64 ベイトリール
魔導モーターやサファイアライン、他にもサファイア樹脂ペレットを使ったボトルなど二人で色々作ったり、研究しているうちに冬がやってきた。
ファンヒーターだと、裕介が作った魔導モーターに羽根を付け、コンロで温風を送る装置も暖かいが、セフィアは暖炉の前で裕介にくっついているのがお気に入りだ。
裕介がテーブルで工作をしている背中に自分の背中をくっつけて、裕介が書いてくれた、日本語の物語を記憶した頭の中で読んで日本語を覚えている。瞬間記憶能力というのは、便利なもので、スマホの様にいつでもどこでも、記憶の画像が引っ張り出せる。
裕介もこの頃になると、よく心得たもので、セフィアがそうして甘えているだけに見えても、脳内で勉強している事が分かっているので、特に邪魔はしない。
ドライバーでネジを締め付け、カチカチっと親指でボタンを押し、空のスプールを空回しして、ハンドルを回すと、カチッと押し込んだボタンが戻る。
ハンドルの付け根にある、スタードラグを締めスプールを指で回して軽さを確かめる。
「よし! 出来たぞ!」
「ベイトリールですか?」
セフィアは先に教えてもらったので、裕介が何を作っていたのかを知っている。
「こっちが俺の、こっちがセフィアのだ」
「ありがとうございます!」
「ラインを巻くのは、巻きグセが付くと嫌だから春になってからだな」
「早く、春になりませんかね」
「まだ、冬が始まったところだぞ」
「このリールのキャストは、結構難しいぞ」
「聞きました。大丈夫、私には秘策がありますから!」
「おっ! なんだ?」
「ウフフ、秘密です」
「魔法だな」
「どうして知ってるんです!」
「そりゃ、分かるさ。ハハハ!」
何だかんだ言っても、このリールを作るのに裕介はかなり苦しんだ。亜湖ノートにかなり詳しく書いてあったので、何とかなったが、無ければ多分出来なかっただろう。それでも部品点数はかなり多く、やはり精密機器なんだなと関心する。
問題は材質だ、鉄がベースなので、錆びて直ぐに使いモノにならないように、薄くスライムノリでコーティングしたりメッキをしたり、銅や銀で代用した部品もあるが、かなり重い。日本で いつも使っていたリールの三倍くらい重い。作るには作ったが、セフィアには辛いかも知れない。
アルミやマグネシウムなんてのは、この世界ではやはり精錬されていないらしい。
「アルミが欲しい…」
などとぼやいてみるが、ないものはどうしようもない。
「ボーキサイトの粉を濃水酸化ナトリウム溶液で溶解して、上澄み液に水酸化アルミニウムの粉を入れ、出来た泥を洗って焼成してアルミナを作ります。アルミナに氷晶石を入れて溶解したものを炭素電極で電気分解すれば出来るそうですよ」
「亜湖ノートにそう書いてあるのか? そんな複雑なこと出来るかよ!」
「私にもさっぱり分かりません。あなたに教えてもらおうと思ってたのに…」
「この世界なんだから、魔法で、なんと言うか直接的に取り出す方法は無いものかね」
「無い事も無いですよ」
「あんのか?」
「ウフフ、キスしてくれたら、教えてあげます」
「本当か? じゃ、キスしよう、セフィアちゃん!」
裕介は、口を尖らせてセフィアに迫る。
「嫌! あなた、なんだかそれは嫌です!」
「良いではないか! 良いではないか! うへへ」
「あれぇ〜!」
冬季のほとんど閉じこもりの生活の中で、このバカ夫婦は、最近、こんな遊びを覚えた。
「で、アルミを分離する方法って?」
「私の物質転換魔法をあなたに通すんです。あなたはその魔力を使ってアルミをイメージしてそのベイトリールに魔法をかけてください」
「すると、このリールがアルミに変わるのか?」
「はい、でも全部がアルミに変わってしまうので、変わってダメな部分は外して下さいね。私はアルミと言うものを見た事がないので、私が直接では出来ないのです」
「あるんだなぁ〜」
「錬金魔法の一種ですね」
しかし、このやり方には、裕介に話していない致命的な代償があった。
男が女に魔力を流すと、この魔力で俺の子供を産んでくれという意味があるように、逆の場合、私に産ませて下さいと言う意味になる。
流された男はそっちの方面にバーサーカー状態になり、流した女を襲ってしまうのだ。しかも、男はそれ自体を忘れてしまうと聞く。
まるで、私を襲って下さいと言っているような行為であり、夫婦以外では、恥ずかしくて人には言えない行為だとセフィアは知っていた。
「たまには、そう言うのも良いかも」
大好きで優しい裕介に、たまには乱暴に扱われてみたい。そう言う願望がセフィアにはあったのだろう。黒髪の淫魔女は、「ウフフ」と笑った。
「いいぞ、分解した」
「じゃあ、魔法を流しますよ。そのまま、アルミを強くイメージしてリールに注いでください」
魔力の光がリール部品に降り注ぐ。鉄は裕介がイメージしたアルミ合金に変わり白く輝いた。
「出来ましたね!」
「セフィア〜!」
裕介が振り向くと、目が血走り鼻血を垂らしている。
「あなた…! あん!」
セフィアは裕介に抱き上げられて、ベッドに運ばれていったのだった。




