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Duct23 ダクトテープとドラゴンの肉1

 セシルとグラがドラゴンを瞬殺した翌日の昼すぎ。

 俺は青空の下、巨大なドラゴンの骸(むくろ)を背に、せっせと玄関の補修に汗を流していた。


 がれきの中から折れた材木の破片を引っ張り出しては、それとピッタリと接合する別の破片を探し出し、ダクトテープで2つを貼り合わせていくお仕事。


 そうやって1本1本元通りにした材木を組み合わせていけば、晴れて玄関になるというわけだ。


 タヌキさんたちが、がれきの撤去を手伝ってくれている。

 その姿は今日も今日とて超絶かわいい。 


 しかし、どの破片がどの破片とピッタリと合うか探すのはとても難しい。

 どうやってもピッタリと合わないんだなこれが。

 そして、今日は日差しが強くて、暑いんだなこれが。

 

 だー、もう、めんどくさい!


「もうさ、昨晩と同じように、ダクトテープで作ったカーテンで壊れた玄関を覆っておけばいいんじゃないかな」


 俺は多少の期待を込め、庭を振り返った。

 

 そこでは、外に持ち出された椅子に腰かけたセシルとグラが、優雅にアイスティーを飲んでいた。

 タヌキさんたちが差し出す日傘の下、のんびりとした様子で俺の作業を見つめている。


「ダメですよ~リョウ様。玄関は玄関らしいたたずまいでなくては、家としての品位に欠けます」

「俺だってそう思うよ。でもさ、そう思うなら、セシルとグラも手伝ってくれよ」


 すると、セシルもグラも穏やかな表情で首を横に振った。


「私たちは手伝わんぞ。そもそも、ドラゴンに玄関を壊させたリョウが悪い。だから、早く直せ」


 グラが素っ気なく話すと、ゆっくりとコップに口をつけた。


 くそっ、そう言われると何も言い返せない。


 こうなったら、心身の健康のために、自主的に仕事を楽ちんにしよう。

 つまり、手抜きだ。


 よく考えてみれば、一つ一つのがれきをピッタリ貼り合わせる必要はないな。

 適当な長さのがれきを芯にダクトテープをグルグル巻きにすれば、立派なダクトテープの材木の出来上がりだ。

 それらを適当に組み立て貼り合わせていけば、そこそこに立派な玄関になるだろう。


「みんなー、こんにちはー!」 


 手抜きを決意した俺の後頭部に、明るく元気な女性の声が降りかかった。

 

 振り返ると、赤茶色の髪のポニーテールでそばかすの女の子が、フィアの先導でこちらにやってくるのが見えた。

 防具屋の看板娘サロメだ。


「あっ、サロメ! 待っていましたよ」


 セシルが椅子から跳び上がって、ブンブンと右手を振った。


「サ、サロメ……本当に来てくれたのかい」


 グラは感無量といった様子で両手を胸に当てている。

 やっぱり、サロメがお気に入りの様子だ。

 

 しかし、今日は先日のような百合行為は禁止だぞ。

 サロメには仕事で来てもらったんだからな。


「すごーい!! 本当にドラゴンを倒したんだね。これは途方もない上質な素材だよ!」


 サロメが感動と興奮の入り交じった顔でドラゴンの巨躯(きょく)を見上げた。

 

 実は、俺は丘みたいに大きなドラゴンの骸(むくろ)の処分に頭を痛めていたのだ。

 しかし、ドラゴンはその革も牙も角もすべてが武器や防具に使え、さらにどれもが超1級品の素材だとセシルたちに教えてもらった。

 

 そこで、フィアに頼んでサロメを街から連れてきてもらった。

 ドラゴンの部位を売ってお金に代える算段だ。

 お金を稼げるだけではなく、さらに骸の片付けにもなる一挙両得なアイデア。 


「私、ドラゴンって初めて見たよ!! 防具屋としての腕が鳴るなあ。セシルもグラスネージャもドラゴンを倒しちゃうだなんて、本当にすごいね」


 サロメがヒマワリのような笑みで話しかけると、セシルは「エッヘン」と胸を張った。

 

 一方のグラは「笑顔が、笑顔が眩(まぶ)しすぎる! もう我慢できないよ」と言って胸をかきむしると、その場に座り込んで「ハァハァ」と息をし始めた。

 

 ……こいつのことは、しばらく放っておこう。


 その後、サロメの前に808匹のタヌキさんが整列。

 

 サロメのテキパキとした指示を受け、ノコギリやら鉈(なた)を持ったタヌキさんたちが次々とドラゴンを解体していった。

 808匹の人手、いやタヌキ手があると、さすがに作業も早い。

 見る見るうちに骸から革や牙を切り取り、取り出し、種類別に庭の端に積み上げていく。

 

「ああ、サロメったら、あんなに生き生きと楽しそうに仕事を……」 


 グラが恍惚の表情でサロメの現場監督としての仕事ぶりを見つめている。

 その様子に先日の防具屋での一件を思い出さずにはいられない。

 

 ドラゴンの解体は今日遅くまでかかるというので、今晩、サロメは我が家に宿泊することになっていた。

 つまり、グラがサロメと接触する機会が多くなる。

 危ないな、ちゃんと注意しておこう……。


「おい、念のために言っておくけどな、サロメにはちょっかいだすなよ」

「わかーてるって」

「ちょっかいっていうのは、チャームの魔法を使うなってことだぞ」

「わかーてるって」


 グラは俺の方をいちべつもしないまま、呆けたようにつぶやいた。

 本当に大丈夫かな……。


 そう疑ってしばらくグラの様子を監視していたが、サロメの姿を嬉しそうに目で追いかけているだけなので少し安心した。

 うん、これぐらいの百合ならば、かわいいものだ。むしろ好感度が上がる。


 さて、俺は俺にしかできないことをやろう。

 手抜きの玄関工事だ。

 

 強度? 耐震性? なにそれ、おいしいの?

 だいじょーぶ。

 ダクトテープを使えば大抵のことはなんとかなるって、あるアメリカ人が言ってたから。

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