Duct11 ダクトテープで昼寝する2
「ハンモックとは、まるで空中に漂うかのような感覚が味わえる寝床である。ちなみに、必ずしも寝る必要はなく、漫画を読んだりゲームしたりもOKだ」
「「はあ……」」
うぬ、言葉だけの説明では、要領を得ないようだ。
なので、俺は実際にハンモックに寝っ転がってみせる。
「こうやって、まず、お尻から座って、次に足、上半身の順番で入って……ほら、どうよ! あー、この浮遊感、かつ包み込まれる感じがたまらん!」
俺がハンモックをユラユラさせながらはしゃいでいると、セシルが「なんだか楽しそうですね」と言ってクスリと笑った。
「そうなんだ、楽しいぞ。おいしいご飯を食べて、なんの気負いもなく木陰の下で横になる。こんなに豊かなことはない」
俺はハンモックの上で上半身を起こすと、セシル用のハンモックを空中で作り上げ、隣の木々に結びつけてあげた。
「さあ、セシル、思い切って飛び込むんだ!」
「あっ、はい!」
セシルは言われるがままに「えいっ!」とハンモックに上半身からダイブした。
その勢いでハンモックが左右に揺れる。
「あははははは、楽しいです~」
セシルは足をバタバタさせて喜んでいる。
「全身を入れると、もっと楽しいぞ」
「はい!」
セシルはモゾモゾとハンモックに潜り込んだ。
その際、白いパンツがチラリと見えたことは秘密だ。
「あ~、これ、気持ちいいです~。地面に落ちる感覚があるのに、リョウ様のダクトテープがしっかりと守ってくれている安心感が……」
セシルの声は次第に小さくなり、いつの間にか、かわいらしい寝息に変わってしまった。
恐るべし、ハンモック!!
かつて、国民が怠け者になるからと、ハンモックを禁止した王様もいたとかいないとか。
それは、サーフィンだったけ……。
さあ、次はグラの番だ!!
と、思ってグラを見ると、細長い人さし指を唇に当てながら、気持ちよさそうに寝ているセシルをジーと見つめていた。
クリスマス前のおもちゃ屋さんのショーウインドーにむらがる幼子のようでかわいい。
俺はグラのハンモックも出現させ、木と木の間に吊してあげた。
「ほら、グラも寝てみ」
「……いや、私は遠慮しておこう。昼寝なんて、私の矜持が……」
グラは慌てて指を唇から離すと、顔を真っ赤にして首を振った。
もう、素直じゃないんだから!!
こういう子は、遠回しな別件提案が効果的。
「俺の世界ではハンモックは『神様のはかり』、つまり神様からの贈り物として尊ばれていたんだ。魔王軍の幹部として、神の贈り物とやらを体験してみるのも、敵情偵察に役立つんじゃないかな」
「むぅ、それもそうだな……あっ、あくまでも、偵察の一環だからね!! 別にユラユラしたいわけじゃないんだからね!!」
わかりやすいツンデレを見せながら、グラがハンモックに寝そべった。
その際、白いスリムパンツ越しにお尻のパンティーラインがはっきり見えたことは秘密だ。
俺はスキルを使ってダクトテープを操作し、グラのハンモックを軽く押してやる。
ハンモックがゆっくりと、ゆっくりと左右に揺れ始めた。
「これが、神からの贈り物……くやしいが気持ちいい。あっ、全身を包んでいるこのダクトテープのすべてが私の肌に貼り付いているようで、私っ、んっ……」
グラの唇から小さな吐息が漏れたのを最後に、そのまま寝てしまった。
最後の方のセリフは聞かなかったことにしておこう……。
「さて、俺も寝るか」
上半身を再び、ハンモックに沈めようとした瞬間、1人の男が庭に入ってくるのが見えた。
中肉中背、金髪碧眼のなかなかのイケメンで、白いシャツを胸元まではだけさせている。
そいつは、俺と目が合うと、小馬鹿にしたように笑った。
「お前が勇者か?」
そいつは、ぞんざいな物言いで俺を指差すと、ズカズカと無遠慮に近づいていた。
「こんなブランコ遊びをしているお子さまが勇者とは。世も末だ。まずは、俺の服を返してもらおう」
なるほど、こいつは、仕立屋のオヤジが言っていた領主のどら息子か。
自分が注文した服を取り返しに来たってことか。
うーん、でもこの服は、ダクトテープの布と物々交換したのだから、もう俺の物だぞ。
「服を脱いだら、館まで一緒に来てもらおう」
「えっ? 嫌だけど? これから寝るし」
「はあ? 俺の親父が、あの赤き獅子ことオーギュスト侯爵がお呼びなんだぞ!!」
どら息子は俺のハンモックのそばまで来て、そう大声で呼ばわった。
俺はセシルとグラを見やる。
2人はかわいい寝息を立てたままだ。
よかった、起きてはいない。
「おい、返事をしたらどうなんだ!!」
どら息子が俺の胸ぐらをつかもうとした。
その瞬間、ダクトテープでどら息子の体をグルグル巻きにして、その腕と体を密着させてやった。
「なっ、なんだこれは、はずせ!! 俺は領主の息子だぞ!!」
どら息子は、さんした丸出しの下卑た声を上げた。
あー、もう、ダメだこいつ。
今、自分がどれほど罪深いことをしているのか、全くわかっちゃいない。
「はずせ!! こんなことをして親父が、ガッフゥ」
俺はどら息子の口にダクトテープを10枚貼り付けてやった。
さらにダクトテープをどら息子の全身にもっともっと巻きつけ、エジプトのミイラみたいにする。
ゴフゥ、ゴフゥと汚い叫び声を上げながら、どら息子は地面を芋虫のようにのたうち回る。
ちっ、ここまでしても、おとなしくならないのか。
では、ご退場いただこう!!
俺はもう一つのダクトテープのハンモックを空中に出現させた。
それは、これまでの倍以上の大きさ。そいつを、木と木の間に縛り付ける。
今回は高さ5メートルほど、木の幹の上部だ。
そして、どら息子の体に巻き付いているダクトテープを浮かび上がらせることで、どら息子そのものを宙に浮かせ、そのまま巨大なハンモックに叩き込んだ。
「親父に伝えろ、用があるなら、アポ取ってからお前が来いってな」
俺は巨大なハンモックを後ろへと思いっ切り引っ張る。
木が大きくしなり、ダクトテープがミシミシと音を上げ、存分に力がたまったところで、一気にその力を解放した。
途端、しなった木々が反動し、巨大なハンモックにたまった力が前方へ向かって一斉に放たれた。
「飛んでけ――!!」
ギャギューン――と空気を切り裂きながら、どら息子の塊が空の彼方にぶっ飛んでいった。
ようは、巨大なパチンコである。
「戦士の休息を邪魔するとは、無粋な奴め……」
俺は、スヤスヤと気持ち良さげに眠るセシルとグラの寝顔を確認する。
人間最強クラスの剣士として、魔王軍の幹部として、きっと2人は戦いに明け暮れていたに違いない。
それは、寝る間も惜しむほどの激務で、文字通りに命を削る戦いだったはずだ。
だから、今日ぐらいは、ゆっくりと昼寝をしたっていいじゃないか。
2人の静かな寝息と鳥のさえずりを聞きながら、俺は幸せな気持ちでハンモックに身を沈めた。
そして、降りかかってきた神様の誘惑を素直に受け入れる。
つまり、速攻で寝た。
あー、幸せだ!!!!




