40 撤収
最後に俺は、もう一度構造物を固化して回り、お世話になった鉄の溝をインゴッドに変えている。かなり錆びて酸化鉄になってしまったが、この世界で三トンの鉄は貴重なのだ。もう一度、鍛え直してもらえば再利用できる。
そうしながら、このインゴッドや、その他の持ち帰る装備品、残った食糧などを並べて先に帰った仲間が馬車で迎えに来るのを、みんなで待っている。
「カワハラ中佐、ご苦労様でした」
「うん、アリサも大変だったね。ご苦労様」
頭を撫でてやる。
「てへっ! ベラさんのお守が大変でした」
「ハハハ!」
「でも、池宮中佐に料理を沢山教えてもらえました。今度、ご馳走しますね」
「楽しみにしてるよ」
「池宮中佐、握手していただけませんか…」
えぇ~、スピカさんのタイプって、池宮さんだったの?
「わはは、まいったなぁ~。スピカさんて私の娘の年齢じゃないか」
などと言いながらも、まんざらでもない様子。
「死刑だな、死刑!」
「そうだな。あれはれっきとした犯罪だ!」
亜湖さんと柿沼さんが茶化している。二人は男にはモテるんだけどなぁ~
そんなことをしているうちに、待っていた馬車四台がやってきた。
三月を過ごした封印した兵舎を振り返った後、馬車に乗り込む。
あぁ、感傷に浸っている間はない、これからが本命の戦闘だ。
俺はそう自分に言い聞かせながら、馬車に揺られ自分が作ったトンネルをサーズカルに向け登っていった。
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「本当に出来たのか!」
海野の報告を受け、大隊長全員と参謀達を引き連れて視察に来たホフマン連隊長は、トンネルを抜け橋の袂まで来て、そのあまりにも壮大な構築物に驚きを隠せなかった。
「確かに、これなら重装歩兵、騎馬五千でルルドの横っ面を叩くことが出来るな」
「はい、察知されないよう、まだルルド側のトンネルは最後の部分で止めてあります」
「うむ、よくやったウミノ。マッケルのジジイがべた褒めするハズだ。よし、こうなれば全軍を率いて総攻撃だ。バルドス!」
「はっ!」
呼ばれたのは、子飼いの第一大隊長だ。
「貴様が欲しがっていた、あの高地が取れるぞ、昨年の汚名返上のチャンスだ。カザット族の雄姿を見せてみよ」
「はっ!」
海野は、ここまで来て奇襲ではなく、正攻法で攻めるのかと、内心舌打ちをした。しかし、カザット族はホフマンの一族が治める土地の民族だ。第一連隊の三分の一、約二千五百がカザット族だと聞く。ホフマンにすれば、ルルドをカザット族で落として威厳を示し、王都を攻める足掛かりにしたいのだろう。このまま奇襲で攻めれば、パストゥールと同様にミステイクの手柄になってしまう、だからだろう。言わば、美味しいとこ取りだ。
シャクに触るが、後々、ホフマンを敵に回すことを考えると、ここは少しでもカザット族の勢力が削がれるに越したことはないと、算段した。
頼りになる味方は強敵にもなりうるということだ。
別に海野の能力を持ってすれば、これだけ欲の強いホフマンであれば、魔物のように自在に意思を操作することも可能だ。しかし、海野はその能力を人に使おうとはしなかった。この国の人間の意思でこの国は変わるべきであり、そうでなければテンプレートな民主主義の器を導入したところで、国民はついてこれないと考えていたからだ。
海野自身も日本という平和国家で生まれ育ったからかも知れない。誘導はしても自由主義を守ろうとする心を深層意識で守っていた。
そして革命には、血が流れる必要があると覚悟していた。
いつものように、川の正面から大六、七大隊の二千で攻め陽動し、正面にルルドの兵力を集中させたところで、トンネルを開き、第一、二大隊のカザット族主体の二千で側面から攻める。残り三千は後詰めということになった。
海野は、ミステイクで城壁を崩すことも可能だと提案したが、「その必要はない」とバルドスに言い切られ、ここは出しゃばらないように引き、遊撃軍として後詰めで待機することになる。
いよいよ、ルルド攻めの日がやってきた。
五千人の兵士や馬がフレーブ側のトンネル内に並び、後方は橋の上にまで並んでいる。
進撃の時間が来た。合図で裕介はトンネルの最後の壁を昇華させた。




