35 テスト
作戦会議以降、ミステイクの面々は活き活きと働きだした。ミステイクに入れて良かったと、それぞれが思っているのが伝わってくる。まるで、伸び盛りのベンチャー企業のようだ。次々と臆せずにアイデアが出てくる。
海野さんは、経営者としても一角の人物なのかも知れない。
亜湖ファミリーが研究していたゴム素材が出来たそうだ。
「裕介、ゴムには二種類あるって知ってるか? ゴムの木から作る天然ゴムと、石油から作る合成ゴムだ。元の世界の二次大戦で日本軍にゴムの木の生産地を占拠されてしまって、困ったアメリカが急遽考えだしたのが合成ゴムだ。タルボガンの血から作るゴムは、どちらかと言えば合成ゴムの完成品に近いんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、ゴムは硫黄や炭素などを混ぜて作られるものだが、このゴムはその完成品と言っていい。そのまま成形して焼き固めればタイヤにも使えるようなものなんだ」
「ゴムの匂いが血の状態の時からしてましたもんね」
「そうだ、ゴム長のクロロプレンゴムと同じ匂いだった。これでパッキンや油圧のシリンダのOリングなんかも作れるぞ」
「ステラの髪留めを作るつもりだったのでは?」
「おう、もちろんだ、お前のアリサのパンツのゴムも作ってやれるぞ」
「作りません!」
「まぁ、最初はゴム手袋だな。厳冬期に間違って素手で金属なんぞ触ったら手が離れなくなるからな」
「タルボガンの着ぐるみの手があるじゃないですか?」
「破れたら大変じゃないか! 作業するには辛いだろ?」
「そりゃ、そうですね」
「海野さんが。土砂を流す鉄の溝状のものを、二百メートルほど、繋いで使えるように作ってくれって言ってたぞ。ほら、ミキサー車の最後に付けるヤツみたいなのさ」
「人使い荒いっすね」
「そりゃ、ミステイク土建は土の勇者あってだからな」
「建設じゃなかったんですか!」
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さて、アーチ橋の実験だ。池宮さんが、耶馬渓橋の簡単な図面を描いてくれ、それを元に柿沼さんが、崖に実寸の絵を描いてくれた。
B地点の湖の深さは四メートルとのことだったが、たぶんダム上流に堆積した土砂で浅くなっているんだろうとの推測で、滝の高さと同じ六メートルに橋の高さを決めたそうだ。橋脚の基礎部分は、魔力の届くところまで固めてくれとのことだ。水流で橋脚が流れる可能性があるそうだ。耶馬渓橋は、幅が四メートルほどなのだそうだが、六メートルでテストしてくれとのことだった。
長さ五十メートルほど、高さ十メートルの崖を削り倒して、固め直し、一枚岩の三連、幅六メートルのテスト用のアーチ橋を作った。
上を歩いてもまったく問題ない。高さ六メートルだから、落ちたら死ぬが、見た目だけでも、そんな人が乗ったくらいでどうにかなるほど、華奢のものではないのだ。
次に池宮さんが、上と横から風魔法でテストする。竜巻レベルはヤバいのでやらなかったが、台風レベルでは問題はなかった。
削った崖に橋の高さの位置で道を作り、足場にして一個四キロの型抜きして煉瓦状に固めた石を橋のど真ん中に投げおく。これは、かなり重労働なので、何日もかけてみんなでやった。俺は煉瓦作りに専念した。三千個だよ!作るだけでも大変なんだから。
結果、この橋は十二トンの荷重にも耐えたんだ。
池宮さんは、アーチも大きく取ったし、石積みではなく、一枚岩だから、耶馬渓橋よりは強いはずだ。けれど、一枚岩だから割れが入ると、そこから水が浸入して凍って割れがひどくなり脆いかもと言っていた。本当は鉄筋を入れたかったのだけれど、この橋に使う鉄筋の量は、この世界ではまだ確保出来ないんだとか。
俺たちは、氷が厚くなったらB地点に移動し、そこで工事をしながら春まで過ごすことになるらしい。あまり数がいても仕方ないので、二十人志願者を募って工兵を募集したら、千人の応募があったらしい。その中には、あのドリス大尉も混ざっていた。グレッグ少佐が女一人では、不憫だろうと、女性兵士を二人を入れて、三十七人で工事に当たることになる。
現場で崖をくり貫いて、兵舎を作るのが最初の工事で厳冬期前の先行工事になるので、その図面を柿沼さんと、池宮さんが描いた。三人一組の部屋になるそうで、食堂、倉庫、食糧庫、会議室、部屋が十三室、竪堀の搬入出兼換気口、ちょっとしたダンジョンで生活だ。
柿沼さん、亜湖ファミリーと協力して、工事資材、長靴、手袋、アイゼン、アイスピッケル、ワカサギ釣りの時に使うような、氷に穴を開けるハンドドリルなどを作った。これには、連隊長のお墨付きで、サーズカルの戦利品庫のフレーブの剣などをあるだけ、好きに使っても良いとのことだった。あの連隊長にしては、破格の待遇だ。
ハンドドリルは、一応の為で、柿沼さんの火魔法を指向的に使う用の、円筒の耐火煉瓦の筒の方が仕事が早いかも知れない。
こうして準備しているうちに、秋は深まり、先行工事の時期となった。




