来場者所感・一
君、あすこの遊園地にある幻燈館を知っているかね?
はっはっは、知らないか。分かりにくい隅の方にあるからね。仕方がない。
しかしねぇ、あすこはなかなか乙な見せ物があるものだと感心させられるものがあるよ。
哲学的なんだ。猟奇が根本の主題だから、子供には向かないがね、大人には奨めることができる。人間の奇態や裏側を覗いてみるとおもしろいぜ。人の愚かさが分かるってもんだ。
幻燈館は黒いテントで、「地獄の世界」って看板を掲げている。
その奥は真っ暗。中に入ると幾百もの光が魂みたいに浮かんでぼんやり闇を照らしている。
どういう仕掛けなのか、ひとつひとつの光に映像が映っている。奇妙な話ばかりで、〝幻想夢幻に囚われちまった人々の物語〟ってコンセプトなんだが、これがァよく出来たものでね。真に迫った作りになっている。幻燈の中の役者たちの表情にぞっとさせられるし、奇態で凄惨な人体も細かくできている。血なんか本物のようで・・・まあ、作り物さ。そんな気味の悪そうな顔をするこたないよ。
案内人の語りもなかなか妙だよ。映像に合わせて物語を語ってくれるんだ。その都度恐怖や好奇心を掻き立てる台詞を入れながら光のもとに案内するんだ。多分男だ。真っ暗だから顔は見えないんだがね、男の声だったし、白い手袋を嵌めた手で大きく身振り手振りをする。その手が男っぽかったんだよ。
どうだい、君。行ってみたくなったかい?
おうおう、そうこなくっちゃ。一度行ってみるといいよ。
場所?
回転木馬の裏側だよ。青いレールのジェットコースターが近くにある。
は?そこにはアイスクリーム屋があったって?
馬鹿言え、僕は正真正銘そこに行ったんだぜ?ここに園内地図もある。
そら見ろ・・・「幻のアイスクリーム屋」・・・?幻燈館「地獄の世界」が、地図にない・・・。
まさか。




