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新たな旅






「じゃあな、俺は村に戻る。後のことは心配しなくていい。水晶のやつらもあとから村に連れてって…まあ出るか出ないかは中の人間の自由だからな。気に病む必要はないさ。村の方もなんとかしてみせる、家族と一緒にな。」


そう言ってアイジはラクトから分けてもらった荷物を背負った。


「うん、お願い…ありがとう。」


ウルキはうるうると瞳に涙を浮かべてお辞儀した。


「ああ、君たちも気をつけてな。ラクトたちを頼みます、シャーロット。」


「ああ、死なしたりはしないから安心しなよ。いい村になるよう願ってるよ。」


シャーロットの返答にアイジは笑って頭を下げた。


「荷物の中に魔物除けのランプも入ってるから使ってね。皆によろしく言っておいて。」


ラクトは少し寂しそうに笑った。アイジはかがんでラクトの耳に近づいてこう言った。


「お前こそ、惚れたんなら最後まで貫いて守ってやるんだぞ?」


「―――――――っじさん!?何言ってっ…うわわわわっ!」


顔を真っ赤に染めて動揺するラクトを見てアイジは笑って歩き出した。



「はははっ!じゃあな、元気で頑張るんだぞ!たまには村に戻ってこい。うちはいつでも大歓迎だ。そんときは胸張って自慢できる村にしとくからな!」


「――――うん!ありがとうおじさん!頼んだからね――――!!」



ラクトたちは手を振ってアイジが森の中で見えなくなるまで見送った。そのあと、洞窟に戻り荷物をまとめてそこをあとにした。


ウルキの魔力が消えた空間は、また暗く静かな世界に戻っていった。






太陽は高い位置から三人を見下ろしていた。熱く力強い陽射しが容赦なく降り注いでいる。熱帯の植物はそんな中でも生き生きと緑の葉を太陽の方へ伸ばしている。鳥たちは小枝に止まってさえずり、動物たちは落ちている木の実を探して、そして魔物は餌を求めていた。







「ぎゃ――――――――――――――――!」


「うるさい、ラクト!こんな小物にいちいちビビるな!」


「…すごい。シャーロット、もう倒しちゃったの?」



アイジと別れてから二日ほどが経った。ラクトたちの前には何度か魔物が立ちはだかり、シャーロットがそれをばったばったと早業で倒しては、ウルキが感心していた。


「………っていうかシャーロットさん、魔物倒すのはいいんですけど…。」


「なんだよ?っていうか歩くの遅いぞラクト。ウルキの方が速いじゃないか。」


「だって…―――――シャーロットさんが魔物倒す度に戦利品を採って俺に持たせるからじゃないですかぁ!?」


そう、シャーロットは倒した魔物から魔力の詰まっている部位を取り出しては、それをラクトに持たせていた。そのため自分の荷物だけ持っているシャーロットやウルキよりも足が遅くなっていたのだった。


「や っぱり少し持つよ?ラクトすごい汗だくじゃない。」


ウルキは手を伸ばしてラクトの荷物を受け取ろうとした。


「いやいや、だ、大丈夫だよ。なんとか…。」


赤い顔をさらに赤くさせてラクトは笑顔をつくる。


「なんだ、大丈夫なのか?じゃあ問題ないよなぁ~?」


シャーロットは意地悪っぽい口調でニヤニヤしながら言った。


「んなっ…!シャーロットさん――――――!だ、大丈夫ですよー!」


ラクトは苦い顔でシャーロットを見た。心の中で(鬼――――!)と叫んだことは内緒だ。


「無理しないで、疲れたら言ってね?いつでも持ってあげるから。」


そう言ってウルキはまた前を向いて歩きだした。



はあはあ息を整えながら、ラクトは二人の後ろ姿をボーッとした頭で見つめた。


(俺…村に帰らなくてよかったよね?帰っても多分後悔してるし…小さいなぁ俺。――――旅をするとして、この先どうしよう?何があるのか全然わかんないなぁ…。)


ぼんやり考えながら歩くラクトに気づいたのか、ウルキは振り返ってニコッと笑った。ラクトは驚いて頬が熱くなったが、笑顔を返す。


(――――――…でもやっぱり…俺なんかより頑張っている人はいっぱいいるんだよね…。何が正解だとか、多分誰にもわからないし、決められることでもないんだろうな…。―――――だとしたらせめて…自分で選んで決めた道を、自分の力でやれるだけ、精一杯歩いていかなくちゃいけない…よな!)



「ラクト、大丈夫?少し休もうか?」


ウルキが気をつかってラクトに尋ねる。ラクトはにっこりウルキに笑顔を向けた。


(俺ももう少し、頑張ってみよう…!)


「平気!」


そう言ってラクトは力強く大地を踏みしめた。



シャーロットは前を歩きながら二人のやりとりを聞いていて考えていた。


(さて、こりゃ私も頑張らないといけないなあ…。ははっ。)







空高く太陽は相変わらず熱過ぎるくらいの陽射しを送っている。



三人の旅はまだ始まったばかりだが、きっと――――――――。








どしゃああああっ!


「ギャアアアアアァ!?」


「大変!シャーロット、ラクトが足を滑らして落ちちゃった!どうしよう!?」


「だ―――――――!?考える暇もないな!大丈夫か、馬鹿ラクト!」









…まあ、なんとかなると信じよう。









fin.





ここまでお読み下さりありがとうございます。


これにて『イケニエ勇者-始まりの旅-』は終わりです。


しかしイケニエ勇者の旅はまだ続きます。よってこの話はプロローグ、序章になります。


本編は長いですが、書きたいことを書けるだけ書いています。お暇がありましたら是非…。



又、この小説は他のサイトにも掲載したものを改稿したものですのであしからず。



お付き合いありがとうございました。



青の鯨



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