17 蜜月の一節
レクリエーションから、2週間。
渋るフレンから雷光の剣の使用と使い方をぶんどり(主にシエロが問い詰めていた。)、平穏な日常を過ごしていた。
昼食のスープを意味もなくかき混ぜて、今の現状を今一度整理する。
食堂の喧騒が、今は耳に心地良かった。
情報収集のために平均的で平凡な一般生徒を演じているはずの私が王子と行動を共しなくてはならない……と、懸念していたアーサー王子については、彼はシエロに懐いたので基本的にはそっちと行動を共にしている。
シエロにも迷惑そうなそぶりはなく、仲良くやれているようだ。
……これならクラリスに選ばれなくてもそこそこ良い感じの性格に育つのでは?
そして負けたフランは意外にもさっぱりしていて、「俺もまだまだだなー」と言うのみだった。
ハルト同様にライバル宣言されて度々戦うことになるとかだったらどうしようと思っていたのでこれには安心した。
安心じゃなかったのはむしろロミオ王子だ。
「君はアーサーの味方をするんだね。」とにこにこしながら冷ややかな声で言われるの怖いのでやめていただきたい。
攻略対象の最後の一人、ノエル=フリードさんとはまだ知り合いになれていないので現状詳しい情報は不明。
リアラ=キスクはゲームと同じようにクラリスと仲良くしているようだ。
レクリエーションで知り合ったクラリスとは……ほとんど関わりがない。
講義に出席した時に挨拶を交わすようになったくらいだ。
クラリスとはハルトの方が仲が良い。
この前も一緒にプリントを運んでいるのを見た。
「食べないんですか?」
スープをかき混ぜていた手が止まる。
そう、最近の私はどうなのかと言うと……。
「ちゃんと食べないと、後で動けなくなりますよ。」
ハルトと行動している。
言い訳をすると、女の子の友達はいる。
お茶会で話が盛り上がる子もそれなりにいる。
しかし、情報収集やら王子達との接触やらで単独行動が必須になるのも事実。
そのため特定のグループには属さず、のらりくらりやっていく必要があるのだ。
クラスの概念がある学園ならこのやり方は大分キツかったと思う。
誰々と組んでとか班を作ってとかがあるものね。
幸いお茶会では1人でいがちな私をフォローしてくれるグループと親しいので恵まれている。
ハルトも似たような理由だろう。
基本的に1人でいる。
むしろいないことがちょくちょくあるけれども。
私とは一緒にいても問題がなく、課題やらお互いの情報交換のために、こうしてお昼を一緒に食べていたりする。
クラリスに誤解されたりしないのか、とちょっと心配しているが、ハルトからクラリスとどの程度仲良くなったのか情報を得るために特に何も言っていない。
暫くはこの状況をキープしたい。
「ちょっと考え事を……。」
「課題ですか? なんにせよ、食べてからにしてはどうです。」
「そうですわね、そういたしますわ。」
人目のある食堂なので、口調は丁寧に。
うー、崩したい。
この喋り方は落ち着かない。
「クラリス様とはどうですか?」
「どう、とは?」
「そのままの意味ですわ。」
「ふむ。」
カチャリ、と音を立ててカトラリーが置かれる。
ハルトの手がマントを留めるチェーンに触れる。
……音の遮断かな。
でもなぜこんな世間話で?
「彼女の経歴を調査しましたが、不審な点は見つかりませんでした。」
しら、べてるの!!?
好感抱いていたりしないかなーって尋ねたんだけどな!?
「あちこち駆け回ってトラブルに巻き込まれたり人助けをしたり……、なにか裏があるのかと思ったのですけれど杞憂で終わりそうですね。」
最初から優しいハルトが裏では冷徹に審査してるってなんか夢壊れる……。
ちょっと知りたくなかったかもしれない。
「人助け、なんて出来れば理想ですけれど、それを積み重ねるのは限りなく不可能に近いものです。人間はそんなに強くは出来ていない。……しかし彼女は出来ている。なら、彼女はそういう人なのだと割り切るべきなのでしょうね。」
「まぁ、貴族であれば弱者を助けるのは当然ですわ。」
「そうですね。貴族とはそういうものだ。……彼女は生活に余裕があるからこそ、人よりも寛大なのかもしれませんね。」
ハルトは誰にでも優しい主人公を不審に思っていたのか……。
ん? 待てよ、誰にでも優しい……?
「ねぇ、ハルト?」
「なんです?」
「好きなの?」
「ぶっは」
ハルトがお茶を吹き出す。
その反応はやはり!?
「何を言い出すんです。」
「だってなんか、誰にでも優しいクラリス様に不満を抱いてるように聞こえたもので……。」
ハルトって結構好きになるの早いし……。
いや5月の時点ではそうじゃないと思ってたけど。
ハルトが口元をナプキンで拭いながら、ジト目でこちらを見てくる。
これは……呆れてるな?
「僕は疑うのもお仕事なんですよ? 君も、今は大きな仕事は任せてませんけれど、そのうち必要になるんですからね?」
「ひっ、すいません!」
お説教モードに入った!
こうなったら長いんだよなぁ。
わりとしつこい。
ハルトの声、好きだからそんなには苦痛ではないけれども。
ゲームではそんな事なかったのに。
私だからか! 差別だ!
でもそんなハルトたんも可愛いですありがとうございますハルトの生きてる世界、ハルトを育んだ環境、すべてに感謝あるのみだ。
「それに彼女は優しいというより、なんでもかんでも安請け合いする……という印象の方が強いですね。体よく押し付けられているのに張り切って……放っておくのも目覚めが悪いですし。」
……気になるあの子、という感じか。
ふむふむ。
これはハルトルートワンチャンある?
「しばらくは彼女は監査対象です。君も十分気を付けた上で対処して……。」
話ながら、ハルトは何かを見つけたようで、信じられないものを見たような顔をした。
絵に描いたかのようなぎょっとした顔だ。
「すいません、今日はここまでで!」
慌ててトレーを掴んで返却棚に乱暴に置き、ハルトは食堂を去って行った。
ちらり、と視線をやると、大きな箱を抱えて歩くクラリス様が見えた。
ああ、助けに行ったのか。
そういえばそんなイベントがあったかもしれない。
「……妖精さん、彼らの蜜月の一節を私に。」
ナプキンに手を置いて、魔法を唱える。
……ちなみにオリジナル魔法である。
一般的な魔法だったらヤバすぎる。
プライバシー0。
クラリスと合流したハルトの言葉が文字となってナプキンに浮かび上がり、そして消えて行った。
『そんなに大きいもの、一度に何個も重ねて歩いたら危ないですよ!』
『ハルトさん! 大丈夫です、見た目に反して軽いんですよ、この箱。』
『前が見えないと危ないですよ。……こういうときは、周囲に頼っていいんですよ。ほら、貸して下さい。』
ああ、こんなイベントあったな。
教師に教材室まで運ぶように頼まれた主人公。
箱が思ったよりも軽かったため、一度に2つずつ運んでも大丈夫だろうと楽観視した。
前が見えなかったために彼女は転んでしまう。
しかし途中で置いていくわけにもいかないのでそのまま進むと、ハルトが半分持ってくれた。
手伝ってくれたため運ぶのはすぐ終わったけれど、足首が痛いのを隠して作業していたから、最初は違和感を感じるだけだった足は最後には痛みが走るようになってしまった。
ハルトは主人公を医務室に連れて行き、早く言わなかった事を叱った。
そんなハルトに対して、クラリスは笑ってこういうのだ。
『ハルトさんは優しいね。』
正解の選択肢が、浮かんで、消えた。
次のイベントは舞台観賞会。
芸術に触れ、豊かな心を育みましょう、と企画されたこのイベントでは、4人一組で観賞をする。
パルコ……もといボックス席が生徒それぞれに用意されている。
舞台観賞を終え、定期考査を超えればすぐに固定ルートへ突入する。
時間は、想像しているよりもあっさりと、過ぎ去って行ってしまいそうだ。
とりあえず書けた分を。
続きも書け次第になるかと思います!




