表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/325

83 スノーモービル

「それで、マカロン君、アレは出来たかい?」

「はい、試作品は完成しています。テスト走行してみますか?」

「うん、乗ってみたい!」

「いや、アレは結構苦労しましたよ、FRP部分も多くて、あんなもの本当に売れるんですかね?」

 マカロンと裕介の話しに、レア君が便乗する。


「なんの話しだ? またこっそり、なんか作ったのか?」

「ええ、ユースケさんの提案でね」

「社長の俺にも秘密かよ!」

「秘密っていうか、驚かそうと思って。サプライズですよ」

 蚊帳の外だった、テクノ社長と、チーズ君、ショコラ君が拗ねている。

「なんで、そんな楽しいこと、仲間外れにするかなぁ~!」

「ほんとだぞ! 商品開発って、一番美味しいとこじゃんかよ!」


「じゃぁ、お披露目です。みんなでサーキットに行きましょう」

 レア君が、してやったりのドヤ顔で雪の中、みんなをサーキットに連れて行く。

「サーキットって… 雪だらけで、何も走れないだろ?」

 テクノ君が最もな意見を言う。

「そこが、新商品なんですよ! へっへっへ」

 レア君が、裏の商売人のような卑屈な笑い方をして、仲間外れの三人をムッとさせる。


「これです!」

 ガレージから出てきたのは、紫と緑と黒を基調にしたあのアニメのような、スノーモービルだった。勿論、バイクの改造ではあるが、裕介の発案、設計で色まで指定されたものだ。

「カッコいい! スノーモービル零号機と呼んでくれ」

「なんですかこれは?」

「雪面を走るバイクだな。ベイグルでは雪の期間が長いから需要はあると思うんだがな」

「確かに、冬はバイクはちょっと無理でしょうからね」


「乗ってみてもいいか?」

「どうぞ、二人乗りですので、セフィアさんもどうぞ」

「えっ?! 私もですか?」

「大丈夫だよ、セフィア。マカロン君の腕を信じろって」

 セフィアが裕介の後ろで、スノーモービルにまたがる。

「じゃぁ、行くぞ! セフィアしっかりつかまってろ!」


 魔動モーターのスノーモービルは静かに発進する。裕介はバイクで走ったが、セフィアはミニスズカのコースを走るのは初めてだった。ストレートを抜けると右に大きくカーブ、そしてS字。ダンロップからディグナーを抜け、ストレートを裕介は全開で走ろうとする、セフィアも久しぶりに全開で裕介に抱き付いた。

「あぁ、これ、いいかも!」


 最近、二人でミリムの世話や授業をしていたため、少し新婚当初のイチャイチャから遠ざかっていた。今は、誰に遠慮することもなく大好きな裕介に抱き付いていてもいいのだ。

 しかも音は静かで、振動もそれほどない。見渡す限り白銀の世界を裕介と二人だけで走っているのだと思うと、セフィアはドキドキし、脳みそが溶けてしまいそうなスピード感の中、伝わってくる裕介の背中の暖かさに身をゆだねていた。スノーモビルは滑るように走行し、やがてメインストレートに戻って来て、試験走行を終えた。


「あぁ、気持ち良かった!」

「ええ…」

「ミリムも乗ってみろ!」

「よ! 良いのですか?!」

「あぁ、じゃあ、テクノ君とかわろう」

「えっ!」


 ミリムはがっかりした。裕介の後ろに乗せてもらえると思っていたのだ。

 セフィアのことも大好きなので、彼女を裏切るようなことはしたくないと思っているが、遠慮せずに師匠に抱き付ける千載一遇のチャンスを逃したと、ミリムは大いに残念に思う。


 あてもなく、目標も持たずにゲルトにやってきた自分を拾ってくれ、店を持たせ技術を教えてくれた裕介に、ミリムは憧れとも取れる仄かな恋心を抱いていた。

 裕介の事を想うと、切なくて幸せで、なんだか胸が締め付けられるような甘酸っぱい想いで、自分がいっぱいになる。


 ロッドやルアーのメイキングを習う時間は、ミリムの今までの人生で、一番幸せな時間だ。

 軽く手が触れただけでも、身体に電気が流れたようになり、いつものように頭をガシガシと撫でられると、ミリムは猫の様に身体を投げ出して、裕介に身体中を撫でられていたいと言う衝動にかられる。

 ミリムにはその気持ちがなんなのか、まだ分かっていなかったが、その裕介に抱きつける機会を逃してしまい、仏頂面に頬を膨らませたミリムは、テクノ社長の後ろでスノーモービルにまたがる。


「じゃぁ、ミリム君、しっかりつかまってろよ」

 そんなミルムの気持ちに気づくはずもなく、テクノ社長は天真爛漫だ。先ほど貰ったばかりのミリムレンズをかけて陽気に飛ばし過ぎ、ヘアピンを曲がり切れずに雪だまりに突っ込んだ。


「壊しちゃ、だめじゃないっすか! 社長!」

 その程度で壊れることはないのだが、雪まみれになって戻って来たテクノ社長とミリムを見て、全員が大笑いだ。

 ミリムは、自分の気持ちに天罰が降ったのだと思った。


「これは売れるでしょ!」

 チーズ君とショコラ君がテスト走行から戻って来て、太鼓判を押す。

「これで、ソリの荷台を引っ張れば、冬季の物資運搬も問題ないですよ。バイクと違って転倒の心配もないですしね」


「苦労したのは、ガラス樹脂をべースにゴムで作った、このキャタピラーと足回りですね。コイルバネ式のサスペンションは、今回の新案登録品です。後はほとんどバイクの技術の使いまわしなんで、ギアチェンジも出来ますよ」

 マカロン君とレア君が、構造について力説する。


「製造ラインは大変だけど、売っちゃう?」

「売りましょう!」

 飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進中のアコセイサクショだ。こんな軽いノリで販売が決定する。


「前の世界での話しだが、こう言う機械はいずれ壊れたり、部品の交換が必要になる。それを、工場で対処するのは、なかなか難しいと思う」

「そうなるでしょうね」

「前にレースに出たいから、技術を学びたいと言ってきた連中がいただろ? そう言う連中に技術を教えて、整備の店を持たせるってのはどうだ?」

「なるほど! 整備専門の店ですか!」

「そしたら、工場は製造に専念できますね」


「整備と販売を受け持つ店だな。出店の手助けと商品やその技術、アコセイサクショの名前を使える代わりに、アコセイサクショに加盟金や契約金を支払う、独立開業の加盟店だな。商業ギルドのアコセイサクショ版だと思えばいい」

「別の店を手助けするんですね」

「フランチャイズ形式って言うんだ」


「フランチャイズ形式?」

 ミリムが復唱する。

「俺とミリムのは、これとは違うけどミリムはこれから売った釣具やメガネのメンテやアドバイスをしたり、他所の街でミリムの作ったものを扱ってくれる、同じような仲間を見つければそういうやり方もあるぞ」


 ミリムは、色んな街で自分が作った物が売られ、メガネを掛けて街を歩く人々や、釣り人で賑わう川を空想していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ