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魔法が使えないから人間やめました(改訂前)  作者: 星影
第二章 呪われた島の鋼
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第十二話 魔力信奉者

「モルテガ鉱山ギルドナナミー支部など初めっから存在してなくて、エリーゼはずっとこの場所で仕事をしていたと」


 モルテガ鉱山ギルド、応接室。そこで私たちとエリーゼは話し合いを行っていた。彼女の話によると王都のギルド本部に魔物駆除の依頼を出したところまでは事実だが、そこから先のことは彼女たちの方では全く把握していないという。曰くギルドにナナミー支部など存在せず、迎えに来たはずのエリーゼもギルドの受付でずっと仕事をしていたとのこと。当然、彼女は正真正銘のエリーゼで幽霊でも何でもない。


「一体どういうことかしらね……」


「全て仕組まれていたってことだな」


 困ったように息を衝き、背もたれへ倒れかかったフィーネに、私はニッと笑って見せた。


「おそらく、鉱山の奥に冒険者が入ってくると困る連中がいるんだ。そいつらが近々やってくる冒険者を撃退するために一芝居打ったんだよ。船員が居なくなったのも、リヴァイアサンが襲いかかってきたのも。初めっから計画されていたんだ」


「状況的にはそうだろうけど、そんな手の込んだことをするより普通に殺した方が早いんじゃないかしら?」


 私から見てフィーネの向こう側に座っていたマルが、怪訝な顔をしてそう言った。フウと息を漏らすと、私は彼女の疑問に答える。


「事故に見せかけたかったんだろう。それに、やってくる冒険者たちの実力は未知数。自分たちで殺せるかどうかわからない。その点、嵐の海に放置してリヴァイアサンに喰わせればほぼ確実に始末してくれる」


 フィーネたちの顔が急速に石化した。得体の知れない何者かに命を狙われたと聞けば、大抵の人間がこうなるだろう。日当たりのいい応接室が一転、地下室のごとき陰湿さを帯びる。まとわりつくような濃密で粘着な時間が流れ始めた。口に含んだコーヒーが、少し苦い。

 そうしてしばらくすると、フィーネが何か決心したような顔をした。彼女はパンと机をたたくと、朗々と宣言する。


「と、とにかく! 依頼を受けたからには何があろうと依頼をこなすのが私たち冒険者の誇りよ! 鉱山に魔物が出る以上、その奥に何が居ようが退治しに行くわ! そうよね、みんな!」


「同感」


「僕もその意見に賛成だ」


 フィーネのやたら熱い意見に、二人は同意した。全くどうして、暑苦しい連中だ。しかしこの雰囲気は嫌いではない。私もよろよろと手を挙げて、とりあえず同意の意志を示した。するとここで、応接室の扉が開く。

 扉の向こうから現れたのは、長身で金髪の男だった。細面で眼光が鋭く、その手元には小さな杖がある。身体も良く見ると引き締まっていて、ほっそりとした手には小さいがタコができていた。俗に「魔術師タコ」などと呼ばれる、杖を使う魔術師に特有のタコだ。

 戦いを生業にしたものだと、雰囲気で分かった。しかも、かなり戦い慣れている。足さばきや僅かな身体の動きに無駄が無い。トリプル、いや下手をすればクアドラか……? まだ三十になるかならないかにしかみえないが、相当の猛者だ。


「フェリムさん、何しに来たんですか!?」


「王都から冒険者が来たというのでな、モルテガ支部代表として様子を見に来たんだよ。ほう……」


 フェリムと呼ばれた男は、いきなり私たちを値踏みするような目で見た。嫌な目だ、魔力測定の日のことを思い出す――私は少しばかりその視線から目をそらす。一方、フィーネはその図々しい態度に腹が立ったのか彼の方へと睨み返していた。


「君たち、ランクはいくつかね?」


「全員シングルよ」


「では、魔力値は?」


 フェリムはいやらしい笑みを浮かべた。まるっきりこちらを馬鹿にしている。まあいい、せいぜい『いまのうちは』馬鹿にさせてやろうじゃないか。


「14000よ」


「56000」


「19800だ」


「大したことない数値だ。王都の冒険者などといってもたかが知れているではないか。で、君はいくつだね?」


 一人黙っていた私のことが気に入らなかったのか、少し口調が荒っぽかった。私はそんな彼に堂々と言い放ってやる。


「なし」


「……どういうことかね」


「完全ゼロ。特異体質みたいなものだ」


「……はははッ、これは愉快だ! 魔力なしの冒険者なんてものが居たとはねえ! 流石はギルド本部、懐が深い!」


「ふん、好きに言え」


 フェリムはひとしきり笑うと、最後にエリーゼの肩をぽんと叩いた。そして彼女に「しょうもない連中を雇ったものだなあ。我々の力が借りたくなったら、いつでも頭を下げたまえ」などと小声で言うと、応接室を出ていく。その足取りは軽く、勝ち誇ったかのようだ。


「気にしないでください、フェリムさんはああいう人なので……」


「何者なのよ、あいつ」


「冒険者ギルドモルテガ支部のマスターです。利権絡みでいろいろうちと揉めてる最中でして……。恥ずかしい話ですが、王都の冒険者を雇ったのも地元の支部と折り合いが悪いからなんです」


「あれがマスター……。どうやら、熱狂的な魔力信奉者のようだな」


 サウスコーネには良くいる人種だ。魔力の量こそ力だと信じてはばからない、私が一番嫌いな人種。私を最も見下す人種――とにかく、とても嫌な輩だ。しかしなまじっか、大抵の人間相手だと魔力=力という法則は成り立つので増加の一途をたどっている連中でもある。


「はい。二年前にお父様が魔力強奪事件に逢い、それをきっかけに急速に衰えたのを見て、やはり冒険者には魔力が無ければ駄目だと実感されたんだそうで……。今では冒険者になるための条件に独自に魔力量の基準を課したりもしてるそうです」


「くだらん」


 私は吐き捨てた。本当にくだらない。心の底からそう思う。魔力があろうが無かろうが、人は強くなれるものだ。役に立たないこだわりやプライドといったものをすべて捨ててしまえば、であるが。


「そのくだらない考え、壊してやろうじゃないか」


 窓の外に聳えるモルテガ鉱山。その奥に眠る何者かを想像しながら、私はそうつぶやいた。鉱山の奥へと馳せる思いは、断然先ほどよりも強くなっている。あのフェリムとか言う男、必ず黙らせてやろう――

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