2.漂う2
一応、前話「漂う」の続きになります。
よろしくお願いします。
「なーんてね、」
先代の声がして、コトン、と軽い音がテーブルに響く。ん?と頭をもたげると、台所入り口に大地がいた。ヤツはふるふる震えて、片手は口許を覆っていた。目が笑ってるよ。
「螺旋ちゃん、いる?」
声の方に頭を向けると、先代(大地母)がテーブルのそばで大地に確認している。
「いる、っくく。螺旋、お前の分あるよ」
おっ、なんとっ?!
がば!と立ち上がり、かぶり付きでテーブルに両手を伸ばして乗り上げる。背が足りないから、背伸びで何とかアゴを乗せられるくらいだケド。
「あった!私のこざら・・・じゃない、丼っ??」
「今日はひつまぶしだからな」
私のモノだという小ぶりな丼茶碗を、大地がそっと持ち上げて、歩き出した。
「先代、ありがとー!」
見えても聞こえてもいないと分かっていても、嬉しいものは嬉しいんだ。声に出しながら先代の周りをクルリと一周してから大地を追いかけた。振り返ると、先代はニコニコしていた。
屋根裏部屋に来た大地は、両手で丼を奉納台に置いた。これで私がひつまぶしを具現すれば味わえる。
「いつもみたいに下に来て食べてもいいけどさ、力出さないように気をつけろよ。あいつらいい奴らだけど、それっぽい気配に鋭いから」
それっぽい?幽霊のこと?
幽霊は妖怪より存在がかすかだ。じゃあ妖怪の方が見えやすいかというと、そうじゃナイ。妖怪は、気を意識して強弱調節できるから。幽霊より居ないフリが得意なんだな。
大地はヒトの本質みたいなモノを感じ取れる。雰囲気というか、オーラというか。
大地がヨウコさんと初めて会ったときは『白く清い』と言い、わかむうの時は『朱く激しい』とこっそり教えてくれた。じゃあ私は?と聞いたら、しばらくじっと見詰められて、一言「わかんね」と言われた。なんだソリャ。
で、まあ、簡単にいうと大地がみたら悪どいヤツは直ぐ分かるってコト。その大地が『いい奴ら』というんだから、間違いない。
幽霊みえるイイお友達ね!そんなの初めてじゃん!
コクン、と頷いて今のウチにひつまぶしをマイ箸と一緒に手のひらに具現しておく。そして両手でしっかり丼茶碗を支えて、大地の後ろをそおっと付いていく。大地は台所でお茶をお盆に乗せてから居間に向かう。扉の前でチラリとこちらを見たから、分かってるよ、という意味で神妙に頷く。
だけど顔には出さないように私はワクワクしていた。だって、大地は友達をほとんど家に連れて来ないから。大地の友達、どんなかな?楽しみー!
大地が居間に入る。私は息を潜めて付いていく。多分それだけでも多少は力が引っ込んでいるはず。
私は普段、タラーンとしてるのが好きだ。だから駄々漏れまではいかないけど、いつも霞みたく力がじんわり滲み出てるはず。まあ今、ソレよりはだいぶ抑えているつもり。
こういうの、隠密とか諜報員みたいだな。組合員にいたな、そういうの得意なの・・・えーと、そう、斑角だ!今度ヤツんとこ習いに行こうかなあ。大地の友達なら今後もウチにくるよねえ。力を隠せるようになっておいた方が良さそうだ。
・・・おっ?
大地は「先食ってて良か・・・、」と友達に声をかけようとして言葉に詰まった。そして私は、その場に足を止めた。
だって、ソコにいる大地以外の三人が、コッチをガン見してるから!
大地はご飯やおかずが賑やかに並べられた机にお盆を置いて、お茶を渡していく。皆、ああ、とか、おう、とか言いながらも視線は私から外れない。そして大地は入り口に近い位置にある座布団に座った。
「何みてんだよ?虫でも飛んでたか? さぁーて、メシ食おーぜ!」
何事も無かったかのように明るく三人に話しかける。知らぬフリで通すのか? チョッと、・・・だいぶ無理っぽいよ?
私は、得意の足運びで少しずつ大地のそばに行く。コレは足音もしないってわかむうが言ってたし。
「えっ」
「跳ねてるっ」
「・・・!」
そしてぺたん、と大地の隣に正座した。大地はにっこり笑ったまま、片手に頬を乗せ、その肘をあぐらをかいた太ももに置いている。
コッチを見ていないのに、大地からの「なにやらかしてんの?螺旋」という無言の圧がキツい。三人の視線も。
あの、ねぇ、見えてるの? 私、見えてるの??
どうしたらいいのか分からなくて、丼茶碗を抱えてキョロキョロ視線をさ迷わせる。か、隠れるトコないかな・・・?
「・・・あー、大ちゃ~ん。ちょーっと腹割って話そっか。鈴っちにたなやんも。みんな、おんなじこと気になってるよねぇ?」
妙な沈黙の中、大地の向かいにいる、三人のうちの真ん中の、耳と首にじゃらじゃらモノ着けて短髪をツンツン尖らせたヤツが、かるーい感じで喋りだした。
「高橋・・・」
大地が眉を潜めている。あのツンツンじゃらじゃらは高橋か。んで、向かって左のかっちり制服きたメガネが鈴っちで、右のガッシリ大柄坊主がたなやんと。
「細かい話は後にしてズバッときくけど、皆、見える人だよね?」
高橋とやらの言葉に、皆がウッと顎を引いた。『見える人』だけで、動揺するとか。キミたち、分かりやすすぎだよ。
「んで、大ちゃんよ、そこに居るのは・・・座敷童子?」
高橋の視線は真っ直ぐ私に向けられている。そして高橋の両隣はヤツの言葉に顔を見合わせている。やっぱりか!みたいな感じだ。
「大地が夕飯の支度する前、走り回る子供の足音が聞こえた・・・」
「さっき、何か喜ぶ声がした・・・女の子の」
たなやんと鈴っちが口々に確かめ合う。
はあー・・・と、私の隣から長いため息が聞こえた。大地は「予想以上に、お前ら耳と目がいいのな」と言う。苦笑いしてるけど、嫌な感じじゃなく、嬉しさが混じっているようだ。そうだね、『力』について思いを分かち合えるヒトは今まで一人も居なかったから。コイツらなら大丈夫なんだね。
「そうだな、居るよ、座敷童子。お前らからはどんな風に見えてんの?」
あっさり認めた大地は、改めて晩御飯をすすめると、食事の合間に三人の力がどのくらいなのか聞き取り始めた。鈴っちは鈴木、たなやんは田中というらしい。私はひつまぶしをモグモグ食べながら話を聞いていた。鰻ウマあ~。
メガネの鈴木とガッシリ田中は、私のことが子供大の薄モヤに見えるそうだ。ツンじゃら高橋は朧気に私の輪郭が見えるらしい。大したもんだ。
三人と大地は、一度喋りだしたら止まらなかった。今まで言えずに溜まっていた鬱憤の堰が外れ、場は更に高揚していく。
「ちっちゃい頃はオバケ見えるって冗談で済むけど、ある程度おっきくなったら、そうはいかないもんなあ」
じゃら男高橋の言葉に他が激しく頷く。
初めは幽霊話を面白がって騒ぐ周りも、ソレが続けば『嘘つき』『怖い』『気持ち悪い』と、反応が否定と謗りに変わっていく。だから、誰にも『本当に見える』だなんて言わなくなり、言えなくなる。皆同じ様な経験をしたみたいだ。
今は笑い話になっているから、四者四様に辛い時期を乗り越えたんだろう。最後には良くわからないバカ騒ぎの『見えたモノ自慢』になっていた。
『壁の動く黒いシミ』
『顔のいい男の体にしがみつく何人もの女』
『見た感じ綺麗な車のバンパー下から顔を覗かせる人』
『マンションから何度も飛び降りる人』
皆、あるある!いるいる!って盛り上がってる。
「大地くんち、いいなあ」
ひとしきり騒いで落ち着いたところで、はあ、と羨望の眼差しで部屋を見渡し、鈴木が言う。
「ああ、いいなあ、大地んち」
田中も、高橋も、柔らかく目を細めている。
「何が? 座敷童子?」
一斉にギャハハハ!と馬鹿笑いが起こるけど意味がわからない。なぜソコで笑う? 一緒にご飯食べてるトコがウケる~!らしい。わからん。
「空気がいいよなあ」
誰ともなく言う。ウンウンみんな頷いている。
「神社にいるみたいに、澄んでる」
ああ、こまとしぃがいるからねぇ。ある意味近いかも。
何でも「こんなに幽霊話をしても寄ってこない」ことが凄いらしい。確かに、ヒトがする『ヒトならざるモノの話』は異形を呼び込む。幽霊も妖怪も、引き寄せられる。話すことで生まれる独特の『そういう気配』は生きる糧になるからなあ。時たまヒトもエサになるし。
気持ちのいい沈黙の後、
「いつでもまた来いよ」
と大地は言い、「俺もお前らのウチに行きたいし」と小さく付け足した。みんなではにかんで、嬉しそうだ。
良かったね、ナンか。
すっかり外は暗くなり、先代と大地は三人の友達をそれぞれの家まで送っていった。あの三人、今度はココに泊まりにくるらしい。わお。お出迎えの準備しなきゃ!
大地のクラスには佐藤が二人いるので、大地はクラスメイトに名前で呼ばれています。




