41 ルルド
「フン! サーズカルの連中が、また性懲りもなく川を渡って来おったわい」
ルルド要塞司令長官の、ピアズは鼻で笑った。昨年、パストゥールが落ちたと聞いた時は衝撃が走り、慌てて兵を増強して守りを固めたが、サーズカルからの攻撃は例年通り、いやむしろ例年よりも手薄だった。
「おかげで、弓もたっぷりと用意できた。もう満腹だと言うくらい、ベイグル兵にくれてやれ」
ピアズが大きなお腹を揺らせて笑う。
しばらくしてのことである。伝令の兵がピアズの部屋に飛び込んできた。
「大変です! 北からベイグル軍が現れました!」
「なんだと! いったい何処から湧いて出てきたというのだ! 数は?!」
「二千! いや、まだまだ増えています! 川からの攻撃は陽動です! 既に回廊城壁に兵が浸入しております!」
回廊城壁とは、ラビル川沿いにルルドの城壁から延長された城壁のことだ。内側には街はなく、張りぼてのような川側のみを意識した城壁だ。そのまま、ルルドの城壁に接続されているが、要所に砦があり、門を閉鎖出来るようになっている。
「回廊城壁の門は閉めたのか!」
「三番まで破られました! 残り一門で、ルルド城壁に侵入します!」
「おぉぉ~!」
ルルド北城壁は、どこから湧いて出てきたのか、多数のベイグル軍に取りつかれ、応戦していた。しかし、川側の正面城壁に兵を割いてしまったために手薄感は拭えない。しかも、まだ丘の上に後詰めの兵が続々と増えてきている。
既に、何本もの梯子が城壁に掛けられ、捨て身の兵が梯子を登って、こちらに迫ろうとしている。
「えぇい! 一兵たりとも抜けさせるな! 全て射落とせ~!」
弓兵が、梯子を登ってくるベイグル兵目掛けて弓を射る。その弓兵の胸に、敵の重装歩兵から投げられた投げ槍が突き刺さる。兵は崩れて城壁から落ちた。
「ダメだ! 守り切れぬ! 引け~、引け! 正門城壁砦まで引け~!」
団子状態になって、引こうとするルルド兵の集団の横から、梯子で城壁を登り切ったベイグルのカザット族兵が、剣を振り回しながら飛び降りてくる。ルルド北面の城壁上兵士は総崩れだ。
正門北西角の城壁砦が破られた。ここには兵器庫も備えてある。敵に蓄えた弓矢が渡る。
大量の弓矢を得た、ベイグル兵は城壁上のルルド兵に、そしてルルド内部に向け弓を放ち始めた。しかも一部は火矢となってルルドの街に降り注ぐ。こうなっては、ルルド全体が総崩れだ。
この世界では、治癒魔法があるため、急所に刺さらない限り弓は致命傷にはならない。但し、弓を抜いて治癒が完了するまでの一定期間は戦闘不能に陥る。その間に致命傷を負うか出血多量になれば、もう治癒は不可能で命を落とすことになる。
ついに、北門が破られベイグル兵が雪崩れ込む、続いてベイグル側の正門が破られた。
逃げ出し始めた兵たちは、フレーブ側に位置する裏門を開けてぞっとする。正面に約二千の敵兵が待ち受けていた。後ろから押されて門を出たものに容赦なく弓の雨が降り注ぐ。
「ダメだ~! 裏門も囲まれている!」
ピアズがお腹を揺らせて笑ってから、ほんの三時間ほどの出来事だった。二十年ベイグルを阻み続けたルルドが落ちた。
フレーブ側死者二千、重傷者五百。ベイグル側死者五百、重傷者百。
重傷者というのは、手足指など体の一部を失った者の数だ。治癒魔法では血液を含め失った部位の再生は出来ない。
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昨年、裕介達が作ったパストゥール後方の新しい湿地帯の湖岸で、フレーブの最終防衛ラインを任されていたのは、フレーブの将軍、ぺリスボール公爵だった。
彼の元にルルド陥落の報が届いたのは、ルルドが落ちて五日後のことだった。
パストゥールからのベイグル軍の侵攻に対し、この地を最終防衛ラインとして兵一万五千を引き連れこの地に陣を張っていたが、この報を聞いて、ぺリスボールは「正直、守り切れない」と思った。
フレーブには西のベイグル以外にも、南には大国イスロンが国境を接している。この対イスロン兵を割いてまで、こちらに回す余裕はないのだ。二十年、国境を守ったパストゥールとルルドが落ちた今、平野の会戦でベイグルの総力で侵攻されると、この兵では守り切れないのだ。
それでも将というのは、兵士の士気を落とさず立ち向かわなければならない。
ぺリスボールは、七千をこの地に残し、八千を率いて、ルルドに向かった。
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ぺリスボールの軍がルルドの東に到着したのは、十五日後のことだった。
陣を張り、相手の出方を観察する以外に方法はない。サーズカルのホフマンという将軍はどんな戦い方をするのか? ここは待って出方を見る以外仕方がない、なんと言っても、フレーブの最終防衛ラインなのだから。
十五日後、「敵襲!」との報告が陣内をかけ巡った。
「その数、六人?!」
八千のフレーブ軍の前に現れたベイグル軍は、僅か六人であった。
ベイグルには目辛しいほど、小柄で、それぞれが馬に乗り、一人は女と相乗りだ。但し、ベイグルの国旗を堂々と掲げている。
「敵なのか?」
ぺリスボールは、自分の目を疑った。




