②
その日から、エリーゼの奇行が始まった。
父の手を舐め、母の頬にキスをせがみ、侍女の指を口に入れようとする。庭に出されたときは、土を掴んで躊躇なく口へ含み、犬が近づいてくれば、喜んで顔を舐めさせた。
カーライル伯爵家は、小さな混乱に包まれる。
「エリーゼお嬢様が、また土を……!」
「あの子は一体、何を考えているんだ」
「呪いでは……?」
しかし当のエリーゼは、混乱している周囲をよそに、毎日着々と菌を集めていた。
(土壌菌、よし。口腔菌、よし。皮膚常在菌、よし。あとは食物繊維。プレバイオティクスが足りない。善玉菌のエサがないと、せっかく取り込んだ菌が定着しない……)
問題は、赤ちゃんの身体では、誰も固形物を与えてくれないことだった。
エリーゼは考えた。考えて、考えて、ある日の庭での散歩中、答えを見つけた。
雑草だ。
柔らかい葉の部分なら、歯がなくても小さく違って食べられる。繊維質も豊富だし、善玉菌のエサになりそうだ。
早速エリーゼは庭の端に生えていた柔らかそうな草を掴み、口に運んだ。
苦い。とても苦い。思わず顔をしかめる。
(……でもこれが命の味だ)
前世の記憶の中で、誰かに言った言葉がよみがえった。過酷な自然で生き抜くために、植物が身につけた生命の力。
(この力で、私の身体も強くなりますように)
そんな祈りをこめながら、必死に草を口に入れた。
「ぎゃああああ! お嬢様が草を食べてる!!」
侍女の悲鳴が、庭に響き渡った。




