石長咲夜の独白
2026年、私、石長 咲夜は小説投稿サイトの公開ボタンをクリックする。
(……最後はかなりご都合主義的な展開になってしまったけど仕方がないよね)
おそらく読者の方々は『なんだ、この突飛な展開は!』と驚くとともに私に失望してしまうかもしれない。しかし、私は事実を事実のまま小説として世に出すわけにはいかない。それでは私が小説を投稿している意味がないからだ。私は最終話だけではあるが虚偽の内容を小説にした。
その事実とはなにか、ではあるが……
端的に言えば、“穢れ様”の中に引き込まれた時点で木花咲耶は死んでしまっていて、咲耶を救うために“穢れ様”の中に自ら入った橘千宗は、二十年経った今も“穢れ様”の中で生きたまま囚われている……
具体的には“穢れ様”の中に入った橘くんが最初に見たのは咲耶の死体だった。泣き崩れる彼の声に霊体となった咲耶が呼応した。霊体でも炎の加護が使えるようなので作中同様に橘くんのブーストもあって何とか腕一本通るくらいの穴を開けられた。穴から出てきたのは大日如来様の指ではなくて一本の細くて真っ白なとても綺麗な腕から下の手だった。咲耶は手を伸ばすが地面からでは届かない。
その時、橘くんが背中を押した。すると咲耶の体がふわりと浮いて白い手に咲耶の手が届いた。白い手を握りしめながら下にいる橘くんに手を伸ばすが、その咲耶の様子を見て橘くんは泣きそうな顔で無理やりに笑って親指を立てる。
橘くんの横にある咲耶の死体は桜に変化して、咲耶の霊体もボール状の魂に変化して白い手にしっかりと握られる。魂が空に昇るとともに、桜の花びらが魂を追い越して晴れた空にひらひらと舞い上がっていった。
暗い“穢れ様”の中にいる橘くんに咲耶が目を移すと小さな穴から目に涙を浮かべて満足そうに笑う姿が見えた。そして橘くんは口元を動かす『愛してる』と……。
そして無情にも穴は閉じられた……。
なぜ、赤の他人である私がそんなことが語れるのかというと、私がその時に死んでしまった木花咲耶が転生した生まれ変わりだからだ。とはいっても記憶が戻されたのが最近のことなので、私自身は咲耶自身というより、記憶と感情を受け継いだ人間といった感じだろうか。
そんな私がWEB小説としてこの話を書いた目的は“口裂け女”の川口さんが言っていた『弱点の流布による弱体化』を“穢れ様”に試みようとしたためだ。しかし、不明な点が多すぎて大日如来様を召喚するという方法になってしまったので、明確な弱点となるかは疑問ではあるが、討伐できる対象として認識されれば御の字という所だろう。
そしてタイトルを『寺生まれの橘くん』としたのは橘くんの強化を狙ってのことだ。『寺生まれ』と聞いて最初に思い浮かべるのは、某掲示板で有名なお坊さんだろう。怪異をビームや一喝しただけで倒せるという逸話のある無敵のお坊さんと橘くんを同一視してもらうことで、少しでも“穢れ様”の中で今も耐えている彼の助けになればと思ってのことだ。タイトルが投稿サイトで見られるのは、私の小説が読まれる数よりもはるかに多いだろう。
とはいえ、私の小説は大ヒットWEB小説とは縁遠いものだ。
PV数のことを考えていたら、天眼通の汀子さんが言った『なるべく多くの仲間を集めることが力になる』の仲間とは私の作品を読んでくれた人達のことだったのかと気づかされた。
私が連載を続けるうちに強く思うようになったことがある。それは、木花咲耶が何を考えて過ごして、何を望んで生きたのか……私はそれが書きたかったのだ。その思いが咲耶としてのものなのか、咲夜として彼女に同情したからなのかは正直わからないのだけど……
つまり、ここまでは若くして不遇の死を遂げた木花咲耶が追い求めた理想の物語だ……。
そして、石長咲夜が彼を取り戻すために奮闘するリベンジの物語が今ここから始まる!!




