第27話
ノーラがライザを呼びに部屋を出て行ってからしばらくすると、
ドアをノックする音が聞こえた。
「アリサさま、ライザです。お部屋に入ってもよろしいですか?」
少し高めだが、上品そうな声で尋ねられる。
アリサはドアの方へ体を向けると「どうぞ」と返事をして、ライザを部屋に招き入れた。
「ご無沙汰しております、アリサさま。」
ライザはアリサのベッドの脇まで来ると、
スカートの端を軽くつまんでふわりと淑女らしくお辞儀をする。
たったこれだけの動作でも、彼女からは気品や色気が感じられた。
少し吊り上り気味だが大きな瞳からは知性が窺え、
ぼってりとした魅惑的な唇にのせられた真っ赤なルージュは、
彼女が微笑むたびに危うい色気が醸し出されるようだ。
以前、ノーラに聞いたところによると、ライザは社交界の花と謳われているようで、
彼女が出席するパーティでは貴族の男性が幾重にも周りをとりまくほどの人気ぶりらしい。
アリサはもちろん社交界などには参加したこともないので、
どれだけ凄いのか想像することも難しいが、同性の自分から見ても、
彼女はとても魅力的な女性に感じる。
「こちらこそ、ご無沙汰しております、ライザさま。
今日のお召し物もとても素敵ですね。よくお似合いです。」
ライザはうすピンク色のサテン生地に、花の模様が施されたドレスを纏い、
首や指には煌びやかな宝石を身に着けていた。
「どれも安物ばかりですわ。」
そうは言っているが、装飾品には疎いアリサでも、全てのものが上等な一級品であるとわかる。
(ライザさまだからお似合いになるのよね。私が身につけたらきっと浮いてしまうわ…。)
痩せっぽちで肉付きもよくない貧相な身体の自分には、
どんなに奇麗な宝石もドレスもちっとも似合わないだろう。
ライザとはそこまで歳も違わないのに、見た目だけでこんなにも違うものなのかと思うと、
なんとなく憂鬱な気分になる。
「アリサさま、どうかなされました?」
「いえ…。なんでもありません。
それより、ずっと立たせたままで申し訳ありません。どうぞお座りになってください。」
客人相手、ましてや兄の婚約者相手にこれ以上立ち話をさせるわけにもいかないので、
アリサはベッドの隣にある椅子を差し出そうとしたが、
ライザはそれには目も止めずに、少し離れたところに置いてあるソファーへと腰を下ろす。
てっきり自分がすすめた方の椅子に座ると思っていたアリサは、
どうしたのだろうかと、ライザの顔をじっと見る。
するとそれに気付いたライザは、にっこりとほほ笑んだ。
「ごめんなさいね。わたくし、堅い椅子に座ると腰が痛くなりますの。」
家にはやわらかい椅子しか置いていないので、堅い椅子には座り慣れていないと言われれば、
アリサも、配慮が足らず客人に対して粗末なものを勧めてしまったのだと反省して、
「すみません」と謝った。
「それより…、今日はアリサさまにお願いがあってお伺いしたんですわ。」
「お願い…ですか?」
欲しいものならなんでも持っていて、どんな願いでも自分で叶えてしまいそうな彼女が、
自分に一体何のお願いがあるというのだろう。