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12.一目惚れじゃない、ベル

 

 そうして、相変わらずわたしが数日寝込み、スッキリと目覚めた頃には全てが終わっていた。


 刺激が強いと渋るジェラルド様にわたしが無理矢理せがんで教えてもらったのは、ラウール様のその後。

 彼はルクセントールの屋敷に一度拒まれたのに、パーティで忙しくしている使用人達の目を盗んで裏口から侵入していた。

 そもそもお姉様に求婚していた筈なのに、わたしに一目惚れして土壇場で求婚相手を変えたことで、わたし達の父・ルクセントール伯爵から、二度とわたし達に近づかないように、と厳命されていたのだという。だから今回のことでお父様は大激怒、ラウール様の生家である男爵家に正式に抗議し、男爵家から彼は勘当された。

 そして当然ラウール様は王都の警備隊に引き渡されて逮捕勾留、法の裁きを受けることになったらしい。


「そんな……」

 わたしの所為でラウール様は勘当されて、犯罪者となってしまったのだ。

 今までわたしに一目惚れした人は何人かいたけれど、断ってなお執着してくる人はいなかったので問題になっていなかった。

 この時期、令嬢が結婚相手を真剣に探すのと同様に、男性の方でも伴侶を探してアプローチをしている。わたしが求婚を断ると次に意識を向ける人ばかりだったので、つまりわたしの一目惚れされる魅力もその程度のものなのだと油断していた。

 それが、誰かの人生を変えてしまったとなると深刻さが全く違う。


「ベル、あなたが気にすることではない。ラウール殿は彼自身が選んで行った行動で、今回の結果を招いたのだから」

「ですが……こんなことがまたあるかもしれない、と思うと……」

 シェフィールド邸の居間のソファで、隣に座ったジェラルド様はわたしの手をしっかりと握ってそう言って慰めてくれた。

 でも、わたしは口元に震える手を当てる。

「……やはりお役にたつことは出来なくても、修道院に入ったほうがいいのかもしれません」

 この案は無理だろう、と考えていたがルクセントールの両親に相談して、わたしへ譲渡される予定だった財産をお世話になる修道院に寄付すれば、わたしがそちらに入っても少しは役にたてるかもしれない。

 きっと虚弱なわたしでは奉仕活動などでは満足にお役にたてないが、男子禁制の場で隠遁生活を送ることは、許されるかも、しれない。


「……あなたは勝手な人だ、ベル」

 ジェラルド様にそう言われて、ショックで思わず顔を上げる。

 見つめると、彼の優しい青い瞳も真っ直ぐにわたしを見つめていた。

「そう……ですね、急に求婚したり、急に修道院に行くと言ったり……ジェラルド様には、ご迷惑ばかりかけていて……」

「そう、その後のことは一緒に考えようと約束したのに、勝手に決めてしまうのだから」

 そうだ。

 お見合いの席で婚約期間を二年後とし、その時にお姉様が結婚して子供を授かっていれば、ジェラルド様との結婚やその後のわたしの身の振り方は一緒に考えよう、と言ってくださっていた。

 でも、カール様はわたしに一目惚れしなかったし、お姉様と正式に婚約した。わたしが最初に懸念していたことは回避されたのだ。

 これ以上ジェラルド様に、わたしに付き合ってもらう理由がない。


 本当は、わたしはもっともっと、出来ればずっと、ジェラルド様のお傍にいたかった。

 優しい瞳に見つめられたいし、その温かな手を繋いでいたかった。

 太陽みたいにまぶしくて、素敵なジェラルド様のことが、わたしはいつの間にか好きになってしまっていたのだ。

 でも、もうお傍にいれる理由が、ない。

 無理を言って付き合っていただいたのに、ここで好意を告げてこれ以上優しいジェラルド様に寄りかかるなんて、卑怯者のすることだろう。

 せめて、最後は潔くありたい。


「勝手でごめんなさい、ジェラルド様」

「まったくだ」

 はっきりと言われて、わたしは唇を噛む。

 どうしよう、泣きそう。ダメだ、ここで泣いたらジェラルド様は優しいから、気にされてしまう。

 涙が零れないように目に力をいれて俯いて耐えていると、ジェラルド様の手が離れていった。いよいよ悲しくなって、わたしはクラクラとしてきた。

 また倒れたら、どうしよう。


 そんなことを考えていたら、ふぁさ、と軽い音がしてわたしの膝の上にピンクの薔薇の花束が置かれた。

「この薔薇……」

「気に入っていたようだったから、これに決めたんだ」

「決めた?」

 顔を上げると、ジェラルド様はわたしの前に跪いていた。


「ジェラルド様?」

「マリアベル・ヴィナ・ルクセントール嬢」

「はい……!」

 跪いたまま、ジェラルド様はわたしの名を呼んだ。真っ直ぐに見つめられて、その青い瞳を見つめ返す。


「あなたが俺と婚約し続ける理由がなくなったら、正しい作法で求婚しようと決めていた」

「え」


「俺と結婚してくれ、ベル」


 告げられた言葉の意味は分からなくて、わたしは混乱する。

 初対面の男性に、何度も言われた言葉だ。違うのが、相手がジェラルド様で、相手がわたしの好きな人だということ。

「あの……あの……・」

 また言葉が出ない。でもあの時の恐怖とはまったく違って理解が追い付かず、けれどお腹のあたりからすごい速さで喜びが駆けあがってくる。

 花束を抱きしめて、わたしから手を伸ばすとジェラルド様は過たずその手をしっかり握ってくれた。

 思えば初めから、ジェラルド様に触れられるのはちっとも怖くなかった。


「最初は奇妙なことを頼んでくる、肝の据わったお嬢さんだと思っていた。自分を犠牲にしていることにちっとも自覚のない、可哀想な女の子。傲慢にもそんなあなたの力になってやりたい、と思った」

「えっ」

 ジェラルド様の親指の腹が、わたしの手の甲をこする。

「その内、粗野でがさつな俺のことをちっとも厭わず笑顔を向けてくれるあなたのことを、可愛らしく思うようになった」

「えっ……え?」

 思いもよらなかった言葉に、わたしは狼狽える。

 わたしは今、何をジェラルド様に言われているの? ひょっとして、ジェラルド様もわたしのことを好きだと仰っているの? ほんとうに?


「一目惚れではない、そして他の誰よりも必ずあなたを幸せにすると、誓おう」

「ジェラルド様……」

 ぼろぼろと涙が零れていく。まるで夢のよう。

 真剣な表情のジェラルド様は、わたしのことしか見えないかのように一心に見つめてくださった。

「ベル、愛している」

「わたしも……わたしも、あなたのことが好きです、ジェラルド様」

 何度も頷くと、ジェラルド様はあの太陽のような笑顔を浮かべてわたしを力強く抱きしめる。息が止まりそう! 幸せで!


「では、結婚してくれるかい?」

「はい! ……喜んで!」

 懸命に抱きしめ返すと、お花が潰れてしまって花びらがふわっと舞い、薔薇の素晴らしい香りが薫った。


 こうして、一目惚れ“られ”のプロであるわたしは、一目惚れではなく好きになってくださったジェラルド様の、世界一幸せな花嫁になったのです。




 ちなみに、この時は倒れませんでした! 虚弱もいつか克服したいです!!





 おしまい



以上で今作は終了です!

短い間でしたが、お付き合いありがとうございます!あたたかいジェラルドと、体は弱いが結構突っ走るタイプのマリアベルを書くのがとっても楽しかったです!


最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました!!

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