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32いつか思い出すために、全ては記される



俺は今、圧倒的な敗北感を味わっていた

横倒しになった身体で感じるのは、木の独特の匂いと、柔らかい絨毯の感触

気づけば口に入っていたドアノブは消えていた


「ドアに負けるとか……………………うえ、まだちょっと味が残ってる」


しばらく呻いた後、立ち上がって見てみれば、そこは薄明かりが照らす狭い部屋の中

右側の壁を見ればマンションなんかに置かれている集合ポスト

左側には、傘立て?

正面には扉


「まあ、開かないか」


振り返って見れば、おそらく俺が入ってきたであろう扉があった

ドアノブを回してみても、開く気配はない


「どこなんだ、ここ」

『…………普通とは違うみたい』

「シロ」


隣を見れば、いつの間にか現れていたのか、シロがポストに向かって手を伸ばしていた


『…………ほら』

「…………確かに」


シロの手がポストをすり抜けず、普通に触れることができている

それにシロの足元をよく見てみれば、しっかりと絨毯を踏みしめていることもわかった


『…………ん』

「…………こっちは駄目みたいだな」


こちらに伸ばされた手を掴もうとしたが、そのまますり抜けてしまった

どうやら物体限定らしい


『…………変な感じ』

「だな。一先ずは、あっちか」


特に他には何もなく、試しにポストを開こうとしたが開くことはなかった

傘立ては傘立てだ

残るは正面の扉だけ

意を決してドアノブを掴んでみると、扉はあっさりと開いた


「……………………」


音を立てないようゆっくりと開いていく

すると、中から誰かの話し声が聞こえてきた


「え~、いいでしょ?お願いだって~」

「許可できません。あなたが今まで一体どれだけ荒らしてきたのか、忘れてしまったわけではありませんよね」


声の感じからして二人の女性

さらに扉を開いて隙間から中の様子を確認する


「そこを何とか!このままじゃひもじくて死んじゃう~」


内部は結構広い

入って左側にはいくつものテーブル席、右側には手前から長くカウンター席が並んでいる

カウンターの席側には燃えるようなオレンジ色の髪の女性がテーブルに突っ伏し、カウンター内部には水色の髪の女性がグラスを磨いている


「ご注文は?」

「お金な~い!」


会話の内容から、今の俺の状況とはまったく違っている

誘拐でもされたのかと思っていたが、そういうわけではなさそうだ


「お帰りはあちらです。あとそろそろツケを返していただけると」

「え~」


こちらに指が指される

やべ


「…………どうしたら許可くれるの~」

「そうですね…………保証人がいるというのなら許可を出しましょう」

「保証人~?」


視線がこちらに向かう前に隙間から離れる

危ない、バレるところだった

このまま普通に入るべきか、それともどうにかして後ろの扉を開ける方法を探すか

流石に自害はしたくないかな


『……………………あれ』

「(どうした?)」

『…………オレンジ髪の人、いない』


隙間を覗き込んだシロが妙なことを言いだした

確認してみると本当にいない

おかしい、さっきまで確かにそこに―――


「はぁい♪」

「ひぇ」


突然手が隙間に入り込んできて扉を掴む

そのまま無造作に開け放ち、腕を掴まれ引っ張り出される


「ちょっ…………うえっ…………」

「保証人見ーっけ!んじゃちょっと借りるね~」

「テオ、待ちなさい。そちらの方は」


俺は何の抵抗もすることができず、カウンター近くの扉の中へと引きずり込まれてしまった

部屋の中はキッチンになっていて、オレンジ髪の女性は手に持った袋から色々なものを取り出してはうんうん唸っている


「はいこれ」

「へ」


手渡されたのは大きめの肉の塊

多分鶏肉


「旅人なんだし料理くらいできるでしょ?ちょっと手伝って」

「いやあの」

「大丈夫!味は保証するから!」

「……………………」


親指を上げて笑顔でドヤ顔

向こうは向こうで作業を開始する

なんかもういいや

よくわからんけど料理しよ


『……………………(照り焼き)』


注文まで入った

醤油も置いてあるし、別にいいけど

ってかどこいった

周囲を見てもシロがいない


『…………(こっち見てる)』

「(了解)」


調理を始めてしばらく、隣で別の料理を作る方を確認していた

特徴的な調理の仕方で、まな板なんかを使わず手元で食材なんかを切って鍋に放り込んでいる

生ごみや洗い物なんかをあまり出さない、キャンプをするような人の調理方法だ


「…………あの」

「ん~?」


こちらを見ずに鍋をかき混ぜつつ、袋から調味料を取り出しては鍋にかけていく

答えてくれるかはわからないけど


「ここ、どこですか?」

「ん?どこって…………あれ、もしかしてきみご新規君?」

「…………ご新規?」


驚いた様子でこちらを向き、気まずそうに手を止める

相手にとって予想外の質問だったらしい


「そっかー、ごめんね?何も知らないのに急に手伝わせちゃって」

「まあそれはいいですけど…………それで?」

「う~ん…………どこ、って聞かれても、実際私もよくわかんないんだよね~」

「はぁ」


苦笑いを浮かべながら鍋をかき混ぜる


「えーっとほら君、ここに来るとき変な扉通ってきたでしょ?」

「まあ」


ちゃんと通ったとは言えないけど


「空間を飛び越えてここにくるから、実際にどこにあるかは私も知らない」

「…………じゃあここはどういう場所なんですか?」

「一応宿、かな?」

「宿?」


フライパンで焼かれた鶏肉、隣の鍋も沸騰しているのか規則的な音を発し、作業を進めつつ俺は質問を続ける


「会員制の特別なお宿でね、聞いたことない?旅人だけが入れる伝説のお店って」

「いや、全然」


俺がその辺りにまったく詳しくないのがわかったのか、女性が説明が進める


「旅人ギルドのギルドマスター。ここを作った人なんだけど、その人、色んなお話を見るのが好きらしくてね。特別な旅の記録を持つ旅人が、もっと効率よく旅ができるよう色々サポートしてくれるんだ、この宿もその一環」

「それで、俺もここに?」

「そういうこと。もっと細かいことはリュートに聞いてね」


リュートという人は、おそらくさっきの部屋にいた水色の髪の女性のことなのだろうか

話し込んでいると、料理が完成した

慣れた手つきで棚から食器を取り出し料理を盛り付けていく

数は、四人分


「はいこれ、君た(・)ち(・)の分ね」

「え?」


見えている?


「なん」

「おっと!忘れてた」


皿を手渡され、困惑を解消するため扉に向かう姿に声をかけようとしたところ突然振り向かれタイミングを逃してしまった


「君、名前は?」

「えっ…………ヒカルです」

「ヒカル君ね。私はここじゃテオで通ってるから、よろしく~」


そう言って、両手が塞がったまま器用に扉を開けて先ほどの部屋へ

取り合えずそのまま追いかけるように扉を抜ける


『…………来た』


何故かシロがカウンターの椅子に座り、グラスに入ったコーヒーをストローで飲んでいるのが目に入る

待てお前それ何杯目だ『…………まだ一杯』


「…………飲みすぎるなよ」

『……………………ん』


視線を別の方向へ向ければ、軽く言い合うような状態の二人


「まったく、貴方という人はいつまで経っても成長しませんね」

「ごめんごめんって。彼にも謝ったし、リュートの分もあるからさ、ね?」

「はぁ…………一先ず邪魔はしないように。それと」

「うんうん了解了解。あっ今日はエールね!」


テオさんがカウンターの近くを離れ、こちらを横切る瞬間にウィンク、テーブル席の方へ移動していった

うぇ

軽く眩暈がしたが何とか立て直したところで近づく影


「えっと、リュートさん、でいいんですか?」

「その通りです、お客様。私はこの宿の管理を任されているリュートと申します。以後お見知りおきを」


両手を前に揃えて綺麗なお辞儀

服装は給仕服でよく見れば耳が少し長い

人間じゃないのか?


『…………多分妖精』

「妖精?」

「そちらの方は良くご存じの様子で」

「?」


妖精っていうと、おとぎ話なんかに出てくるいたずら好きの羽の生えた小人みたいな奴だよな、見た感じそういうのではなさそうだけど


「妖精にも色々な種類がございますので。一先ずはお席へどうぞ、色々とご説明させていただきます」

「はぁ」

「それと、何かお飲み物は?」

「あ~……………………水で」

「かしこまりました」


俺の怪訝そうな顔を他所に、席を勧められ着席

ちょっと食欲が無いので水を頼んだ後、手に持った料理を置き、話を聞く姿勢を取りたかったんだが


『……………………』


隣の視線が痛い

ちょっと待て、多分今大事な話してるんだから


『…………冷める』


もうちょい待てって、別に料理は逃げたりしないから


『……………………わかった

「まったく……………………ん?」


突然机の上に目が行く、そこには皿に盛りつけられた食欲をそそられる料理があった。丁寧にじっくりと焼かれた鶏肉は砂糖の甘さと醤油のしょっぱさを併せ持ち、表面の照りはまるで端正に磨かれた琥珀のよう。ひとたびナイフで切ってみれば溢れる肉汁がソースと絡み合い湯気に乗った匂いが鼻を通りすぎ口からよだれが溢れ今すぐにでも口の中に放り込みたい衝動に苛まれることだろう)…………』


「っておい!人の脳内を浸食するんじゃない!」

『…………バレた』

「バレるわ!」


誤魔化すように視線を逸らすシロ

全然納得してないなコイツ

ご丁寧に俺の声真似までして、いつからこんな腹ペコキャラになったんだか


「ふふふ」

「あっすいません、急に大声を出してしまって」

「お気になさらず。こちら、どうぞ」

「ありがとうございます」


微笑を浮かべるリュートさん

傍から見たら突然騒ぎ出したように見える、誤解されないようにしたい

グラスに入った水が置かれ一口飲んで一息


「まあいいや。先に食べてていいし俺の分もやるから脳内汚染は止めてくれ」

『…………うん、ありがとうヒカル』


一度インベントリに放り込むと直ぐにシロの手元に料理が現れる

相変わらずの仏頂面だが、美味しそうに食べているのが雰囲気から伝わってくる

シロが嬉しそうなら、まあ


「よろしいでしょうか」

「お願いします」

「軽い概要についてはテオからお聞きになっていることのようでしたので、本題から」


リュートさんとカウンターを挟んで対面

静かに、話を聞く


「まずヒカル様、『旅の書』をお出しして頂けると」

「旅の書?」


早速知らない単語が飛び出してきた

多分ジョブ関係だと思うのだが、正直別ゲーやってた時にクランメンバーから軽く概要を聞いた程度であんまり詳しくない

最初に行くべきはずのギルドにも行ってないし


「なるほど。では私に続いて復唱を」


リュートさんが唱え、それに続くようにして言葉を告げる


「我ら王国より出で、世界を記す旅人なり…………!」


瞬間、身体から輝く光が飛び出したかと思うと手の上ではじけ飛び、気づけば本のようなものが手に収まっていた

銀の装飾が施された革装丁の分厚い本で、表紙には知らない言語でタイトルが刻まれている

中央には円状のレリーフがはめ込まれており、右下にシンプルな剣、左上には鍔のない刀、それぞれが逆の方向に切っ先を向け柄頭同士が一本の線で繋がっている


「そちらがヒカル様の旅人の書となっております。ちなみにこの宿に着いた時点で固有のものへ変わっておりますので、その点はご留意ください。」

「これが…………」

「最初のご登録が完了致しましたので、これ以降念じれば自由に出し入れが可能です」


言われた通りにやってみれば本が消えた、逆もまた然り


「旅の書には持ち主のあらゆる情報、知覚した感覚、言葉、すなわちログが記録されております」

「えっマジ?」


開いて見れば、確かにそこには俺が初めてこの世界に来てからの喋った言葉や聞いた情報、その時の場面なんかが全部記されていた

アキラと初めて会った時やハイドラッカーの戦い、細かな戦闘の機微まできっちりと


「…………ん?」

「なにかございましたか?」

「えっと、これは?」


本の途中、とあるものが目に入った


「鍵穴がございますね。私も初めて見るものでございます」

「……………………」


本の一ページに大きく鍵穴のようなものが存在していた

穴といっても向こう側が見えていたりするということはなく、絵のように描かれた鍵穴だ

ページの前後から考えると


「向こう側…………二世の狭間での記録か」


よくわからないが再確認が出来ないようになっている

ログが見れるってわかったからシロに関する証拠になると思っていたんだけど、一体どうなっているのか

よく見たらシロとの会話もその部分が空欄になっている


「おそらくはマスターの手によるものかと」

「マスターっていうと、ここのギルドマスターか…………今すぐ会えたりは」


リュートさんは少し考えこんだ後、申し訳なさそうに告げる


「申し訳ございません。マスターはあまり人と関わるのを避けていらっしゃいます、居場所も存じておりませんし、少々厳しいかと」

「…………わかりました。取り合えず続きを聞かせてください」

「はい。それでは次に表紙のレリーフを回していただけると」


レリーフに触れ、右に九十度回してみると本が輝き出し光になって解ける

光が形作るように集まった後、今度は鍵のようなものが現れた

持ち手と先端、その両方にはレリーフと同じ装飾が刻まれている


「そちらがヒカル様のお部屋の鍵でございます」

「部屋?」

「はい。そちらを扉に挿して回していただけると、その扉はお部屋に直通で繋がるようになります」

「ええと、扉ってのは…………」

「全てでございます」

「へ?」


全てって、全て?


「一度回せばお部屋に、二度回せばこちらのエントランスに繋がるようになっております」

「……………………こんな凄いもの、貰ってもいいんですか?宿代とかは…………」


どこでも入れるセーフポイントとか、みんな喉から手が出るほど欲しがるぞ

大丈夫なんだろうか

後で請求とか言われても、絶対払えないくらいの価値がある


「それについてはマスターが認めた以上問題ありません。それにヒカル様は、既にそれだけの価値をマスターに示しておいでです」

「価値?」


そんなもの見せた覚えがないんだけど

リュートさんは机に乗せた俺の旅の書を示して言う


「マスターは全ての旅の書を閲覧することが可能です。そのためマスターは、ヒカル様がまた新たな物語を記す可能性を見出したのです」

「……………………」

「記録を積み重ねるのも大事ですが、己を燃やしつくすような一瞬の輝きというのもまた、尊いものです」

「一瞬の、輝き…………」


思い出すのはかつての記憶

ハイドラッカーや、シロとの戦い

確かにあれは、自分自身の全力かけて挑んだ大事な記憶だ

もしそれを、ここのギルドマスターが評価してくれているっていうのなら


「……………………わかりました、ありがたく頂きます」

「はい。それと―――」


続きを聞こうと思った次の瞬間背後から急に衝撃が走り、全身に重いものが乗っかってくる

首元に回される腕、視界に入ってくるオレンジ色


「うぐっ?!何が…………うわ酒臭っ!!」

「え~ひど~い、乙女に向かって臭いだなんて~」


振り向けばそこには髪色と同じくらい頬を染め上げ出来上がった状態のテオさん

髪も服も乱れひどくみっともない恰好をオエ


「…………ッ」

「ね~そういやヒカル君ポイントどれだけあるの~?」

「ぽ、ぽいんと…………?」

「———テオ」


リュートさんが窘めるよう強めの口調で話すがテオさんは特に気にするつもりがないようで


「まあいいじゃんもうほとんど説明終わったでしょ~ほらほらお姉さんに教えてごら~ん」

「い、いや…………くっ……………………りゅ、リュートさん」


力が強くて引きはがせない

取り合えずリュートさんに助けを


「…………わかりました。ポイントというのは、旅人の皆さまの記録を見たマスターがそれに応じて付与してくださるものです」

「え?あの」

「そちら、テーブル席の奥にある販売機でご使用して頂ければ、アイテムのご購入やコールへの変換が可能です」


何とか後ろを振り返って確認すれば、そこにはタッチパネル式の小さなモニターのようなものが置かれている

いやそのまま説明を続けてくれってわけじゃなくて


「じゃあポイント数は」

「それでしたら旅の書に」


鍵を戻して旅の書出してタップ詳細欄確認


____________________

・『旅の書』(ヒカル)

全ての旅人が持つとされる不可思議な本

持ち主に関する全ての情報が記されており、旅人ギルドのギルドマスターがその情報に応じた評価を行っている


累計ポイント数:8932P

現在ポイント数:8932P

____________________


「8932です。教えたんで離してください!」

「わおっ!そんなに!」

「うげっ」


圧し掛かる重さがまた増した

うらやましそうな反応と、猫撫で声が耳元で囁かれる


「ねぇ~ちょっとだけお姉さんに貸してくれな~い?大丈夫!倍にして返すから」


絶対返さない奴の常套句


「……………………このっ、さっさと離れろって!!」

「あうっ」


何とか引きはがせた

椅子から立ち上がり警戒するように睨みつける


「あ痛たた、もー……………………あっ」


地面に尻もちをついたテオさん困ったように声を出した後、急に視線を逸らして冷や汗をかき始める

いつの間にかリュートさんがカウンターから離れテオさんの真後ろで頭を鷲掴みにしている


「……………………テオ」

「えーっとあっちょっと待って」

「今日という今日は許しませんよ。ポイントとはいえお金を強請ろうなどと」

「いや強請ろうっていうかほらなんといかさほらあれだよあれ、ね?」

「いい加減わからせる必要がございますね」


言い訳がまったく言い訳していない

頭を掴まれたまま引きずられていくテオさん

その表情は青白く絶望に染まっているようにも見える

なんかちょっと気が抜けた


「ヒカル様」

「あっはい」


キッチンとは違う別の部屋への扉に向かうリュートさんが途中話しかけてくる

その顔は笑顔なのだが目が全然笑っていない

怖い


「申し訳ございません。一応同じお客様とはいえテオがご迷惑を」

「えーっと」

「このろくでなしについては私にお任せください。よろしいですね?」

「……………………全力でお願いします」

「え」


テオさんの顔色がもっとひどくなったが気にしない

リュートさんは満面の笑みで


「わかりました、では今日は全力で」

「ひぇ」


開かれた扉へ二人が入っていく

最後にテオさんの叫び声が聞こえてきたが扉が閉まると直ぐに鳴り止んだ

取り残され、周囲には俺たち以外誰もいない


『……………………ごちそうさまでした』

「お前はマイペースだな、ほんと」

『……………………?』

「まずは皿を…………ん?」


机を確認すると小さなメモ書き


『食器類はそのままで問題ありません。byリュート』

「いつの間に…………」


まあいいか

少し聞きたいことはあったけど、もう遅いし部屋に行こう

結局出る方法もわからないし、そろそろ限界


「……………………か、鍵を一回か」


旅の書を鍵に変え、入り口の扉へ挿し、回す

扉を開ければそこは結構広めの部屋

とはいえじっくり見る暇もなく急いで扉を閉める


『…………はいこれ』

「……………………サンキュ……………………」


シロが黒い袋をインベントリから取り出して手渡してくれる

すぐさま顔を突っ込んでオロロロロロ


『……………………なんでだろう』

「—————(わからん…………)」


聖女様は大丈夫だったのに

テオさんに最初掴まれた時点で結構キタ

全然克服できてなかった

ちくしょう年上か?年上が駄目なのか?


「…………というか悪い、そっちは食べたばっかりだってのに」

『…………別にそんなに、それにほら』


シロが指差した場所は袋の中

よく見てみると中に入っていたのは絵の具を叩き込んだかのような虹色の液体

しかも何故か混ざっていない


「……………………一応配慮なんだろうけど、こんなのが身体から出てくるのって逆に怖いんだけど」

『…………レインボー』


一先ずこれはあとで処分するとして、今日はもうログアウトする

ベットに転がり込んでメニューを開き


「じゃあ、また明日」

『…………うん、また明日』

「おやすみ」

『おやすみ』


ログアウトボタンを押した



ーーーーーーーーーー



―————ピピピピピ



「……………………うぅん?」


規則的な電子音が寝ぼけた頭に響いてくる

カーテンから漏れ出る朝日で目が痛い

音の発生源へ手を伸ばすもギリギリ届かない


「……………………うべっ」


伸ばし過ぎて身体がベットからずり落ちた

肩が痛むがそのおかげで少し目が覚めた

立ち上がって確認すれば音の出所はスマホ、しかも着信音


「…………真さんか」


電話の相手は祖父、いつもの定期連絡だ

時刻は朝の九時、前よりも早い


「もしもし」

『…………光(ひかり)か』

「はい、おはようございます」

『今起きたのか。悪かったな、起こして』

「いえ、大丈夫です。問題ありません」


祖父と孫の関係とは思えないような淡泊な会話

それもその筈、こっちは申し訳なさでいっぱいだし、向こうだってどう接していいのかわからないだろう

近況を報告し、そろそろ会話が終わりそうになった頃、祖父が質問してきた


『どうだ、最近は』

「最近…………成績なんかは特に問題なかったと思いますが」

『いや、そうではない』

「?」


急に祖父が踏み込んできた


『満のことだ』

「!」

『あれからもう一年以上経つ。どうだ、今は』

「……………………」


なんて、答えればいいんだろうか

結局、俺は満さんに対して何も


「!」

『……………………すまなかった。今日はもう』

「待ってください、お願いがあります」


思い出した

俺がやるべきこと


『…………言ってみなさい』

「満さんの、お(・)墓(・)の場所、教えていただけませんか」

『—————』


向こうで息を飲む音が聞こえた気がした


『……………………もう、大丈夫なのか』

「…………そうだったらいいなとは、思ってます。でも今は」


それでも



―————覚えて、墓参りにいって、思い出して



―————そうやってそいつがいたって証を心に残しておくんだ



「ただ、人に言った言葉が、自分に帰ってきたってだけの話です」

『……………………そうか、わかった、教えよう』

「ありがとうございます」


そうして満さんのお墓の場所を聞き、いくつかの会話の後電話は切られた


「……………………はぁ」


ベットに座り込んでため息

もうちょっと、頑張らないとな


「……………………ベタベタする」


変な汗かいたし、昨日はログアウトした後そのまま寝たんだっけ


「…………シャワー、浴びよ」



ジョブ毎それぞれの特殊効果

・旅人:自身のログを確認可能な『旅の書』を獲得

・魔術師:MP最大値倍化

・戦士:スキルクールタイム五%短縮

・構築者:機構装備専用の特殊装備欄が二つ追加される

・契約者:契約技の効果が上昇する

・超能力者:「PSI」使用時のデメリット軽減

・錬金術師:アイテムの効果量が大幅に上昇する

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