双鬼夜行
即興小説から転載 お題:東京の四肢切断 制限時間:15分
お次は誰の『記憶』を掘り返したいかな?
おやおや、そんなぎょっとしないでくれよ。
地獄の世界の『記憶』は、好奇と猟奇の人々の結晶。
一度見たら、後戻りできないのは必須。
誰かの秘密を見てしまうのだからね・・・。
君は個人の心を暴くのだよ。自分の好奇心のためにね・・・。
ああ、それは、闇夜に駆け回る二人の男。
奇妙なことに気付かないかね?
そう、二人とも同じ顔をしている。
さあ、ご覧、彼に何があったかを・・・。
血生臭いのは、平気だったね?
彼は通りすがりの切り裂き魔だった。
夜の街を歩き、誰にも見られないように、人を見つけちゃ切り裂いていく。
酷い時には建物の陰に引きずり込んで腕、足を切断してバラバラ死体を残していくのさ。怖い殺人狂だった。
東京は震え上がって、夜の歩行をする者はぱったりいなくなった。
日々、新聞は彼の凶行を書き立てて、彼はそれを見る度、ほくそ笑んだものだ。凶行がセンセーショナルに報道されるほど、彼は自分が認められている気分がしたのさ。とってもいい趣味をしているねぇ?
しかし、街の人が怯え、夜の歩行者がいなくなったんで、彼はその内自分の獲物を見つけられなくなっていったんだ。
血眼になって深夜、切り裂く対象を探し回るんだがね、猫一匹いない。
真夜中は静まりかえり、彼一人の足音だけが響く。
明け方に断念して、寝床に戻る日々が暫く続いた。
ある真夜中、彼は街を徘徊していて、遂に人影を見つけた。
血に飢えた彼は目を見張り、そして狙いを定めたよ。殺したくってうずうずしていたからね。
だが、彼は道の先の街燈の下にいる男の背中に違和感を覚えた。
見た事のあるような、見た事のないような、変な感じがしたのさ。
彼は鋭いナイフを手に、ゆっくり男に近付いた。
しっかり相手が確認できるところまで近づいたとき・・・相手が振り向いた。
彼は驚いたさ、そりゃ。
何故って、その男の顔は彼そっくり・・・いや、彼自身だったのだからね。
彼は・・・ゆっくり、ナイフを構えて、にやりと笑った。
もう一人の彼も・・・ナイフを構えて、にやりと笑った。
真夜中にそっくりな二人が、そっくりな動作をして、笑ったんだ。
二人とも血に飢えた殺人狂、獲物を探していた・・・つまり、お互いを探していたんだねぇ。
やがて彼らは追いかけっこを始めたのさ。
命がけの追いかけっこ。暫く誰も殺していなかったから、誰でもよかったんだね、本当に。
それが例え、自分であろうと。
片方がナイフで切り裂こうとし、片方が逃げる。
今度は切り裂かれそうになった方がナイフを相手に向け、相手は逃げる。
そうして彼らは夜の東京を走り回る。
さて、彼らは一体それをどれだけ繰り返したのかね。
あれからずっと、闇の夜の中で、彼らはお互いを殺すために追いかけ回っているのだよ。
いつしか夜は終わらなくなった。
彼らは夜の中に閉じ込められて、いつまでも命を狙い続け、血を求め続けている。
そう、永遠に。
そして今はこうして、『記憶』を閉じ込めた光の中に浮かんで標本になっているのさ、廻り続ける幻想夢幻としてね・・・。