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Duct15 ダクトテープは家事にも役立つ

 森の中の家での生活も7日目を迎えた。 


 働かざる者食うべからず。

 この言葉ほど、今の俺に身に染みる言葉はない。

 いや、違うな。

 この言葉ほど、今のセシルとグラの身に染み込ませたい言葉はないだ。


 今、俺とセシルとグラは、居間の机を食卓にして、夕飯を食べている。

 必ずや今宵今晩、この夕食どきこそは、この7日間で積もりに積もった不満をぶちまけてやるのだ。


「ごちそうさまでした~」


 セシルは満足げにそうほほ笑むと、そのまま食卓を離れようとした。

 食べ終わった皿が机の上に残っているのにだ。

 よし、今が好機。さっそく注意だ。


「駄目だぞ。食べ終わった食器は、自分で台所まで持っていくって、話したよね!?」

「でも~、そんなことは、今までは給仕係さんにやってもらっていましたし……」

「優しい給仕係さんは、ここにはいないのよ!!」

「でも~」

「でも、じゃありません!!」

「でも、でも~」

「でも、禁止!!」


 なぜかオカン口調の俺。

 そして、甘えん坊の末娘のようなセシル。

 そして、


「あー、食べた食べた。ごちそうさま。明日はステーキ作ってよ」


 と、食べ盛りの男子中学生のようなことをのたまうグラ。


「だから、調理は当番制だって、言っただろ!? 今日は俺が作ったんだから、明日はグラの番だよ」

「えー、無理だわ。料理なんて作ったことないもん」

「教えるよ、教えるから作ってみよう」

「えー」

「意外と簡単だよ、特にステーキなんて、スライスした肉をフライパンで焼くだけ」

「えー、えー」

「えー、禁止!!」


 ダンッと机に両手をつき、ワナワナと震える俺。

 その振動で、食卓に並んだ皿が数ミリ浮いた。

 

 どの皿にも、ついさっきまで夕飯が盛られていた。

 ぜんぶ俺が作った料理だ。

 今夜のメニューは、干し肉と根野菜のソテーとパン、鳥の骨でダシを取った葉野菜のスープ。

 

 ちなみに、食材は3日に1度、街まで買い出しに行っている。

 この家から市場のある街までは片道半日かかるので、買い物も1日がかりの大仕事だ。

 

 そうやって、苦労して手に入れた食材で作った料理を2人がおいそうに食べてくれたのは嬉しい。


 しかし、問題なのは、この7日間の家事分担だ。

 なんと、これまでの朝、昼、晩の食事のすべてを俺が作っている。

 あと、食器の片付けと井戸水を使う冷たい冷たい皿洗い、洗濯、掃除も……ぜんぶ俺だ!!


「この家では、俺とセシル、グラの3人は同居人なんだぞ。対等な関係なんだ。だから、家事は分担しようって初日に話し合いをして、2人とも了承したよな!?」


「はい……」

「そうだな……」


 神妙そうなセシルとグラ。

 そうだぞ、やるって言ったからには、ちゃんとやってもらうからな。


「だのに、なぜ俺だけが家事全般を担っているのだ!? 俺はお前たちのオカンか?」


「そうか、リョウ様はわたしたちのお母様だったのですね」

「なるほど、リョウが私たちの母上様なら安心だな」


 にこりとほほ笑むセシルとグラ。

 そんな2人を見ていると、このままオカン役を務めるのもやぶさかではないな。


「うん、そうか、そうか……って、違うわ!!!!」


 再び両手で食卓をダンッする。


「仮に俺がオカンだとしても、すべてを押しつけるのはナンセンスです!! せめて、料理の1つや2つは作れるようにならないと、お嫁に行けませんよ!!」


「え~、リョウ様、ふるいです~。そんな前近代的な価値観を押しつけるのは良くありません。モテませんよ」


「そうだぞ。今どき、料理のできない女子なんて当たり前だ。そんなことにこだわっているから、結婚できなんだリョウは」


 おうっと、心にぐさっと来た。

 今の2人の発言に、彼女いない歴うん年の俺のやわなハートがキリキリと痛む!!

 

 ち、違うもん!!

 俺は女子に家庭的なところなんて求めてないもん!

 ただ、疲れ果てて帰宅した俺に向かって、優しく「お疲れさま」って声をかけてくれるだけでいいんだ!


「りょ、料理は徐々に覚えていくとしようか……だが、しかし! 皿を片付け、洗うことぐらいはできるだろ!?」


「でも、お水が冷たいんですよ? お肌があかぎれになってしまいます」


 セシルが困惑したように小さな手を見つめた。


 君、お姫様とはいえ、最強クラスの剣士だよね!?

 これまでに、厳しい修行を重ね、数々の冒険をして、さまざまな強敵に打ち勝ってきたんだよね?

 だのに、水の冷たさごときがなんじゃというのだあああああ!!


「水が冷たいのは当たり前だ」


 おう、グラ、いいこと言った。

 その通りだ。冷たい水で皿を洗うことで、ああ、俺もこうやって育ててもらったんだなと母親、いや、さすがに給湯器がある世代か……まあ、おばあちゃんに深く感謝する気持ちを……。


「問題なのは、皿についた汚れが手につくことだ」


 お前が自分で使った皿だろうがああああああ!!

 それを平然とバッチイ扱いするなあああ!!


 駄目だ。2人がお嬢さま育ちすぎて、俺と価値観が合わなすぎる。

 

 どうする、俺?

 どうすれば、この階級ギャップを埋められる?


 そのとき、俺の頭の中に、久しぶりにあの荘厳な声が鳴り響いた。


 ――ダクトテープは万能だ。

 ――ダクトテープを信じろ。

 

 そうだ、俺にはダクトテープがある!!

 

 考えろ! きっと、2人を家事に参加させる手段があるはずだ……。


    ◇


「わ~、すごーいです~。全然、冷たくありません」


 井戸水が満ちた桶に両手を突っ込んだセシルが、ほんわかとした喜びの声を上げた。

 

 その小さな手は、俺が作ったダクトテープ製の手袋によって守られている。

 ダクトテープの防水性を生かし、ゴム手袋ならぬ、ダクトテープ手袋を作ってみたのだ!


「おー、すごいな。汚れがどんどんと取れるぞ。しかも、手が汚れない」

 

 セシルの隣では、汚れ物が付いた皿を持ったグラが、驚きの声を上げた。

 

 グラの片方の手には、ダクトテープで作った台所用スポンジが収まっている。

 ダクトテープの接着面を細かい網状にすることで粘着力を落とし、皿に引っ付かずに汚れのみを吸着する優れ物だ。

 しかも、汚れた面をめくると、その下から新しい面が出てくる仕掛け。床の汚れをシールで取るコロコロみたいなものだ。


「どうだ!! これがダクトテープの万能性だ」


 俺は腰に両手を当て、得意満面に「ガハハッハ」と豪快に笑ってみせた。


「さすがはリョウ様です。すごいです。素敵です!! 勇者の称号は伊達じゃありませんね」

 

 セシルが胸の前で両手を組んだ。

 その瞳は、感激のあまりか潤んでいる。

 

 よし、よし、よくわかっているじゃないか。


「お前はたいした奴だ。あっと言う間に問題を解決してしまった。やはり、敵に回したくない男だ」


 今度は、グラがダクトテープのスポンジを見つめながら感嘆した。

 深緑の美しい瞳が俺をしっかりと見つめ、離さない。


 うーん、これが尊敬の眼差しというやつか。


「そうだろう、そうだろう。これで皿洗いなんて楽勝だ。1人で苦もなくできるぞ!」


 ガハハハハっと笑い続ける俺。


「そうですね! よかったですね」

「これさえあれば、もう大丈夫だな」


 2人はそう言って優しくほほ笑むと、「「はい、どうぞ」」と声をそろえ、ダクトテープの手袋とスポンジを俺に手渡してきた。


「うん?」


 意味がわからずに笑いを止める俺。


「仕事が楽になってよかったですね」

「これで、1人で十分に皿洗いがこなせるな」


「うん?」


 意味がわかって固まる俺。 


「では、頑張ってください」

「じゃあ、頼んだぞ」


 高貴なお2人から、もったいなくも過分なお言葉と気高いほほ笑みをいただく俺。

 すると、お2人は軽やかな足取りで、2階のお部屋にお戻りになりました。


 ……くっそ、2人に「頑張って」「頼んだ」と言われたとき、ちょっ待てよ! と言えなかった……。

 なぜか「へえ」と、いかにも使用人のごとく答えてしまった。

 

 先祖代々庶民である俺のDNAが無意識に反応してしまったのだろうか。

 これが、生まれながらの階級の差か。


 そんなことを思いながら、俺はダクトテープの手袋を身につけ、ダクトテープのスポンジを持つ。

 

 さて、皿洗いでもするか……。

 

 おおおおおっ、こ、これは!!

 楽ちんじゃないか!!

 よし、これからダクトテープのコロコロを作って、家中の床をきれいにしちゃうぞ!

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