78 竿作り
裕介は鉄製のテーパーのかかったマンドレルと呼ばれる丸棒を何種類か製作し、ガラスの不織布を大きなアイロンで挟んで転がしながら何重かに巻き付け、先に塗ったサファイヤ樹脂を融かして熱接着した。その上で、サファイヤ樹脂の入った長い槽につけ取り出すと不織布にサファイヤ樹脂が浸透し固まる。マンドレルを抜くとFRPの中空の丸い棒になる。
魔動モーターを使った研磨機を作りだし、ロッド表面を研磨して仕上げると、釣り竿の原型ロッドブランクスが出来上がる。
釣り竿がどういう曲がり方をするか、先だけ曲がるのか、中央からか根本からか、それを表す言葉で調子と言う言葉がある。それをルアーロッドの場合は、テーパーという言葉で表す。ファーストテーパーなら先だけが曲がる先調子、レギュラーでは半々、スローなら胴調子、パラボリックスが元調子という具合だ。この調子はブランクスの角度や巻いたガラス繊維の厚みで決まるため、裕介は何種類かを作成した。
先端だけは、中空にすると弱いので、ガラス繊維の綿を型に入れ、溶けたサファイヤ樹脂を浸透させるよう、熱しながら魔動モーターの遠心力で回転させて振り回した。その後研磨機で形を整える。
こうして、グラスソリッドの竿先を作ると、作ったブランクスに差し込み接着した。釣り竿になったものを先端に錘を付けてテストすると、十本作ったうちの三本だけが裕介が求める挙動と強さを示したようで、他のロッドは魔法でクリーンナップして、サファイア樹脂を取り除き、ガラス繊維は、ガラスの塊に、その竿に使ったマンドレルも金型も鋼のインゴッドに戻してしまった。
作った竿をペンキのような塗料で塗り、リール座と|竿元≪バット≫、ラインガイドを作り、セフィアに頼んでバットはアルミにガイドはステンレスに変えてもらう。このステンレスを生み出すために、また裕介はバーサーカーになっていたのだが、それはそれで、今はセフィアが直接錬金魔法でステンレスも作れるようになっている。
裕介は、絹糸を丁寧に巻いて作ったガイドを縛り付け、サファイア樹脂で固めて三本のルアーロッドが完成した。
「セフィア~! 出来たぞ! 新しいロッドだ。赤がお前のだ」
「えっ! 私にも頂けるのですか?」
「当り前じゃないか! 早速、明日釣りに行こう!」
「はい」
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9月終わりのサブル川は、以前シルバーを釣った時と違い減水期に入っていて、広い河原になっている。二人は釣りのポイントを求めて、川沿いに馬で移動していた。
「あれ? アレは、ひょっとして釣りをしているんじゃないか?」
「あら? そう見えますね」
朝日を受けて煌めくサブル川の川面に向かい、河原に立って一人の人間が竿を振っている。
遠目だが、どう見てもフライフィッシングだ。
以前、サーズカルの国境の橋の上からみた亜湖さんのフライとそっくりで、規則正しくラインが前後に綺麗にループを描いている。
「まさか、亜湖さんってことはないだろうが、行ってみよう」
「こんにちは!」
キャストを回収してひと段落おいたところで、声をかけてみる。
声をかけられ振り返ったのは、年のころ十七~八歳の金髪の美少女だった。
「えっ! カワハラ大尉?」
いきなり、裕介はその少女に名前を呼ばれる。と言っても、裕介は知らない少女だった。
「あなたの知り合いですか?」
セフィアが裕介に聞く。裕介はかぶりを振った。
「ええ、確かにカワハラですが、えっと… 失礼、どなたでしたっけ?」
「わかりませんか?」
少女は苦笑いともハニカミ笑いとも取れる少しひきつった笑顔で聞き返す。
「うーん。ごめん! 覚えていないよ」
「そうですか、仕方ありませんよね。ミリムです」
「ミリム… ミリム… えぇ~! ミリム君?! 女の子だったのか?」
「そうですよ。ひどいなぁ~、僕をずっと男だと思っていたんですか?」
ミリム君とは、サーズカルにいた頃、よくミステイクにも顔を出していた伝令係の少年。いや、裕介は少年だと思っていたが、少女だった。
「すまん、知らなかった。だって、君は僕って言うじゃないか」
「要塞では、男の子だと思われているほうが安全でしたし、そのまま癖になって僕って言ってます」
「そうか。これは、俺の妻のセフィアだ」
「よろしくね」
セフィアがにっこり笑って挨拶する。
「えっ? セフィア・エスパール様? よっ、よろしくお願いします!」
ミリムは裕介の時とは打って変わって、深々と頭を下げ挨拶した。今度は裕介が苦笑いする。
「それで、それはひょっとして、亜湖さんが使っていたフライ道具かい?」
「そうです、良く分かりますね! 亜湖さんがサーズカルを離れる時に貰ったんです」
「うん、そのリールは俺が作ったやつだから。大事に使ってくれているみたいだな」
「そうだったんですね。はい、僕の宝物ですから」
「いや、フライのキャストの腕前もなかなかだ、亜湖さんがいるのかと思ったぞ」
「てへっ」
ミリムは、手を頭にやって照れる。
「釣れたかい?」
「はい、五匹ばかり」
ミリム君は、手にした魚籠に入れた魚を見せてくれた。その中には、三十センチを超えるマスが五匹入っていた。サブル川もここまで降ると、ブルーバックではなく、かといってニジマスのようでもなく、ブラウントラウトに近いマスだ。
「大したものだな。釣り人を初めてみたからびっくりしたぞ」
「誰も、釣りなんてしてませんものね。でも僕は、橋の上から見たアコさんの釣りが目に焼き付いて忘れられないんです。格好良くて、いつかは僕もああなりたくて」
「そうか、こんな美人に憧れられているなんて、亜湖さんが聞いたら泣いて喜ぶぞ」
「美人だなんて…」
今度は、完全にハニカミ笑いだ。相変わらず、可愛いヤツだと裕介は思った。




