34 厳冬期作戦
俺たちミステイク全員が、兵舎の作戦会議室に集められた。と言っても食堂の隅なんだけどな。
海野さんが、地図をテーブルに広げて作戦を説明する。
「個々に話はしていましたが、先ず、今後の説明を先にしておきます」
みんな、久しぶりの作戦会議なので緊張している。
「ミステイクの目的は、戦争を終わらせて、この国の王を排除することです。次の作戦いかんで、戦争が終結し、ベイグルに革命が起こって、王政が廃止される可能性があります」
「うむ、それは聞いているが夢物語ではなかったのか?」
エクレア少尉が、口を開いた。
「現実の話ですよ。みなさんには、私から個別にお話しして、特にこの世界の方々には反対はなくそれに向かって勇者たちが動くのであれば、協力したいという意向をお聞きしていますが、隊員全部が揃ったこの場でもう一度確認しておきたいと思います」
「自分たちは、みんな今の国王派からはむしろ粗略に扱われている一族の出です。国のほとんどの者が望んで、口に出来ないそれを、ミステイクが助け、その勝算があるというのであれば、一緒に働きたいと思います」
レア伍長が兵士を代表して意見を述べる。兵士たちも、うんうんと皆が頷いている。
「私は、ミステイクの一員になった時から、こんな日が来ればいいなと願っていました」
グレッグ少佐が嬉しそうに言う。
「私も、第三連隊も、みんなほぼ同じ意見だと思います。連隊長までもが王宮を嫌っていますから」
テクニ少尉も同意する。
「転生者の我々が率先して、自分たちの怨恨でこの国を変えるというのは道義上よくないと思うので、僕たちはあくまでも手助けですよ」
「連隊が軍として動くのであれば、そもそも我々に命令を拒否することは出来ませんから」
みんなが、首を縦に振りながら、納得の表情をする。
「わかった。みんなの同意が得られて安心したよ。但し、このことは軍事機密として心得てください」
「じゃぁ、これから説明する作戦は、次のステップでそういう事態に発展する可能性の高い作戦だと理解した上で聞いて欲しい。かなり厳しい作戦だ。ミステイクの命運もこの作戦にかかっています」
海野大佐が、そう前置きした上で作戦の説明が始まる。
この川下に、昨年第一大隊が上陸しようとした、川が四分の一、二百五十メートルに細くなっている地点があるのは知ってるね。ここからは、僕たちがいた世界の単位、メートルを使って話させてもらうよ。みんな理解できるだろうからね。
そこをA地点としよう。このA地点から川下は、同じ川幅で急こう配になっていて、どんどん両岸が切り立っていくんだ。その先に川幅一杯の六メートルほどの滝があってね。かなり綺麗な場所だ。ここをC地点とする。
たぶん、この滝は昔に両岸の崖が崩落して、川を堰き止めてダムのように落差が出来たのだろうね、そのため、この上流はちょっとした湖になっていて、深さが常に四メートルほどある。
流石にこの場所を越えようとするものはいないし、両岸とも断崖絶壁で陸からも危険で寄り付けない。フレーブもこの場所までは巡回範囲に入っていない。僕は厳冬期にこの場所に橋をかけようと思っているんだ。この橋を架ける場所をB地点とする。
「でも、そんな場所行くだけでも大変でしょ、工事資材の搬送とかどうするんです?」
柿沼さんが質問する。
「厳冬期だから行けるんだよ。元の世界に川に厳冬期に出来る、二十トンを超えるトラックが通れる結氷道路ってのがあるんだ。ラビル川の厳冬期の氷はそれに匹敵する。川に氷の道路が出来るんだよ。資材もいくらでも氷上を滑らせて運べる」
「なるほど、川を歩いて行け、運搬も出来るわけですね」
「そうだ、この水深があるところだけ、そんな氷が張るんだ、川の全てが凍り付くわけではないからね」
「この氷を利用して石の橋を架ける」
「つまり、ところどころに氷に穴を開けて橋脚を設けて、その上の氷上に橋げたを作っていくと?」
「少し違う。先ず氷にピンポイントで穴を開け、液状の土砂を流す。そして固めると石の支柱が出来るよね。いくつか支柱を作り、次はその支柱を繋ぐように、川を遮る方向に氷に裂け目を入れて、土砂を流して固めると、石の土手が出来る。その土手を橋の両側に作るんだ。そして間に湿地道路の要領で土砂を流して固めると、橋の土台になる道が出来る。湖の水を抜いて橋げたの部分をアーチ状のトンネルにしたら、石のアーチ橋の完成だ」
「湖の水を抜くってどうやって? それに、春を迎え氷が解けて水が流れ始めると、橋は沈んでしまいますよ」
「だからC地点のダムになっている滝を壊すのさ。するとこのB地点は湖ではなくなり、普通の川になる。水位は増水期でも前期の水位だと橋げたの下にしかならないんだ」
「おぉ、立派な橋が残りますね」
海野さんの説明は続く
「この橋はね、革命が終わった後の国境道路にしたいと思っている。だから馬車が通れる必要があるんだ」
「でも、両岸は断崖絶壁でしょ?」
「そこで、またユースケ君のトンネル工事に頑張ってもらう。両岸にこの間と同じくらいの勾配のトンネルを掘ってもらって、それを国境門にしたいと思っている。ここは戦争が終われば馬車や人が通るんだ」
「また、トンネルを掘った岩を橋の材料に使うわけですね?」
「そう、ご名答! 幸いこの岩盤は、ラビル川の急流でもなかなか削れない、強固な岩盤だ。重宝する石橋になると思うよ」
「石橋の強度は大丈夫でしょうか?」
「大分県に耶馬渓橋って八連のアーチ橋があってね。それを参考にしようと思っている。ユースケ君に実際にアーチを作ってもらって実験して問題なければ、それを採用しようと思う。柿沼さんと池宮さんはそれを補佐してください」
「わかりました」
「亜湖さんと亜湖ファミリーは、氷に穴を開ける道具、氷の上を歩いて現場まで行くための装備一式の開発をお願いします」
「グレッグ少佐と、エクレア軍曹は工事に必要な衣類や、一冬過ごすミステイクの生活用品一式、そういった細かいことを任せる。他の人は手伝えるところをそれぞれ手伝ってください」
「この工事の後の戦闘で、この戦争を終わらせるよ!」
「おぉぉ~!」
海野さんは、最後にそう言って作戦会議を締めくくった。
ミステイクの隊員でも、この世界生まれの人たちは、生まれて初めて戦争が終わった後の明確なビジョンを持った話を聞いた。彼らが俺たち以上に奮起したのは俺にも伝わってきた。




