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76 耐久レース

 アコセイサクショでは、魔動モーターのバイクの試作が進んでいた。研究者たちが社員に頼んで、代わる替わりにラボに設置した魔動モーターの魔法陣を焼き付けた円盤を何時間回せるか耐久テストをやっている。

 その結果、概ね一般人の魔力で八時間くらいは回し続けることが出来ると分かってきた。勿論、人によって差があり、十二時間をこえる者もいれば、三時間程度でダウンするものいて、バラつきはある。魔力が枯渇したものには、裕介が魔力を流して回復させたが、女性に流すとややこしくなるので、男性限定でのテストである。


 その中に若くて可愛らしい、ともすれば女性と見間違うのではという男の子がいた、名をスフレ君という。彼は一番頑張り、十五時間を超えて魔力が枯渇した。裕介は彼に魔力を通して復活させてあげる。

 スフレ君が少しおかしくなったのは、その日からである。

 物陰から、裕介を見て「はぁ~」とため息をついている。

 あろうことか、スフレ君は裕介に恋心を抱いてしまったようだ。しかし、相手は同性でしかも妻帯者だ、スフレ君はかなわぬ恋に日々悶々と苦しむのである。


 裕介は鈍いので、スフレ君のそういう変化には全く気付かず、いつも通りにふるまっていたが、その変化を敏感に感じとったのは、裕介の妻のセフィアだった。

 裕介を別の者、しかも男に取られるわけにはいかないと、セフィアのお見合いおばさんさながらの奮闘が始まる。元々、男女の恋愛について疎いセフィアが、他人の恋に手を貸そうとしているのだ。

 セフィアは、アコセイサクショの女性従業員に片っ端から声をかけ、スフレ君に恋心を持っている女性がいないか探しはじめた。


「うーん、可愛いけどちょっと頼りないわね」

「異性としては、見れないって感じ?」

 最もなスフレ評だ。実はセフィアも彼をそう思っている。ほとんど元兵士だったアコセイサクショの従業員では、やはりスフレ君に魅力を感じる女性はいないのか、これは街の中で探した方が良いのではと思い始めころ、社員食堂の給仕をしている娘に目がとまる。エリザと言う。

 勝気で、元兵士の男たちにも負けないガサツな娘だが、スフレ君のところに料理を運ぶ時だけは女らしいのだ。黒髪の淫魔女の瞳がキラリと光った。


 セフィアの影での奮闘はさておき、裕介とアコセイサクショのメインスタッフは、魔動モーターバイクでの八時間耐久レースのアイデアで盛り上がっていた。

「じゃぁ、今年の夏至の日のお祭りということでよろしいでしょうか?」

「いいんじゃないか! 街中に声を掛けて、観客を集めよう! 魔動バイクのいい宣伝になります」

「アコセイサクショの従業員を二十チームに分けてのレースですね」

「本体は、同じものを提供しますので駆動部のみをそれぞれのチームで工夫するというのでいいですね」

「あぁ、各従業員の能力向上にもつながる」


 男ばかりでかなり盛り上がっている。

「じゃぁ、俺は政府に掛け合って、サーキットを作る土地を融通してもらってくるよ」

 実は裕介が一番盛り上がっている。

「サーキットってなんですか?」

「レースをするための走りやすい道路を備えた、レース場さ。俺の土魔法で整備する。後々もテスト走行に使えるだろ?」

「えぇ! ユースケさんが、そんな設備を作ってくれるんですか?」

「任しとけ! その代わり、そのサーキットは、『スズカサーキット』と呼んでくれ」

「スズカサーキットですか、なんだか響きだけでもワクワクしますね」

「スズカの暑い夏が、この世界にもやってくるぞ!」


 話はトントン拍子に進み、政府も乗り気でアコセイサクショ傍の国有地を貸与してもらえることになり、大統領首席補佐官の柿沼自らが視察に訪れる。

「裕介、また面白いことはじめたな。スズカサーキットを作って八耐をやるんだって?」

「はい、調子に乗って言ったものの、スズカのコースって良く知らないんですよ」

「任せろ、描いてやる。ゲームで良くやったからな。漫画も読んだし!」


 と言う事で柿沼監修の元で、1周三キロのミニスズカサーキットを裕介は作った。もちろん観客席も作る。走るバイクは、最高速度七十キロ程度のハズなのでラップレコードは、三分程度だろう。

 勿論、アスファルトは無いので路面はただの石であるが、彼らは趣味というか望郷の想いで、わざわざ立体交差のサーキットを作ったわけだ。


 レース当日、ゲルト市民が珍しいイベントだと大勢集まった中、若い娘達の水着姿のレースクイーンがレースに花を添える。その中にエリザも入れられていた。

 各チームには、なぜかそれぞれに魔物の名前が付けられ、件のスフレ君はチームタルボガンのレーサーだった。レーサーは二人一組で八時間を走る。


 フラグが振られ、レーサーがバイクに走り寄って魔動モーターを始動させてレースが始まった。

 二十台のバイクが一斉にスタートする。S字、ディグナー、ヘアピン、スプーン、シケイン、裕介が作ったミニスズカのテクニカルコーナーが次々とライダーを待ち受ける。

 会場は初めて見るバイクレースに大興奮で大盛り上がりだ。


 抜き出たのは、スフレ君の操るチームタルボガンだった。彼らは、独自でギアチェンジと言う機構を考案し、コーナーをブレーキングではなくシフトダウンでパスしていた。ブレーキングで回転を殺さない魔動モーターは、コーナーの立ち上がりスピードが段違いに違うのだ。

 結果はタルボガンの圧倒的なぶっちぎり優勝だった。


 優勝してお立ち台に立ったのは、あのスフレ君だ。レースクイーンのエリザが、優勝のレイをかけ頬にキスをする。そして、セフィアに言われた通り回復魔法を彼に掛けた。

 スフレ君は、夢から覚めた様にエリザを見つめ、やがて二人は、キスを交わした。


 チームタルボガンのギアチェンジシステムは、もちろん黒髪の淫魔女の助言があっての事だった。セフィアは、亜湖ノートのこの項目を見て助言したに過ぎないが、アコセイサクショのバイクに正式に採用され、タルボガンとして新案登録された。


 こうして、スズカの暑い夏は終わった。

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