30 テクニ少尉
「おはようございます!カワハラ中佐」
「おはよう」
って、誰だったっけ? 何処かで見たことある人だけど?
若い、爽やかな青年に朝から食堂で挨拶をされ、俺は誰だったか悩んでいる。亜湖さんがやって来た。
「おう! 来たのか?」
「亜湖中佐、いえ師匠! おはようございます!」
「師匠?! なんの?」
「わはは、裕介、覚えてないんだろう? リンゲで俺と一緒に望遠鏡を作ったテクニ少尉だ」
「あっ! あぁ~! 失礼しました」
「いえ、とんでもない。あの時はカワハラ中佐は、とてもお忙しかったですから、覚えていらっしゃらなくて、当然です」
「すまん」
「こっちに来て、俺の側で技術を学ぶって聞かなくてな。ちゃんと許可をもらって来たんだろうな?」
「もちろんです」
「おれは、ヒルトン中尉の方が良かったんだがな」
「あっ、ヒルトン中尉がみなさんによろしくって言われてました」
「みなさんかーい!」
「じゃ、今日からお前は俺の小間使いだ」
「技術を教えてください!」
「使われながら覚えろ!」
「了解です!」
爽やか、テクニ君は亜湖さんの弟子になった。違う技術を覚えなければいいが…
それに触発されたのか、エクレア少尉の下の二人の兵士が、エクレア少尉に申し出る。
「自分らも、亜湖中佐の下で技術を学びたいのであります!」
「ん~? お前らもか?」
エクレア少尉が海野さんを気遣う。
「いいんじゃないですか? 戦争が終わったら、若い技術者は沢山いたほうがいいでしょう」
「いいだろう! 海野大佐に感謝しろよ。その代わり、戦闘時はしっかり働け!」
「はい!」
確か、レア伍長とチーズ伍長だったと思う。こうして、亜湖ファミリーが誕生した。
「じゃ、お前らに機械の三大要素、ネジ、ギア、ベアリングの基本を教える。暇な時はいろんなサイズのものを、製図しとけ。上手く描けたら、カワハラ中佐に実際に作ってもらう」
「えっ? 俺が作るの?」
「この三つがあれば、リールが作れるぞ」
亜湖さんが、こっそり言う。
「なら、オーケー!」
「じゃ、ホフマン連隊長が戻られたそうなので、僕は参謀会議に行ってきます。」
海野さんはそう言って出かけて行った。連隊長、帰ってきたのか~!
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「くっそ! パストゥールが落ちたせいで、ボロクソに言われたわ! 今年中に落とせと言っておる!」
参謀会議の席で、ザイス・ホフマン連隊長が恨めしそうに海野を見ながら言う。
「また、第一大隊からだが、作戦はどうなっている?」
「はっ!ルルドの守りが固くなっており、兵が増員された模様であります。この為、これと言った妙策が見つからず、昨年の高地を奪回する方法を未だ検討中であります」
「脳なしめ! 他の大隊から、妙案はないか?!」
他の大隊長、参謀たちはうなだれる。
「えーい! もうよいわ! 来週の参謀会議までに、各隊、夜を徹して作戦を立案してまいれ! 海野大佐のみを残して、解散!」
参謀達が立ち去り、会議室には、連隊長と海野だけが残った。
「第二師団のキスリングと、親衛隊のブロッケンは何もせぬのに、国王の威を借りて偉そうにいいおって! お前らミステイクをよこせと言うてきおったわ!」
「それは、困りましたね。せっかく兵舎まで頂いて、みんな気を良くしているというのに」
連隊長の言葉に海野が困った顔で返す。
「ここだけの相談なのだ。他言は無用だぞ。ミステイクでルルドを落とすことは出来るか?」
睨みを利かした目で、連隊長が問う。そしてベイグルの方向に目をやる。
「もしも、ルルドを落とせるなら、落としたのち停戦して王都を攻めると?」
少し、間を開けてため息をつくように、海野が問う。
「ふん!」
連隊長は明確な回答をさけ、目と口元の動きで答えを言った。
「マッケルとエスパール辺境伯からそのようなことを聞いたことがある」
「どうせやるのなら、主になって、という事ですね?」
「どうだ? 悪いようにはせん」
「いいでしょう、私たちも王宮には少なからず恨みがあります。ルルドを落としましょう。但し…」
「但し…、なんだ?」
「春まで待ってください。今から落として、フレーブと勝手に休戦し、厳冬期を迎えれば、王宮に感づかれ準備の期間を与えてしまいます」
「うむ」
「厳冬期の間にルルドに気づかれずに工事を行い、春の渇水期に第一大隊が拘っている高地から、一気に全軍で攻めましょう」
「全軍で? どうやって川を渡る?」
「橋をかけます」
「出来るのか?」
「我々、ミステイクなら」
「責任は背負ってもらうぞ?」
「問題ありません」




