46 革命政府
やっと念願の釣りが出来て喜んでいた俺の元へ、珍しい客がやってきた。ミルト親方と弟子のヨハンがゲルトを離れてきたらしい。彼の口から初めて生々しい、首都革命の有様を聞くことになる。
初めのうちはよぅ、良かったんだ。
あの国王に突然反旗を翻した第一連隊と第三連隊、それにエスパール辺境伯の軍が東西からゲルトに集結してな。終結する間に、賛同した血気ある国民も同行して、終結した時には四万の軍勢になっていたよ。第二連隊の中にも離反者が続出して、革命は一週間で決着してアブサル国王は自分がタスクル王にやったように、つるし首になって、革命政府が出来たんだ。
国王は廃止になって、共和制とやらでホフマンが代表に選ばれて、議会と秘密警察とやらでアブサル時代の特権だった、ブロッケン家とキスリング家を取り潰して次々に断罪して粛清していった。そうだな、五百人は死刑になったかな? まぁ、嫌な奴らだったから、市民も喜んでいたよ。
そのうち残党狩りが始まって、議会がもめだしたんだ。議会は、第一連隊のホフマン家、第三連隊のマッケル家、それにエスパール家と市民団体の一部で選ばれていてな、市民団体は貴族特権の抹消を強く求めていたんだな。まぁ、税金免除と領地の開放だな。マッケル家とエスパール家は共和制になったのだから致し方なしと、承諾しかけたんだが、ホフマン家が頑として受付けなくてな。革命政府が一枚岩ではなくなったわけだ。
次第に三貴族は、にらみ合うようになり、ホフマンの息がかかった秘密警察はマッケルとエスパールの尻尾を掴もうと動き出し、果てには市民にまで手が及ぶようになったというわけだ。
飲み屋で政府の悪口を言っただけで、秘密警察に連行されて投獄されるんだぞ!
俺も、ヤバくなったんで逃げて来たというわけだ。
そんなことになっていたのか…
ミステイクのみんなは、宿舎の食堂でミルトの話を聞いて驚きを隠せなかった。
「恐怖政治だな。アブサル王よりもタチが悪い」
亜湖さんが、そうつぶやく。
「フランス革命の時にも同じようなことがあったんだよ」
「えっ、そうなの? 国王が処刑されて終わりじゃなかったの?」
「うん、確か市民のクーデターが起こって革命政府の首謀者が処刑されて、その後の収拾にナポレオンが出てくるんだ」
「じゃ、俺たちはナポレオン? 海野さんが言ってた『ホフマン連隊長にやってもらわなくてはならないこと』ってこのことだったの?」
海野さんはここまで予想していたのだろうか? 確かに俺自身も、革命が起これば旧体制の主要人物が粛清され多くの血が流れることは理解していた。それだけのことをやって恩恵に与った人たちだし、それは仕方のないことだと思う。俺も少なからず恨みがある。でも革命が終わると良くなるものだと思っていた。それがこうなることが分かっていて、革命を起こさせたのだろうか?
「んで、ナポレオンの最後ってどうなったの?」
「確かセントヘレナ島に流されて、病死した」
「ダメじゃん!」
俺を含め、全員がブルーな気持ちになった。
海野さんが、リンゲから戻って来たので、俺はそこのところを聞いてみた。
「うーん、やっぱりそんなことになっちゃったか…」
「分かってたんですか?」
「予想はね。僕は、ここに来てホフマンやマッケルの密談も調べていたからね。結局、ぶつかるだろうなって予想はついていたよ」
「じゃ、なんで?ホフマンに加担したんですか?」
「加担したわけじゃない、この国の変化の触媒の役目をしただけだ。革命をやりやすいように誘導はしたよ、でも、その後どういう国を作るかは、この国の人が決めることだと思う」
そう聞かれて、俺は口をつむぐ。
「日本には、この国よりも優れたところは沢山ある。でもそれをこの国に押し付けたら、それはアブサルやホフマンと何も変わらない行為じゃないかな?」
「裕介君は自分の作った橋やトンネルが、ホフマンを手助けしたと悔やんでいるのかな?」
「いや、そういうわけではないですが」
「僕は、トンネルを作らなくても、結果はこうなっただろう。若しくは、前線を見捨ててでも動いたんじゃないかと思うよ」
「前線を見捨ててですか?」
「この国が限界に来ているって言っただろ? ホフマンもマッケルもエスパールも市民も。みんな誰かが石を投げてくれるのを待ち構えていたんだ」
「その石が俺たちですか?」
「そうなるね。例えば若し僕たちが勇者の力で、アブサルを倒して取り巻きを粛清して新しい国を作ったとして、国民がそれについて来ると思うかい?」
「無理でしょうね。それこそテロだ」
「きっと、誰かが国民の意思を組んで、僕たちの前に英雄として立ちはだかることになったと思うよ、新しい国が生まれるのはその後だね」
「ホフマンは必要悪だと言うのですか?」
「そうとも取れるね。結局のところ、彼のやり方に問題があったのだろうけれど。大事なことはね、国民自らが自分の意思で政治を動かそうとすることだ。それがなければ、民主主義はあり得ないよ。革命政府も市民団体を政府に入れたところまでは良かったんだ」
「もっとも、民主主義が必ず正しいとも言い切れない。名君が存在する絶対君主制のほうが国民にとっては幸せな場合もあるんだよ。だから、僕たちの考えを押し付けるのはオゴリというものだと僕は思う。この国の形は、この国の人たちが右往左往しながでも決めて行くべきだと僕は思う」
「納得は出来るのですが、なんだか釈然としないんです」
「たぶん、誰もが同じ気持ちだと思うよ。僕も実際はそうだ。今は大勢の意見がいろんな方向に向いているからね。民主主義の大原則は多数決だ、大勢の意見が同じ方向に向いてからでないと僕らには手出しが出来ないだろうね」
「確かに、そのとおりだと思います」
「でも、無責任に放置するつもりもないけどね。革命政府からもし市民や仲間に刃を向けるような命令が来た時には、僕は自分の意思で動くよ。僕の理想はそっちの方向じゃないからね。覚えておいてくれ、まだ革命は終わったわけではない、今が革命の最中なんだよ。そして今となっては僕たちも国民の一人にすぎない」
俺は、革命という大きな川の流れに身をさらしているような気持ちになった。確かに海野さんの言う通りだ、しかし、この海野さんに、このままついて行って良いのだろうか? という疑問が初めて頭の隅をよぎった。




