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幻燈館「地獄の世界」  作者: 独蛇夏子
幻燈館「地獄の世界」
14/19

夢中安寧

即興小説より編集して転載 お題:たった一つの小説新人賞 制限時間:15分

 地獄の世界は続いていくよ、幻想夢幻に囚われた人々がいる限り・・・

 おや?

 次で最後の光らしい。

 闇より浮かび出てくる『記憶』の標本たち。

 哀れな幻想夢幻に囚われた人々、誰が見えるかな・・・?


 灰色の地面に横たわる壮年の男は随分ボロボロの姿だね、腐敗しているじゃあないか。

 腐敗しながら、なんだいこれは?

 植物の芽を出しているね。カタバミ、スズメノカタビラ、エノコログサ・・・さまざまな雑草に食われているな、こりゃ。

 そして、彼は未だ息をしているじゃあないか・・・。


 一体彼は何者だと思う?

 驚くことなかれ、彼は世にも珍しい大量殺人鬼。

 罪を背負って生きる、科学者なのさ。


 彼は高潔で理想の高い科学者だった。

 特に平和主義者で知られ、政治家にも通じ、研究を行っていた。

 彼が平和のために作っていたのは、爆弾。

 他国との戦争において「抑止力」になると考えられる、強力な爆弾だった。


 彼は信じていた。

 この世で最も強い爆弾を保有することで、自国は守られる。他国も同等の爆弾を製造し、お互いその爆弾を使うのを恐れ、力が均衡することで戦争は行われないと。

 実際、そうした時代はずっと続いた。

 彼はそんな世界を、信じ切っていたのだよ。


 ある日、誤作動を起こした馬鹿がいて、爆弾が発射される日まで。


 彼はその時、地下のシェルターの研究室にいた。

 そんなところに研究室を作らなくったって、戦争は起きないし爆弾は使われない。わざわざそんなところにいる必要はない。そう彼は思っていたけれど、周囲の人々は皆彼にシェルターの研究室を使うよう言っていた。

 しぶしぶシェルターの研究室を使っていた彼は、助かった。

 地上は爆弾ですべて吹き飛んだよ。


 他に生き残ったシェルターにいた者たちは、政治家とか有力者ばかり。

 大事な機関はみんなシェルターに移していたからね。そうした者が生き残ったのだよ。

 彼は自分が断罪されるのを待った。

 自分は爆弾を開発し、管理の責任者だから、必ず罰せられると思った。


 ところが、裁判で彼は罪を問われることはなかった。

 誤作動を起こした作業員のみが罰せられ、彼は助かった。

 政治家は彼に恩を売ったつもりだったのだろう。

 高名で潔白な人柄、見事な研究の数々。

 彼を潰してしまうのは惜しかった。


 だが、彼はむしろ、狂わんばかりに責任を問われたがった。

 地上では戦争がはじまり、方々で「抑止力」とされていた爆弾が飛び交い、街は破壊し尽くされ、住めるような状況ではなくなった。

 彼が発起人として、お互いの国はより強い爆弾を持とうと、努力したんだよ。

 それが今になって、裏目に出た。


 そして彼は、自分の愛する家族をみんな、地上に置いたまま、シェルターで研究していた。

 平和に暮らせると信じていたから置いてくるのは当たり前。

 だが、国は焦土となっている。

 彼は知っていたよ、自分の家族もみんな、死んでしまったであろうことを。

 骨も拾えないほど、みんな、粉々になってしまったであろうことを。

 そして、国は草木も生えない汚染された土地ばかりになってしまっているであろうことを。

 爆弾の威力は、開発した彼自身が一番よく知っている。


 彼はシェルターの人々が止めるのも構わず、地上に上った。

 そしてとある薬を飲み、廃墟の中で横たわった。


 その薬は遅行性の毒。

 それでいて、彼を有機物として土に定着させ、徐々に土地を改良していく作用があった。

 一部が改良されれば、薬の効果は少しずつ広がり、空気も洗浄されていく。

 いつか植物が生え、また動物たちが歩き回り、人間が生きることのできる世界にするため、彼は自らを犠牲にした。


 こんな姿になったって、彼はまだ生きているさ。

 彼は望んでいる。どんなに苦しくても、また人が生きる世界が地上に現れることを。

 遅行性の毒が回っていく、その間、ずっと夢を見ながら生きている。

 夢の中では、ホラ、みんな笑っているのさ。

 彼が夢想し、信じた平和な世界で。



 ふふふ、どうだい?

 小説家志望だろ?

 この物語の続きを作って、たった一つの小説新人賞にでも、送ってみたら?


 この先、彼が思いを遂げるのか、まだ誰も知らない。

 それを描くのはきっと、君なのさ。



 おや、最後ばかり、妙に説教臭いって?

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