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5.漂う5 *大地視点

 大地視点これで終わりです。次回は螺旋に戻ります。


宜しくお願いします。


 夏のホラーに参加します。そちらを仕上げるため、こちらの更新があくと思います。申し訳ありません。


7/15、ホラー仕上がりました。6話完結しています。

お時間あればお立ち寄り下さい。

http://ncode.syosetu.com/n7895ec/

遊園地へ行こうよ ~裏野ドリームランド~

 戸惑いを通り越して、とても楽しくなってきた。

 ものすごい喧騒の中で俺は顔がにやけるのを止められなかった。


 今夜は窓を開けるといい風が入ってくる。あとは扇風機だけで充分心地良い。コロンとした皿に小声で話しかけてから、おかずを摘まんだ箸を口に寄せる。揚げた茄子の煮浸しが口の中でとろける。だしに酸味が効いていて美味しい。だけど、うるさすぎて隣に座る鈴木の言ってることも分からない。それでも皆、心からの笑顔だ。








 買い物から帰宅した母さんは、ようやく宿題を再開していた和室をチラッと覗くと「楽しそうだから、あなたたちだけでご飯食べてね!」と、皆でうなぎを食べた時のように台所に引っ込んでしまった。


 で、家鳴り以外の異変に気付いたのはそれから。座卓に夕飯を並べていくほどに、人の話し声のようなものが増えていく。食事時の飲食店に来ている錯覚を起こしそうな騒ぎだ。ただ、耳をすませると音がぼやけて話を聞き取れない。もちろん周りに俺達以外いないし。


 他の三人は茶碗や皿を並べなから、何が起きるのか楽しみで仕方無さそうにニヤニヤしている。


 食事を始めると、一層賑やかになった。喋り声に加えて、座卓に並べられた物が動き出したのだ。


 何を言ってるのか分からないけど、高橋が手を叩いて喜んでいる。なんと高橋の箸が立ち上がり、タップダンスをするように跳ねていた。


 田中は、何度も醤油に手を伸ばし、するりするりと醤油瓶に逃げられていた。おお、胴着の襟を狙う目付きになってるぞ。


 鈴木は、目の前の茶碗から一列になって出ていくご飯粒を観察していた。その列の途中に箸置きを置いて、ご飯粒の動向を見守っている。


 ・・・駄目だ、腹がよじれそう。笑い死にするかもっ・・・。


 おかずは、食べようとすると逃げる。刺身も、煮物も、揚げ物も。机の上でがっちゃがっちゃと皿が押し合う。勢いで飛び出たジャガイモがコロンと転がる。転がる、というか、机上すれすれを滑る? 鈴木の並んだご飯粒に目を凝らすと芋と同じ様に浮いている。


 夕飯が汚れないように? 芸が細かいな。


「あ!」


 ざわざわする中でも聞き取れた田中の声に顔を上げると、ご飯を普通に食べている高橋が目に入った。俺達の視線に気付いたらしい高橋が、口をパクパクして何か言っているようだが、声は届かない。何回目かの声を枯らす勢いで叫ばれた言葉は「褒めるといいよ~!!」だった。


 なんと?褒める?なにを?・・・飯を?


 半信半疑のままそれぞれ試している様子が見えた。すると田中の手に醤油瓶が握られ、行列を作っていたご飯粒はいそいそ茶碗の中に戻った。褒めたのか・・・なんて?


 俺は、机の縁すれすれを転がり続けるジャガイモに、視線を合わせて「ほどよく味の染みた色合いで美味しそうですね」と言った。


 ・・・小鉢の中に戻って動かなくなった。


 とりあえず箸で摘まんで口に放り込む。うまい!・・・またジャガイモが、がっちゃんと小鉢を揺らされて、押し出された。って、一回一回やるのかよ!


「引き締まった身の歯ごたえがたまりません!」

「苦味の中の甘味が癖になります!」

「立ち上がった一粒一粒の色艶が見事です!」

「あーーー、口の中で蕩けるぅー!」


 俺達は食の玉手箱ばりに食レポをした。たまに漏れ聞こえる他の奴らの「褒め言葉」に悶絶しながら、完食した。おかずが減るとざわめきも減っていったから、あれはご飯のヤジだったのか。マジか。


 満腹感と腹筋を使った疲労で、動くのが億劫だ。なんとか食器を洗い片付けて、二人ずつ風呂に入った。



 ・・・風呂は静かだった。



 垢嘗(あかなめ)が、風呂場の隅でモジモジしてただけだった。


 いつも風呂に来てる、なめなめだよな? なんかやることあったんじゃないの? 螺旋に指令を受けてんじゃないの?



 ちょっと期待の眼差しで皆もなめなめを見てたみたいだけど、揉み手で「ごゆっくり!」と微笑まれて、ほんとになんもないの?という肩透かし感と、ずっと風呂場になめなめが佇んでいるから、実はドッキリさせる仕込み?という疑心で、ゆっくりなんてできなかった。


 結果、何事もなく四人とも風呂を済ませた。体はすっきりしたけど、なんかモヤモヤするー!



 台所で風呂上がりのお茶を飲んだあと、布団を敷くべく四人で部屋に向かった。


 今日のことで母さんがいろいろ世話をしてくれようとしていたが、流石に四人分任せるのは大変だし、できることは俺がやる。三人もそういう事にうるさくない奴らだったようで、食事の配膳やら片付け、布団敷きとか断っても手伝ってくれた。お客様だからのんびりしてくれていいのにーーーてまあ、実質のんびりとかいう状態じゃないな。わんさか妖怪が出てきてるし。


 皆と雑談したまま部屋に着いた俺は、スラリと襖を開けた。




『ようこそ、人の子よ・・・』

『我等の(やしろ)によく参った・・・』


「やしろって、・・・ここウチだし」




 つい即ツッコんだが、部屋は一変していた。部屋は暗闇。畳の和室ではなく、砂利を敷き詰めた地面に、本来あるはずの天井を越える立派な石造りの鳥居が建っていた。その中に青白い火玉が空中にいくつも停滞している。俺の後ろから覗きこむ三人も息を呑んだ。


 その鳥居の前に悠々と鎮座し、こちらに語りかけてきたのは、闇に浮かび上がるように淡く光を放つ二体。


 大きいーーー。それに、なんだろう、この気配。居るだけで圧倒されて、頭を下げたくなるような・・・。


 うねるような豊かな体毛に太くしなやかな四肢。白い一体には眉間の上に角がある。黄色い一体は嗤うように口を開き、並び尖った歯をみせている。


 ああ、これ、畏れ多いって気持ちなんだ。でもーーー。




『賢き人の子らよーーー試練を受けよ』

『再びここに帰りつけば、認めてやろう』




 静かに重く響く異形の声。それに俺は応えた。


「おい、声がのっぺらとなめなめじゃないか?・・・人手不足か? それに、二匹。でかいけど、こまろとしぃまろだな?」


『・・・(ちょっと姐さん!バレてんすけど!)』

『・・・(人手じゃなく妖怪手です。そして不足してます)』


 きこえてんぞ。


 当たりかよ。

 つい俺の口が弛む。こまとしぃはこちらをジッとみて、嬉しそうに毛の豊かな尻尾をふぁっさふぁっさと揺らしている。



『・・・丘の上の祠から、札を持て』 

『ひ、一人一枚。それが証・・・』



 のっぺらは役者だなぁ。なめなめ、落ち着いて。


 俺はすたすたと大きくなったこまとしぃに近づいた。二匹の艶やかな毛波を撫でて、背伸びする。すると二匹が屈んで耳を寄せた。そのまま二、三言耳打ちして離れた。



『さあ、()け!』

『我等の灯火(ともしび)が消える前に!』



 すると言葉と同時に吐き出された四つの火玉が向かってきて、一人ひとつずつ、腹に触れる。


 あっつ!・・・くない。


 ゴムボールのような弾力で、グイグイと火玉に部屋(?)から押し出された。そしてそのまま火玉は俺達のそばに浮いている。これが灯火か?

 どういう設定なのか分からないが「灯火(火玉)が消える前に」「丘の上の祠」から「一人一枚お札」を持って、ここ(和室)に戻ればいいらしい。


 唐突に始まった『試練』とやらにもツッコみたいが、まず、丘の上の祠てどこよ、と思っていたら、廊下が砂利の野道になっていた。


「ふふっ。漫画か小説の中に入ったみたい!」


「・・・札を取る、とか、肝試しみたいだな。これも妖怪変化の一つか?」


「すっげぇな~。大ちゃんとこの妖怪!てゆか妖怪の妖力?パないねぇ!」


 三人はすっかり順応していた。むしろお祭りに参加しているみたいに興奮すらしている。俺は組合員と知り合って、ちょこちょこ行動を共にしているから多少のおふざけというか、化かされにはまあ慣れたもんだ。


 けどこの三人は、話を聞いた限りでは、今まで人ならざるもので嫌な思いしかしていない。それがうちに来てからそれらと真逆のような妖怪達の馴れ馴れしさにあって、全然拒絶する素振りがないことに驚いた。


 人外も人同様さまざまで、悪いやつらもいいやつらもいる。それらの存在にただただ嫌悪する人達を見ても、何とも思わないでいたし、妖怪の善し悪しは俺自身が分かっていればいいと思ってた。


 だけど、喜ぶ三人を見ると、とにかく嬉しくなる。


 ・・・なんだ、俺は心のどこかで螺旋たちのことを、他の誰かに認めてもらいたかったのか。


 俺は、ふう、と軽く息を吹き出す。肩の力が抜けた。


 俺は、「早く行こう!」と笑顔の三人に手を引かれながら、三人にも、螺旋達にも無性に感謝したい気持ちでいっぱいだった。


 さっきまで廊下だった野道を進む。どうやら家の構造はそのままみたいだ。野道の先に石段があり、丘を登るようになっている。これは、二階とその先、螺旋の屋根裏部屋にまで続く階段がある位置だ。


 丘をくの字に進み、最後は少し急な石段を上りきると頂上に着いた。蛍みたいな小さな光がいくつも舞う野原に、ぽつんと祠がある。


「あれが祠か」


「あの中にお札があるんだよね?」


「灯火が小さくなってる。とにかく行ってみようぜ」


 確かに、火玉の大きさが一回り小さくなっている。頷いて足を踏み出すと、目の前に浴衣の女がいた。目を走らせると、皆の前にも浴衣の女達がいる。


 するりと手をとられ、女の口がニタリと笑う。にゅるり、と首が伸びた。伸び上がった頭は山型に下降して、そのままゴン、と床まで落ちた。


「あっ、えっ? 頭おちたぞ、大丈夫か?」


「・・・姐様ぁ~、こんな気、耐えられません~」


 女は空に向かって弱々しく声をあげる。触れていた手も離れて、頭を追うようにふにゃふにゃと体も倒れてしまった。


 ちょっと唖然とろくろ首を見下ろしていた俺は、他の三人を見た。鈴木は女に化けた狐に、田中は後ろ頭にもう一つ口のある二口(ふたくち)女に、高橋はよく笑うケラケラ女に手をとられ、振り回されている。・・・盆踊りか?


 気が付いてみると、太鼓に唄が聞こえてくる。ついでぶわっと現れた人魂に鬼火、破れ提灯らの灯りで一気に賑やかになった。


「大ちゃんだけ、ずる~い!」


と、高橋は喚いているが、ケラケラ女があまりに楽しそうに笑うので、つられ笑いからツボに入ってしまったようだ。二人してゲラゲラ、涙を流してヒィヒィ息をつきながら、手を取り合い踊っている。


 鈴木は、踊りに合わせて出てくる狐の耳や尾に視線が釘付けだ。「ね、ね、ちょっとだけ、触らせて!」と鼻息粗く手を伸ばしているが、口角を上げた狐がするりするりとかわして、うまく踊りに誘導されている。


 田中は、すごく真面目な顔で、二口女と語り合っていた。この二口女は家が柔道場で、稽古に熱中する傍ら沸き上がる空腹感に堪える、成長期の練習生の念から生まれたと聞いている。螺旋に腹ペコのペコさんと呼ばれていた。ありゃ、しばらく柔道談義だろうな・・・。


「なかなか、相手に合わせたうまい足止めだな。んじゃ俺は・・・三人の分もお札取ってくるか」


 俺は人魂らを手で除けてすたすた進む。元は屋根裏部屋だ。広くないからすぐ祠に着くだろう。


「さっせるかぁー!」


 螺旋の元気な声が丘に響いた。


「一番の障害はTerraだって、予測ズミだよっ。かかれっ、皆の衆~!! そら、恐怖の百鬼夜行だー!」



 凝縮されたものが噴き出すように、一点から妖怪が溢れた。


 猫の額のような小さな丘に妖怪の群れ。


 俺は息を飲む。

 あっという間に大群に呑み込まれる俺達。刺すような視線がいくつもこちらに注がれる。



 丘はーーー。









 丘は、どんちゃん騒ぎになった。


 呑めや唄えや、扇が舞い、茶碗がとぶ。


 俺の目には、無垢な幼い妖怪達が、顔を綻ばせて楽しむ姿が映っていた。


「ああっ、アンタたち、違うって! 全力違い! そうじゃナイんだよ~!怖い方の全力だって~!」


 螺旋がわたわた、あわあわしながら妖怪達に言って聞かせようとしているが、盛り上がった場には焼石に水だ。そんな中、俺は祠に辿り着いていた。


 螺旋の側でなめなめとのっぺらが、あーぁ、と苦笑いで頭を掻いている。


「皆まだ若いから、遊びたい盛りなんですよー」


「そうそう。これでも良くやった方だから・・・」


と、うぬぬと唸る螺旋を慰めている。


「でも、折角だし、」


 のっぺらが薄い顔で口の端をニヤリと歪ませた。


「この場のひよっこ達に、本家本元の怪異を見せましょうか?」


 パチン、とのっぺらが指を鳴らすと空間が暗転した。


 静寂。そして、一気に空気が冷え込む。




 ゆらり。青白い、細い炎の人魂が浮く。それの僅かな灯りで、俺の吐く息が白く、また体が震えていることに気づいた。


 ぼんやりと空間が見えてくる。小さな祠は、まだ同じ場所にあった。ただ、野原は板張りの床になり、周囲は障子に変わっている。神社の本殿のような感じだ。たくさんいた妖怪達は姿を消した。息を潜めているようだ。障子の向こう側に小さなざわつきを感じる。


 バチッ!

「いっ、ツ!」


 急に、祠にかけていた手を、強烈に弾かれた。勢いで二、三メートル後ろに尻を着く。


『・・・・!(怪我をさせるな!)』

『・・・・・・・・・(触るとコッチがあの人の力にヤられるんで、スンマセンっす!)』


 なんだ、びっくりした。派手な静電気みたいな感じで、痺れも痛みも残っていない。息を着く間も無く、


 ダン!


『ドコダ』


 ダン! ダン! ダン! 


『こっちカ』


 ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!


『アア、アア・・。チカイ、チカイ』


 のっぺらの声とは違う、嘲るような男の声だ。汗が吹き出る。


 障子にいくつも手の痕がつく。障子を打つ度に部屋がビリ、ビリ、と振動する。空気が重くなってきたような・・・。


 俺は、三人の側まではね飛ばされていたようだ。

 先ほどの遊びを楽しむ和気あいあいさが微塵もない、だけど彼らには馴染みともいえる淀んだ空気感。

 右側に、青白い顔で障子を見つめる田中と鈴木がいた。左側に、キラ、と光る物があると思ったら、高橋の首飾りだった。


 手で障子が埋め尽くされていくのを見ながら、あいつ風呂上がりにも首につけてたのか、なんて場違いなことを考えていたら、一際大きな音と振動が部屋を揺るがした。



 一転、耳が痛くなるような無音。



 寒さで歯が鳴る。だけど、体が震えるのは冷えだけじゃない。重く、押さえ付けられるようなプレッシャー。この感じ、知ってる。


 得体の知れないやばいヤツが、出る時ーーー。


 切れそうな緊張感に包まれる。






『ミィー・・ツケタ』



 祠の前、床板に、目があった。



「っ、イギィヤアアアアアァァーーーーー」


 


 左から聞こえた高橋の尋常じゃない叫びに、反応して。


 そして俺は目を剥いた。





 そこには、凄まじい形相で、大きなピコハンを高橋の胸に打ち付ける、螺旋がいた。






 夏のホラーは、6話位になると思います。よかったら・・・お立ち寄りしてもらえると、小躍りします。

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