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幻燈館「地獄の世界」  作者: 独蛇夏子
幻燈館「地獄の世界」
8/19

箱入男子

※胸糞注意 即興小説より転載 お題:黒いプロポーズ 制限時間:30分

 おや、怖いもの知らずになってきたようだね。次はどれを見てやろうか、吟味している。

 感覚が麻痺してきたかい?

 この先もまだまだ浮かぶ闇の中の光。

 地獄の世界、幻想夢幻に囚われた哀れな人々は後を絶たないのさ・・・。

 種類は様々、人は誰しもそういう心を持っているのかも知れないね。自分の知らないところで・・・。


 その棺が気になるのかい?赤い色をして派手だねぇ。

 ああ、手がはみ出ているからね。そりゃぁ気になるか。

 男の瑞々しい手だ。何でこの棺から動く生きている人間の手が出ているかって?

 なに、可哀相?

 はははは、お忘れかな、この地獄の世界にどんな住人がいるのかを。

 そいつはこの光になって浮かぶ『記憶』の中でも一、二を争うほど胸糞悪い奴さ。


 ああ、そいつは喋るよ、饒舌なもんさ。

 ひとつ話しかけてみたらどうだい?

 もっとも、胸糞悪い気分になりたくなけりゃ、他の『記憶』を見る方をお奨めしますがね・・・。




 ・・・やあ、そこに誰かいるんだね?

 こんなことになっていてね、僕はここから出られないんだよ、ずっと。まあ、少し話し相手になってくれよ。

 どうしてこんなことになったかね。

 ハハハ、少し僕も憔悴しているんだよ。なんたって、時間が来たらその度苦しまなきゃならないんだから・・・。

 今は束の間のブレイクタイムなのさ。


 どれ、僕の自慢話をひとつしてやろうか。

 どうせ、僕なんて、もうどうにもなんないんだ。


 僕は結構いい生まれでね、父は金持ちの有力者だった。

 坊ちゃん、なんて呼ばれていたものだ。

 大学に入って、僕は外で一人暮らしするようになってね、色々と好きなことをしたものだよ。金はたぁっぷりあったしね。遊び歩いた。

 しかし、僕が最も好んだのは、ありふれた遊びじゃない。酒に賭博、そんなもの嗜むようなものさ。

 そう、女。

 僕は女をとても好んだ。しかも、あまり金をかけない方法でね。

 なぁに簡単さ。気に入った女の家に忍び込んで、襲いかかる・・・。まあ、言葉を尽くさなくったって分かるだろ?

 遊廓の女なんて、媚びてくるし、商売なんだからツマラナイ。

 僕は嫌がる女を支配するのに大層満足を得る性質でね。実家でも一人や二人、給仕の女の子をね・・・。まあでもそれは御手付きってことになるだけさ。

 完全なる外部で、事を起こすのがスリルになるのさ。


 僕の気に入った女は三人いる。


 一人目はうなじの綺麗な女だった。珈琲店の女給でね、たまたま見かけたんだ。


 二人目は同級生の女。ツンとした雰囲気が粋だった。


 三人目はドールのようなお嬢様。これは部屋に忍び込むのに骨が折れた。


 恐怖に歪む顔がまざまざと思い出されるよ・・・。

 皆、僕の事を思ってくれているのだからね。

 従順じゃあない。

 恐怖と共に僕の存在をその子の中に刻み込む。

 それこそ僕の「支配」なんだ。


 事を起こした後、僕は昼間の彼女たちの様子を、そっと遠くから見守るんだ。

 三人とも暗い顔をして、人が近くに来るたびに怯えている。

 僕はそれを見るのが何より悦びだったのだ。

 三人とも、その瞬間、僕を思い出しているのだからね・・・。


 いずれ、三人とも新聞の社会面の記事になったさ。

 え?分からんかい?

 三人とも、自殺したんだよ。


 おいおい、そんな目で見ないでくれ。隙間からでも見えるんだぞ、誤解しないでくれないか。

 僕は三人とも大切に思っていたのだよ。プロポーズしたっていいと思うくらい。

 そ の と き は そう思うくらい大切だったさ。

 でも死んじゃったからね。意味ないか。


 ある日僕は新たな気に入りの女を見つけてね、後をつけて、部屋をつきとめたのさ。

 何故だか彼女の後姿は、ぼんやりしていて思い出せない。

 でも言いようのない魅力を感じたんだ。



 その家のドアは赤い色をしていた。

 僕はいつものように鍵屋に合い鍵を作らせて、その家に侵入した―――


 しようと思った。

 はずなのに。

 ドアを開けたら、真っ暗の四角い空間。


 僕はそん中に引っ張り込まれた。

 抵抗しても物凄い力で腕や肩を掴まれて、真っ黒の中に包み込まれ、それからはもう・・・

 気の狂いそうな日々なのだよ・・・

 体が引き裂かれそうなくらい痛み・・・腕がもがれそうなくらい掴まれ・・・不快に不快を塗り重ねたような感触が身体を蝕む・・・

 それが繰り返し繰り返し、続くんだ。


 そんで、ここから出られないんだ。

 ちょっとだけこうして戸の隙間が開くがね、これ以上開かない、出られない。

 時間がくると バタン と閉まってしまうしね。

 一体、どれくらい時間が経ったのか、僕は一体どうしたのか、生きているのか死んでいるのか分からない。

 ただ、ひたすらここに閉じ込められて、真っ暗な中で、不快と痛みと恐怖に苛まれ続けている。


 父さんや母さんの名前を何度呼んだって、誰も来ない。

 助けてくれない。


 ときどき責めが止んだこの時だけが僕の平和なひとときだが、・・・また時間がくればやってくるんだ・・・。


 ああ・・・またあの時間がやって来る・・・もうやだ・・・僕はあんなふうになりたくない・・・

 助けてくれないか・・・

 イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ



 ど   し   ぼ   が     ん     め     あ

   う   て   く    こ     な     に     う




     バタン




 ・・・胸糞悪いでしょう?

 だから止めたほうがいいと言ったのに・・・。

 ああ、胸糞悪い絶叫だね。


 本当、いつまで経っても反省のない男なんだよ。一体どうしたらあんな馬鹿息子が育つのだろうかねぇ。

 どうやらね、彼の犯行は彼の父がもみ消していたらしい。

 子が子なら、親も親ということなのかね。

 結局あのザマ。


 ・・・「どうして僕が」なんて、訊くほどのことかねぇ。

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