


 パッと手を放して拘束を解く。こめかみの辺りがベッコリと凹んでいるが、不老不死ならすぐに回復するだろう。


「おーいちちっ……癖になりそうもない痛みじゃのぅ。加減というものを知らんのかお主は?」


「御託はいい。何しやがったお前」


「えーとな。儂も今さっき思い出したんじゃが、にーちゃんのマミーってあの有名な非公式アイドル『サーたん』だったんじゃよな?」


「あぁ……で?」


「ふむ。実は『サーたん』とは地球人だけに収まらず、他の惑星に住む異星人達の間でも崇拝されているアイドルなんじゃよ」


「はぁ!?」


 んだそれ初耳なんですけど!? つーか、なんで他の惑星にまで伝わってんだよ!? もはや非公式でも何でもないじゃん! 某アイドルグループより知名度広いとか、沙羅さんってマジで何者なんだよ!?


「それで儂も舞い上がってしまってのぅ。これは自慢せにゃいかんと思い、全惑星にコメントを流すことができる銀河電波サイト、通称『チュイッター』で呟いたんじゃよ。そしたら数十分後にこんなことになったわけじゃ。いやぁ~参った参った、なっはっはっ!」


「なっはっはっ! じゃねーんだよ!! 何してくれさってんのお前!?」


 やっぱこいつロクなことしかしねぇ! しかも銀河電波サイトって何!? 現代社会にそんなものが流通してたってのか!? これだけ長く生きてて全く知らなかったんですけど俺!?


「お前この前にパソコンのことを『ぴーしー』とか初めて見た感を丸出ししてたってのに、なんでチュイッターなんていうマイナーなものは知ってんだよ?」


「む? いや、スマホもチュイッターも地球に来るまで知らんかったぞ? これを知ったのはつい最近のことじゃ。ちなみにこのスマホは、にーちゃんの食費からこっそり抜き取って購入したものじゃ」


「おいテメェ、さらっとカミングアウトしてるが、後で絶対半殺すからな? でもその前にさっさとこの団体をどうにかしろ。神通力でどうにでもなるだろ」


 こんな事態を引き起こしたのは他でもないこの馬鹿だ。だったら本人に尻拭いさせるのが当たり前だ。


 しかし、そのチート技に頼ることはできなかったようだ。


「すまんなにーちゃん。儂の神通力って万能ではなくてな。一か月に三十回しか使えないように強制制限されてるんじゃよ」


「……今はまだ上旬だろ。それなのにもう使えないと?」


「うむ。このスマホで今ハマっている『ゲロ猫プロジェクト』というゲームなんじゃがな? これのガチャ運を上げるために何度も神通力を使ってしまってな。もう今月は心読みすらできなくなってしまったが、その代償としてレアキャラばかり獲得できて儂は満足じゃ!」


「えぇい! 緊急事態って時に役立たずか! ホンットに駄目なお前っ!」


 これってもうお手上げじゃね? 頼みの神通力が使えなくなった今、奴らの未来はミーナの手による破滅しかないじゃんかよ。食費云々の問題を抱えてるって時に、どうしてこう次から次と面倒事に巻き込まれなきゃいけないんだ俺は……。


「で、どうするんじゃにーちゃん? 何やら向こうさん方の様子も穏やかじゃなくなってきとるぞ?」


 そう言ってコヨミがオタ共に指を差す。さっきまでは奇声を上げるだけに留めていた連中だが、少しずつ敷地内に押し入って来てるのが見て取れる。普通に家宅侵入罪だろアレ。


「……ったく、しょうがねぇな。こうなったもうご本人に登場してもら――」


「息子に呼ばれてシュシュッと参上お母たん!!」


「ぬぉぉっ!?」


 さっきのコヨミと同様、いつの間にか背後に裏アイドルお母さんの姿が。最近の女は瞬間移動でも使えるってのか? お願いだからこの人にだけは人知を超えてほしくなかったのに……。


「それで、一体これは何の騒ぎですかヤーちゃん? 険悪な雰囲気が家の中まで漂ってきて、子供達が怯えてしまっているんですが」


「い、いや実はその……」


 事の流れを説明しようとした俺だったが、それは言う寸前で戸惑われた。何故なら、この事態を引き起こしたのがコヨミだからだ。


 只でさえ異星人組は信用を得られていないというのに、そこに追い打ちをかけるような失態を晒せばどうなるか? 人数分の食費を獲得するのは絶望的になってしまうだろう。そうなったら全てが終わってさようならだ。


 ど、どうする俺。何か上手い言い訳はないか? 全てが丸く収まる言い訳はないのか!?


「総員、道を開けろ!! ボスのお通りだ!!」


 すると、暴走寸前のオタ集団の中から鋭い掛け声が聞こえ、その命令が言い渡された瞬間にオタ達が左右に分かれて道を開けた。


 そして、その中央には仁王立ちをして俺達を見つめている一人の男の姿があった。


「むっ……あいつは……」


「し、知ってんのかリース?」


「いや、知らん。しかし分かることが一つだけある」


「はぁ?」


 中央の男を意味深に睨むから何かと思えば、こいつもミーナと同じようなことを言うのな。何だってんだ一体?


「私にも分かります。あの人はきっと……」


「そうじゃな。何処からどう見てもハッキリと分かる奴じゃ」


 リースに続いてミコさんとコヨミまでもが相手を見るだけで悟っていた。


 それで俺もようやく理解することができた。この三人が一人の“人物”を見て同一のことを思うということは……。


「どうやらにーちゃんにも分かったようじゃな」


「まぁ……見てくれが異質だからな」


 やれやれ、どうやら類は友を呼ぶらしい。


“異星人”という同種を。

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