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〜異世界冒険記2〜慣れを体感してみた

ワタルは、村での生活も慣れてきたと感じて

いつもの水汲みを、「習慣」と表現しながらマリに伝えてみると…

 バーベキュー会場からみんな無事に戻って来た、翌日の話になります。


 僕は、昨日の事が少し気にはなったが、目を覚ましてくれない事には、話を聞くことも出来ないので、目を覚ますまではいつも通りに過ごす様に伝えた。

 この村には、初めて訪れた時とは違い、子供たちもたくさん増えているが、

「わかった!」

と言って、子供達は素直に言うことを聞いてくれた。


 よく、漫画やアニメではこういったシーンではトラウマに怯え、それが残っていて村での生活に支障をきたすという場面が描かれていた。


しかし、


「困った事があったら、相談しておくれよ?」


「分かったよ、おばちゃん!」


 と、こんな感じに、村の人達が優しくしてくれているので、僕は心配していなかった。


(さてと、僕もいつもの水汲みを始めようかな。)

と思い、家の裏に回っていき、バケツの準備を始めた。


 バケツの準備が終わった頃に、

「もうそろそろ行くの?」


と言う、マリの声が聞こえてきたので、


「うん、もう準備が出来たから行くよ〜。」

僕が返事をして少し待っていると、


「お待たせ〜!」

と言って、靴を履いたマリが目の前に来たので、


「それじゃあ、いつもの水汲みを始めようか。」

「うん!」

 僕たちは、そんな声を出しながら2人で並んで、川に向かっていった。



 いつもと変わらない風景を見ながら、

「もうこの風景も見慣れたね。」

と、マリに聞いてみた。


マリも、

「そうだね!

だいぶ、こっちの世界にも慣れてきたね!」

と言って、元気に尻尾を振っていた。


(こっちにきてからかなり時間が過ぎたけど、マリの言うとおり、かなり馴染むことは出来ていると思う。

ただ…)

僕は、少し戸惑っていた。


 

 理由としては、この世界に来たのは自分の意思だったので、今更帰りたい、とは全く思っていない。

 それに、『馴染む』や、『慣れ』というものは大事にしたいと思っている。

 ただ、問題なのは、『慣れ』が日常になってきたときに、『習慣』として受け入れても良いかということだ。


 『習慣』にも種類があり、日本でもあった『生活習慣病』みたいな、病気に繋がる様なものじゃなければ基本的には、1日の始まりの合図となったりする。

 例として僕の事例を紹介しておこうと思う。


 僕はこの世界に来る前には、半年未満という短い間だったけれど、工場勤務の会社員をしていた。

 仕事内容は、簡単に言えば、検査の仕事をしていたのだが、その仕事場はクーラーも無く、冷風機や小型の扇風機しかない部屋で行っていた。


しかも冷風機は、毎日水汲みをしなければならず、仕事以外の仕事を毎日することになっていた。


しかし、仕事にも少し慣れてきたとある日、偶然一緒に仕事をしている人が休みで、小部屋で1人仕事をすることになった。

 流石にまだ僕は新人なので、1人はだめなので時々様子を見に来てくれてはいたので本当に1人ではなかったのだけど、朝は1人だった。


 その日は、割と涼しくて冷風機も無しでも過ごせる気温ではあった。なので、冷風機の水を変えずに仕事を始めようとしたが、

(何となく、仕事の開始って感じがしないなぁ…)

そんな気分になったので、時計を見たが普通に始業の時間となっているので気のせいだと思い、仕事を再開した。

 しかし、すぐに気持ちが削がれるような感覚に陥ったので、

(もしかして、冷風機の水を変えてないからかな?)

と、思ったので冷風機の水を変えていった。


いつもは2人でやる作業を1人でしたので、多少戸惑ったが、何とか変えることが出来た。

そうして、水を変え終わってから冷風機のスイッチを入れると、

(あ、何かやる気が出てきた!)

特に何をした訳でも無いのに不思議と気持ちが入るような感じを得て、それから仕事を頑張っていった。


 

 こんな事例の様に、『慣れ』から『習慣』となると、しないだけで1日のリズムが狂う様な感覚に襲われてしまう。

 なので、僕は下手に『習慣』を作りたくは無かった。


そんな考えに浸ってしまっていたので、

「お〜い、ワタル〜!」

と言うマリの声で我に帰ってきた。


「急に立ち止まってどうしたの?」

マリが心配したように聞いてきたので、

「ちょっと『習慣』っていうものについて考えてたんだ。」

と、僕は答えた。

マリは習慣という言葉が聞き慣れないらしく、

「習慣って何?」

と聞いてきたので、僕は軽く、


「それをしないと、1日が始まっていかない事かな?

例えば、こんな風に、水汲みを毎日する事に近いと思うよ。」

と言って、バケツを軽く上げながら言った。


マリは少し考えていたが、

「それをしないと1日が始まらない行為が『習慣』なら、私の習慣は、朝起きたらワタル達の顔を見る事だね!」

と元気に答えた。


僕は少し驚いていたが、

「どうしてそれが習慣なの?」

と、マリに質問してみると、


「私って、どうして人間の姿をしていると思う?」

と、逆にマリから質問をされてしまった。


少し意図が分からなかったが、

「それは、この世界に来るときに、エルが犬の姿は不便だからって言って、犬の獣人に変えたから。」

と、真面目に答えた。


マリは、

「正解。」

と、問題には正解出来たらしい。

僕は、正解して当然の問題ではあったが、クイズに正解したという達成感で、少し嬉しい気持ちになっていた。

しかし、マリの表情は反対に曇っていき、

「私はそれが心配なの…」

と呟いていた。


 鈍感な主人公達なら、ここまで言ってもらっても気付かないだろうが、僕は彼らとは違う。

ここまで、言ってくれれば後は何を言いたいかは予想できる。なのでマリに伝えてみた。


「なるほどね。エルのかけてくれた魔法が解けてるんじゃないかって、毎朝心配になってるんだね。」

と、僕がそう言うと、

「そうなの。

毎朝、魔法が解けてないかって不安になってカケル達の顔を見てるの。

その顔をしっかりと認識出来ることから、

「あ、今日も大丈夫だね!」

って自分に言い聞かせてたの。」

と、マリは後半の方は泣きそうな声で言っていた。

 

 僕から見たマリは、いつも元気に振る舞っていて辛いことなんか1つも無いように見えた。

そんなマリを凄いと思うし、気付いてあげられなかった自分を責めたいとも思った。

 しかし、自分を責めても何も好転はしないので、素早く頭を切り替えていった。


「ごめんよ、マリ。こんな『習慣』の話からこんなに重い話になるとは思ってなかったんだ。」

と、僕はひとまず謝っておいた。これで罪滅ぼしをする訳では無く、礼儀としてしておいた。


「別に気にしなくても良いよ。」

と、目を赤くしながら言っていたので説得力には欠けていた。

そして、その顔を見て決心がついた。

「ちょっと待っててくれないかな?

すぐに終わるから。」

 と言って、マリの返事も聞かずにとある番号に僕はスマホを使って電話をしていた。

 電話先の相手はすぐに出たので、

「久しぶりだね、エル。」

と言って、電話先のエルに挨拶をした。


 電話に出る速度から考えて、こちらの様子は見ていたと分かったので、単刀直入に要件だけ伝えた。


「マリの件だけど、獣人の魔法って解けるのか?」

と、僕は少し語気を強くして言っていた。


自分でも驚いてしまったが、これはどうやらエルに対して怒っている訳ではなく、マリが困っているのに気付けなかった、『自分』に対して怒っているのだと気付いたので、後でエルに謝ろうと思って少し冷静になっていった。


 そうして、どうやらエルはこちらの様子を見ているらしく、僕が落ち着くのを待ってから話を始めた。

「落ち着いたわね、ワタル。

とりあえずマリの件だけど、結論から言えば、魔法は正常通り発動してるから問題ないわよ?

というか、操作することも出来るから自由に犬になったり、獣人の姿になったり出来るわよ?」

と、簡単に言うので、

「ちなみに操作は誰がするんだ?」

と、僕が聞いてみると、

「私には、この魔法が解けていないって情報だけが入ってくるようにしてるから、直接の操作はマリ本人が出来るようになってるわよ。

 ちなみに、犬への変身は指を鳴らすだけよ。

戻り方は、犬だと指を鳴らせないから、手を叩くのを合図にしてあるから試してみて。」

と、エルが言ったのでスマホを耳から離し、マリにエルから聞いた情報を伝えた。


 聞いた直後は、やはり戸惑っているかのようにウロウロしていたが、ようやく決心がついたようで、マリは指を鳴らした。


すると、マリは獣人から元の犬の姿に戻っていた。

「へぇ〜、これは凄いな。」

と、僕が驚いた声でどうやら自分が犬の姿に戻った事を理解したらしく、

「元の姿に戻れたんだ…」

と、しょんぼりした感じの、マリの声が頭の中に響いてきた。

僕は少し驚いていたが、電話口で

「マリが犬の姿になっても、ワタルとだけは会話出来るようにしておいたわ。」

エルが、誇らしげに伝えてくれたので、

「それは、先に伝えといてくれよ…」

と、少しげんなりしながら呟いていた。

エルは、

「それは、ごめんね!

まぁ、後は犬から獣人に戻れるか試してみて?

私も、このまま通信を切らずに待ってるから!」

と、伝えてきたので再度電話口から耳を離して、

「マリ?手を叩いて、獣人の姿に戻ってくれないか?」

と、先ほどエルから伝えられた戻り方をマリにもう一度伝えてみた。


 マリにはちゃんと聞こえていたらしく、

「やってみるよ!」

というマリの声が頭の中に聞こえてきた。

(やはり、この感覚は慣れないな…)

と、少し奇妙な感覚になりながらマリが手を叩こうとする様子を見ていた。

そして、マリが手を叩いた。

 アニメなんかではこういうシーンでは、ポンっという演出が使われいたが、実際には音も無くマリは獣人の姿に戻った。

 ちなみに、少し危惧していた衣服については元の状態のままだったので少し安心いたが、電話口での、

「流石に裸はだめだからね…

詳しくは言えないけど、着ていた服をそのままにしておく魔法も追加でかけておいたのよ。

成功して良かったけど…」

というエルの声で少し緊張感が戻って来た。


(もし、エルのかけた2つ目の魔法が失敗していたら今頃マリは全裸になってたんだ…

成功して良かったよ。)

と、心からそう思った。


 僕が考え込んでいる間、どうやらマリは少し放心していたらしく、

「えっと、私ってちゃんと獣人の姿に戻れてるよね?」

と、僕に聞いてきたので、

「うん、ちゃんと戻れてるよ。」

と言いながら、手元で小型の鏡を作って、マリの目の前に出してあげた。


マリは、鏡を見ながら全身を確認していき、

「ちゃんと戻れた〜!」

と言って、思いっ切り喜んでいた。

そして、

「ありがとね、エル!」

と、僕からスマホを奪ってお礼を言っていた。


(やれやれ、これで一件落着かな…)

と、マリが何度もエルにスマホ越しにお礼を言っている様子を見ながら思っていた。


 どうやら会話が終わったらしく、マリがスマホで、

「バイバイ〜!」

と言って、通話を終了した。

そうして、

「やったよ、ワタル!

これで、心配事がなくなったよ!」

と元気に言ってきた。

ちらりと尻尾を見ると、凄まじい勢いで振られていた。

(よっぽど心配だったんだな…)

と、マリがそこまで心配していた事に気付いてあげられなかった戒めとして頭を思いっ切り撫でてあげた。


 そうしてしばらく撫でていたが、

「そろそろ水汲みに行こう!」

と言って、僕の腕を引っ張ってきた。

(思いつきで、『習慣』の話をしたらこんなに大事になって大変だったけど、早めにマリの悩みを解決出来て良かったよ。

今後は、もっと僕から悩みが無いかみんなに聞いていってみよう!)

と、新しく決心をしながら、

「そうだな、そろそろ水汲みを再開しようか。」

と言って、僕はマリと川へ向かって歩き出し、水汲みを再開した。

今回は、作者の自分が仕事場で思ったことを参考にして書いてみました。

ちなみに参考にした場面は、普段一緒にいる上司と冷風機の水を変えるシーンの所です。

実際に体験して、「これは共感してくれる人が出てくるかも!」といった感じで書いたので、これに近い体験をして共感出来る!って人はぜひコメントお願いします。(コメント稼ぎではなく、純粋にこんな気持ちになるのが自分だけなのか知りたいからです。)

それでは、また次回もよろしくです。m(_ _)m

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