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59 魔力電池

今日は土曜日なので、二話目の投稿です。

書き置きが続く限り、土日は二話投稿です。

 セフィアは、家でぼんやりしていた。裕介は村のみんなと古い教会を直しに出て行った。

「はぁ、私に魔力があったらなら…」

 子供の頃からなんども繰り返してきた愚痴だ。裕介と暮らし始めて、裕介の強力な魔力を見るにつれ、自分に魔力がないことが、どれほど情けないことかを思い知らされていた。

 裕介はセフィアの頼みで、魔法陣を書いた魔力電池をいつでも一杯にしていてくれる。王宮魔導士時代、十人の男に魔力を込めさせても満タンに出来なかったものを、裕介は簡単に満タンにする。


 しかし、この魔法陣を別の魔法陣に重ねて魔法を起動させることは出来ても、自分に魔法を通すことも出来ないので、裕介の魔法のように自由に操ることが出来ないのだ。セフィアに出来ることは、あらかじめ決めたロジックを魔法陣に書いて、その通りに動く動力を魔力電池から供給することだけだった。わずかでも、自分に魔力があればリモコンのように起動した魔法を意のままに操作できるのだが。


 洗濯機のように魔法陣を書いた箱の中に衣類を入れてクリーンナップは出来る。

 コンロのように魔法陣を書いた石板の上に鍋を置いて煮炊きも出来る。

 魔力電池で水差しに水を満タンにも出来るし、光る石を光らせて部屋を明るくすることも出来る。でも、裕介のものとは根本的に違うのだ、言うなればセフィアは電化製品のスイッチをオンオフ出来るだけだった。

「あー!、魔力が欲しい!」

「えい!」

 光る石に裕介を真似て魔力を流してみるが、当然光るはずもない。


「はぁぁ~…」

 セフィアは頭を抱えてうなだれ、恨めしそうに魔法電池を眺める。

「あっ!」

 セフィアは、ふと閃いた。魔力電池の魔法陣を自分の身体に書いたら、自分の身体が電池になるのでは! 閃きを得ると、研究者であるセフィアはいてもたっても居られない。化粧品を机の上にバラバラバラと出すと、アイブロウを取り出しお腹を捲ってヘソを出した。ヘソの上の方に、アイブロウを使って魔法陣を書き始める。

 自分の身体に自分で絵を描くというのは、やってみると意外に難しい。裕介が作った鏡を持ってきて確認しながら一心不乱に魔法陣を書いていた。


「セフィア~! 帰ったぞ!」

 突然、裕介が戻ってきた。セフィアはテーブルに足を投げ出し、椅子に寝そべって鏡を片手に持ち、腹を捲って自分の身体に魔法陣を書いている。

「なにやってんだよ? セフィア?」

 大好きな夫に、自分のあられもない姿を見られてしまった!

 セフィアは、頬から火が出るほどの恥ずかしさで赤面する。穴があったら入りたい。


「魔力電池の魔法陣を自分に書いてみていたんです。魔力が欲しくって…」

 真っ赤になってセフィアは夫に説明する。

 それを聞いた裕介は、なんとも言えない表情でセフィアを優しく抱きしめた。

「じゃぁ、俺が書いてやるよ。ベッドに寝て」


 ベッドの上に仰向けに寝てお腹を出したセフィアの上に、裕介は跨り神妙な顔をして魔力電池とアイブロウを手にしている。セフィアは完全に服従のポーズだ。

「この通りに書けばいいんだな?」

「はい、お願いします」

 アイブロウの先がセフィアの腹に触れる。


「……!」

「……!」

「ぷっぷっ! だめぇ~! あなた、耐えられない!」

 セフィアは余りのくすぐったさに、耐えられなくなって噴出した! 足をバタバタさせて、涙を流している。

「こら! セフィア! 大人しくしろ!」

「だってぇ~!!」


 不思議なもので、自分でやった時はそうでもないのだが、人にやられると耐えきれないほどくすぐったいものだ。側で他人が見ていたとしたら、「このバカ夫婦は何をやってんだか?」と呆れたに違いない。

 暴れるセフィアを押さえつけ、裕介はなんとか魔法陣を完成させた。

「あー、苦しかった!」

「大人しくしてないから、大変だったぞ。これに魔力を流せばいいんだな」

「はい、お願いします」

 セフィアは、相変わらずお腹を出したまま、ベッドに仰向けになっている。裕介は、魔法陣に魔力を流した。


「どうだ?」

 裕介に魔力を流され、あまりの気持ち良さにうっとりとしたセフィアは、ベッドサイドに置いた光る石に魔力を流してみる。

 ぼわーっと、石が光り始めた。

「あなた!!」

「魔力が使えます!」

 目を輝かせ、セフィアはお腹をしまってベッドから飛び起きる。

 子供のころから夢にみた魔法が、今、初めて使えたのだ。


「クリーンナップ!」

 自分の髪にクリーンナップをかけてみる。艶々の黒髪に仕上がった。

「あなた!」

 零れるような笑顔で、セフィアは夫に抱き付いた。

「良かったなぁ~」

 裕介は妻の艶やかな黒髪を撫でてやった。


「それじゃ、お前も満タンにしとくか?」

「はい、お願いします。これでもうあの魔道具は必要ありません」

「じゃぁ、もう一度寝て」

 セフィアは、言われた通りベッドに仰向けに寝て、またお腹を出した。

 裕介が、魔力を流し始める。


 ポカポカとお腹を優しく撫でられているように暖かい。春の午後の陽だまりの中にいるようで、やがて赤や白の色とりどりの花の咲いている丘に座っている。次に身体が宙にふわりと浮き上がった、そして蝶と戯れ、鳥と空を飛び最後は宇宙に飛び出した。


「……」

「セフィア…! セフィア…! 大丈夫か?!」

 裕介の声だ。

「迎えに来てくれたの?」

「セフィア!」

 セフィアは余りの気持ち良さに、気を失っていた。


「あっ、私、あまりの気持ちよさに気を失っていたんですね」

「すまん、やり過ぎた」

 流した魔力が大容量過ぎたのだ。

「大丈夫ですよ。本当に気持ちが良かったんですから」

 そう言って、起き上がり、お腹の衣服を正し肩の袖を直す。


「あれ?」

 裕介はそういうと、セフィアの直した肩の部分を捲った。

「もう! あなた、まだお昼ですよ」

「いや、違う。お前、肩にこんな文様あったか?」

 そう言われて肩をみると、セフィアの肩に裕介と同じように魔法陣の文様が入れ墨されていた。鏡を持ってきて確認する。


「これって、魔法マエストロの文様ですよ?」

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