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押し掛け異星人(にょうぼう)  作者: 湯気狐
二話 ~疑心暗鬼とシスターさん~
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五番勝負! 前編

「ふむ……貴女が我らが女神であるサーたんで間違いないだろうか?」


「は、はい……そうですが?」


 頭からひん曲がった角を生やし、泣く子も黙るであろう強面こわもて顔。バレーボール選手のような背丈に、屈強な身体を誇っている。


 しかしその良い素材とは裏腹に、そのダッサイ格好によって全てが台無しと化している。厨二感溢れる痛々しいデザインのコートに、わざとボロボロにしている感が見え見えの裾のズボン。


 そして何より一番痛いのは、ヴァンパイアが身に付けるようなマントだ。何せ、そのマントにはあざとい格好になっている沙羅さん(アニメ絵バージョン)がプリントアウトされているから。


 うん、最早結論が出たな。絶対コイツと関り合いになりたくねぇ。


「痛いわね……いやむしろ怖いわ。やっさん、私何か間違ったこと言ってるかしら?」


「安心しろミーナ。俺も同じこと考えてっから……」


 人を見た目で判断するのは良くないと分かっているが、俺だって人の子なんだ。限度の一つや二つくらいはある。


 あの顔であの格好は無いわ。そこは特攻服を着るべきだろーが? 何処からどう見てもヤクザ顔だろうが? あのオタリーダー、鏡という便利品を知らんのか?


「まさかあのサーたんにお会いできる日が来ようとは……このディラン、歓喜の極みでございます」


 ディランという名前らしい異星人が片膝を立てて頭を垂れる。まるで姫君に仕える臣下のようだ。何処の時代からタイムスリップして来たんだよコイツ?


「あの~、貴方達は一体何なのでしょうか? さっきから騒ぎ立てるから子供達が怯えて迷惑しているんですが?」


「これはこれは申し訳ありませんでした。何分、この連中はサーたんを女神として崇めていましたので、実物を見て舞い上がる気持ちが抑えられなかったようなのです。ここはサーたんの魅力を立ててお許しください」


「……いやおかしくないかな? なんでお母さんの魅力を立ててこっちが許さないといけないんだろう?」


「全くよね。図々しいにも程があるわ」


 沙羅さんは苦笑して流しているが、この幼馴染達の言う通りだ。んなもん立てなくて良いから、全員地に頭を擦り付けて土下座でもしろや、という話だ。


「それで結局貴方達は何者なんですか?」


「何者も何も、我らはサーたん宗教団体の一部ですよ。それ以外に何に見えると言うんですか?」


「……単に迷惑な人達ですね」


「戦闘力皆無のミジンコ集団だな」


「三流お笑い芸人の会かのぅ?」


 ミコさん、リース、コヨミと個々溢れた回答をしていた。どれもこれもが的を得ているから否定する気にもならない。むしろ全て肯定だ。


「申し訳ないんですが、ここに宗教団体の人達が来ることは暗黙の了解として禁止にしているんです。キツい言い方かもしれませんが、早々に立ち去っていただけませんか?」


 あっ、沙羅さん少し怒ってるなアレ。我が子を怯えさせたんだから当然か。俺達は俺達で迷惑以外の何物でもないと思っているしな。


 しかし、オタリーダーことディランは沙羅さんの言うことを聞くことなく、それどころか一歩踏み出て沙羅さんに近付いて来た。


 おいおい何なんだあの野郎? あまり沙羅さんを困らせるようなことするんじゃねーぞ?


 事と次第によっては……ただじゃおかねぇ。


「それは無理な相談ですな。何故なら、我々は貴女にお願いがあってやって来たのですから」


 そう言いながらディランは徐々に近付いていき、沙羅さんの手を握る――前に、横から入ったミーナの手によってその手は払われた。


「気安く私のお母さんに触らないでくれるかしら? さっきから出しゃばり過ぎよオッサン」


「……ふんっ、スケートリンク小娘が」


「誰がツルペタだゴラァ!!」


「ちょっとちょっと落ち着いてよミーナ! 暴力は駄目だってば!」


「離せウニ野郎!! こいつら全員皆殺さないと気が済まないわ!!」


 さっきから思っているが、ミーナの扱いが余りにも不憫だ。コンプレックスなんだから触れてやるなよな。毎朝カルシウム摂取して努力し続けてんだから、そこは応援してやれよ。


 にしても、確かに今の態度は気に食わねぇな。沙羅さん以外は嫌悪対象なのかよ。別に好かれたいとは微塵も思わないが、待遇くらいは良くしてくれても構わないだろ。


「それで、そのお願いとはなんですか?」


「えぇ、それなんですが……サーたんには是非とも、私が住んでいる惑星へと赴いて欲しいのです」


「はぁ!? マジで何言ってんのこのオッサン!? 脳味噌にバイ菌でもばら蒔かれてるんじゃないの!?」


「黙れ貧乳」


「アハハハハッ!! ついにストレート噛ましてきやがったわコイツ!! もう絶対無事に帰さねぇぞキモオタゴラァァァ!!」


「リースさんお願い! 僕一人じゃ今のミーナを止めるには手に余る!」


「ふんっ……手間のかかる奴だな。躾をしていないからそういうことになるのだ。今後は首輪と鎖を付けておくんだな」


 そして何処からか本当に首輪と鎖を取り出したリースが加わり、ミーナは飼い慣らされていない猛獣のような扱いを受けて無事に引っ込められた。


「で、話を戻すのですが、サーたんさえ宜しければどうでしょうか? 当然、私達にできる限りの範囲で良い待遇を用意致します」


「突然そんな提案をされてもですねぇ……そもそも、なんで私なんですか?」


「ごもっともな質問ですね。ではお答えしましょう」


 そう言うと、ディランは懐から一枚の特大ポスターを取り出した。勿論、沙羅さんがプリントアウトされたものだ。祈りのポーズを取っていて、『全世界の子供に救いの手を……』という文字がゴシック体で絵になるように記入されている。


「実は今、私達の惑星は少子化が加速する一方な状態になっているんですが……そこで子供を愛して止まない女神様、サーたんの手をお借りしたいのです」


「は、はぁ……」


 少子化って……そりゃお前らの星だけの問題じゃねーよ。この日本も少子化と高齢化が進んで問題になってるっつーんだよ。


「手をお借りしたいとは、具体的に何をすれば良いのでしょうか?」


「それは至って単純なことです。私達の惑星で子作りに勤しんで欲しいのです」


「おーい誰が警察に通報してくれ~」


 ただのキモオタだと思いきや、性的犯罪に手を染めている変態野郎だった。初対面の女性になんつーこと言ってんだあの精神的重症患者は?


「むっ、少し言葉が足りませんでしたね。正確にはサーたんは何もしなくても結構なんです。ただ、サーたんの遺伝子細胞のコピーを取らせて欲しいのです」


「遺伝子細胞って……クローンでもお作りになるつもりですか?」


「流石はサーたん、察しが宜しいですな。つまりはそういうことです」


 おいおい、なんだかスケールのでかい話の匂いが漂ってきやがったな。それに穏やかな話でもなさそうだ。


「旦那様。クローンとは一体なんですか?」


「ん? 確か、一つの細胞から細胞分裂を繰り返すことによって増殖する細胞群ってやつだったかな。分かりやすく言えば、一枚の紙切れを印刷して同じ内容が書かれた紙を何度も製造する、みたいな?」


「なるほど。だからあのキ……オタクさんはコピーと言っていたんですね」


 さらっとミコさんも奴をキモオタと判断していたようだ。無理もない、ここにいる全員が奴にドン引きしているのだから。


「サーたんの遺伝子細胞をコピーすることによってクローン人間を大量生産し、全ての男達の嫁となってもらう。そして子を成すことによって少子化を解決する。それが私達の計画。名付けて『サーたんは皆の嫁プラン』です!」


「「「「「うぉおおおおお!!!!!」」」」」


 まさにサーたん信者達にとって夢のような計画。批判の声など上がるはずもなく、オタク共は皆、奴の口車に乗せられてあんなことになってしまっているのだろう。


 なんて恐ろしい計画だよ。しかもそれを断言するってことは、その計画を成すことができる技術を持っているってことだろ? 恐ろしいねぇ異星人ってのは。


「「「「「…………」」」」」


 異星人組も幼馴染組も唖然としてしまっているようで、誰もが口を閉ざして奴等に軽蔑の眼差しを送っている。そしてご本人の沙羅さんはと言うと――


「あっ、もしもし? 警察の方でしょうか?」


 携帯で110番通報していた。至極全うな対応処置だ。


「どうでしょうかサーたん!? 是非とも、我らの嫁になるべく立ち上がってはくれないでしょうか!?」


「星に帰れ(ニッコリ)」


「えぇっ!?」


 流石に極度のお人好しである沙羅さんにも生理的に受け付けられない相手は実在したようだ。単純かつ、明快である辛辣な言葉を言うあの人を召喚するとは、只者ではない大馬鹿だなあのキモオタ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいサーたん! サーたんは子供が好きなんですよね!? この計画は数多の子供を産むという素晴らしい計画! 色んな子供を愛で放題なんですよ!?」


「すみませんディランさん。子供云々の話が建前にしか聞こえません。その計画の真の目的は、私に下心を抱いている方々に『アイドルと結婚できる』という夢と希望を与えることですよね?」


「……そ、そんなわけないじゃないですか~。やだなサーたんったら~? 私はそういうお茶目な部分を持ち合わせた貴女も魅力的だと思います~」


 き、きめぇ……。あそこまでキモい人間……ってか異星人だけど、見たことも出会ったこともなかったぞ? あれはヤバイだろ。キモさの次元を遥かに凌駕してんぞアレ。


「む、無理……やっさん、私もう限界なんだけど……」


「気をしっかり持てミーナ! そしたら沙羅さんなんてもっとヤバい状況だろ! 俺なら既に嘔吐物だぞ!」


「そうじゃぞミーナ坊。主らのマミーが堪えているんじゃから、ワシらもそれを見習ぼろろろろ!!」


「ぬぉぉっ!? しっかりしろコヨミ!!」


 人を差別するようなことをしないコヨミがついに決壊した。この元神をも吐かせるとは、なんとおぞましきオタクなんだ奴は!?


「うぅ……旦那様……私もなんだか気持ち悪くなってきました……」


「ハッ!? ま、待ってミコさん! それ以前にもあった展開――」


「オボロシャァッ!!」


「…………え? 今度は僕?」


 コヨミから貰いゲロしてしまうミコさん。しかしその銃口は俺ではなく、隣に突っ立っていたウニ助の顔面へと向けられていた。


 奴のせいでこっちは完全なる混沌カオス状態。誰か収集つけてくれマジで。


「ともかく帰ってください。私は私の手の届く子供達の面倒を見るだけで手一杯ですし、充分幸せなので」


「そ、そこを何とかお願いできませんか!? そうだ! 勝負です! 勝負で決着を決するというのはどうですか!?」


 テンパってるせいで話にならない提案を持ち掛けてきているみたいだ。早く警察来てくれねーかなぁ……。


「いい加減にしてくれませんか? 私にメリットも何もない勝負を受けたところで、一体どんな意味があると――」


「もし仮にサーたんが勝利した場合は、我が子だろうが誰だろうが、サーたんにゾッコンラブ状態にすることができる秘伝の媚薬を贈呈致します」


「分かりました。ならば五番勝負で受けて立ちます」


「ちょぉぉぉい!? 安物の餌に釣られやがったよあの子煩悩シスター!?」


 タチの悪い贈呈品のお陰で沙羅さんの目が血走り、オタク共は一斉に歓喜の声を上げる。周りが見えなくなるほど危険なことはないというのに、あの人はどうしてこう……。


「ちょちょちょちょっとやっさん!? どうすんのよコレ!? あんな安請け合いしちゃってるけどお母さん!?」


「知るかっ!! 俺はもう付き合いきれねぇよ!!」


「どうするんですか旦那様!? もし負けたら旦那様達のお母様が!」


「だから俺に振るんじゃねーよ!! 知らねぇって言ってんでしょーが!!」


「どうするのだ愚人? このままでは奴らの思うがままだぞ?」


「しつけーなどいつもこいつも!? あの人の自業自得だろーが!! 俺には関係ない!!」


 冗談じゃない。俺は食費を貰いに来ただけだってのに、こんな面倒事に巻き込まれるために俺はやって来たんじゃない。これ以上はもう勘弁だ。


 俺はくるりと身を翻し、一人この場から逃げようとする。


「まぁ待てにーちゃん。そう急かすでない」


「離せ役立たず! そもそもの発端はお前なんだから、お前が全部責任取れや!」


 いつの間にか頭上を飛んでる羽虫並みのウザさでコヨミが纏わりついて来た。振り解こうと全身を使って振り払うが、磨かれた身体能力を駆使してきているために全然離れない。


「聞けにーちゃん。これは逆にチャンスとは思わんか?」


「あん? チャンスだと?」


「そうじゃ」


 ニシシッと悪戯っぽく笑い、皆に聞こえないようにそっと耳打ちをしてくる。また悪巧みかコイツは?


「にーちゃんが今日ここに来たのは、足りなくなるであろう食費を稼ぐためだったんじゃろう? しかしそれはワシらが信用されなくてはいけないのが決定事項。ならば、この勝負で活躍してしまえば、お主のマミーは大盤振る舞いしてくれるのではないか?」


 なるほど……良く考えてんなコイツ。要は、沙羅さんのために身体を張れば、嫌でも信用を得られるということか。


「幸いにもお主のマミーは五番勝負を持ち掛けたようじゃからのぅ。ミコやリース大将軍、そしてこのワシも活躍の場を頂ける。こんな飯ウマな話は他にないと思うがのぅ?」


「……背に腹は代えられない現状だからな。この際、身体を張るのも致し方ないってことかよ……」


「そう気落ちするでないにーちゃん。安心せい。万が一、にーちゃんが負けるようなことになったとしても、ワシら異星人組が完膚なきまでに圧勝してやる。じゃから今回は、このワシの大船に身を預けてくれ」


「ったく……この代償はでけぇからなお前」


 もうこうなったらヤケクソだ。クローンだの少子化だの、もうそんなの関係ねぇ。最近溜まりに溜まってる憂さ晴らしのために暴れてやろうじゃーねぇか。


 こうして、俺はコヨミの提案を受け入れ、沙羅さん軍団とサーたん宗教団体による五番勝負が開幕することとなった。

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