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17現実の悪夢



暗い


自分は今どこにいるんだろうか


暗い闇の中で膝をついて俯いている


胸には、木の杭が突き刺さっている



『……………気分はどうだ?』



声が聞こえる


聞き覚えがあるような、ないような声


自分の正面に、誰かが立っている



『……………………情けねぇよなぁ?結局こうなった』



呆れと嘲笑が入り混じった不快な声


顔を上げてみるとそこにいたのは真っ黒な人型


どこか、ハイドラッカーに似ている気がした



『別もんだよ、でもまぁ?お前の恐怖って言うところはあってるかもな』



そうか、俺は今、悪夢を見ているのか



『そうだ……………………お前はあいつに殺されたんだ』



シロ



『でぇ?どんな気持ちなんだ?こんな結末になって』



どんな気持ち?


よく、わからない



『だろうよ!あいつを死なせたくないなんて口ではなんとでも言えるみたいだが、結局どうやって解決するかなんて一切考えていなかったんだからな!』



そうだ


でも、そのまま見送るなんてできなかった



『どうして?』



それは



()()()()()()()()()()?』



そうだ



『はは……………………本当に嫌気がさしてくるよなぁ?いつまでもいつまでも過去に囚われたまんまなのはよぉ!』



ああ



『思い出すよな?忘れられるわけないもんなぁ!』



忘れるもんか



『あいつの白い髪を見るたびに!自分の顔を見るたびに!幸せを感じたその瞬間に!』



……………………



『そうだろう?!』



ああ



ーーーーーーーーーー



『お父さん!』

『光、こっちだ!』


なんて名前だったっけ

もうずいぶん昔のことだから、ちゃんとした病名は忘れてしまった

確か、十一歳くらいの時だった


『よっし…………ほんとデカくなったなぁ、前まではあんなに小さかったのに』

『えへへ』

『ははは……………………ん?』


子供には少し珍しい、白い髪

細かく見なければ気づくことはないだろう

実際子供の時でも出るときは出るのだから、気にせず流せる程度のものだった

その時は


『…………どういうことだ』

『……………………違うの』

『だったらあれはなんだ?』

『……………………お願い、信じて』

『信じられるわけがないだろう!』


一年が経って、完全におかしいことに気が付いた

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『ふざけるな……………………こんなこと!』


別に生まれつき白髪だったわけじゃなかったんだ

遺伝性の病気

アルビノとかとは違う、毛髪にしか影響がない珍しい病気

正直かなりファンタジー

まあ何か身体に不具合があるってわけじゃないだ、今でも俺は健康体

ただ唯一問題だったのは

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『お父さん?』

『ッ…………光』


今でも覚えている

あの日俺を見た時の父親の表情を


『え…………』


気味の悪いものでも見たかのようなあの顔


『……………………部屋にいなさい』

『う、うん』


結局、両親は離婚

どちらに行きたいか聞かれ、泣いている母親と、真剣な顔つきの父親を見て、俺は母親を選んだ

それは最大の過ちだったけど


『…………お母さん』

『…………さん…………さん……………………どこ?会いに来て……………………』


母親は壊れていた

父親と離婚し二人暮らしを始めてからしばらく、仕事から帰ってきたと思ったら酒を飲んではうわ言のように誰かの名前を呼んでいる

最初は父親の名前かと思ったけど違ってた

名前の数が違ったから


『……………………どうしよう』


どうすることもできなかった

それでも何とかしようと、家事をしたり、中学に上がってからは新聞配達なんかもし少しでも母親が楽になれるようがんばった

学校では変な目で見られていたけど、気にせずがんばった


『…………ただいま』


もう髪が完全に真っ白になった辺り

髪を切る金もケチってたので長くなった髪を払いながら家に帰ると、様子のおかしい母親がそこにいた


『ああ…………やっと来てくれた…………』

『…………お母さん?』


目の焦点があっていない

フラフラで、まともに立っていられないはずなのに、掴まれた腕がひどく痛かったのを覚えている


『ねえ…………どうしたの……………………怖いよ』

『若葉さん…………さあこっちにきて』

『え……………………ち、違うよ、俺は…………』

『久しぶりだから…………緊張してるんでしょ?』


ベットまで連れてこられ上着を脱がされた

母親はまるで今が人生で最も最高だとでも言うような表情でこちらを見つめ、自分の服を脱ぎ棄てる


『ひっ』


今目の間にあるそのすべてが、気持ちわるかった

初めて見る女性の裸体

恍惚とした表情

獲物を見るような瞳

熱い吐息

本来であれば愛し合うものたちが行う行為

押し倒され、今まさに始まろうとするその瞬間


『あ、あ、あああああああああああああ!!!!』


恐怖が決壊し、近くにあったボールペンをその瞳に突き刺した


『—————!!!!』


逃げた

何も考えず、ただ逃げた

裸足のまま、どこを目指すでもなく

今はただこの場所にいたくないというその一心で


『……………………う…………あ……………………』



ーーーーーーーーーー



『まだ、終わりじゃないよな?』



ーーーーーーーーーー



直ぐに警察に保護された

白い髪で裸足、しかも上半身裸なんて目立つに決まっている

当たり前だが母親とは離れることになった

親戚も頼れず施設に預けられた

施設の人も大変だったと思う

何もせず、ただそこにいるだけだったのだから


『君…………名前は?』


それから数ヶ月経った後、とある人に出会った

白い髪を伸ばした、三十代くらいの男性


『……………………光』

『いい名前だね』

『ほんとにそう思ってる?…………それと、あんた誰?それにその髪…………』

『ああ、僕の名前は満。それとこれは…………君と一緒だ』

『同じ…………』

『光君、よかったら僕と―――――』


それからの一年は楽しかった

満さんはいろんなことを教えてくれた

なんてことのない日々を

生きるために必要なことを

満さんのことは、なんだか他人とは思えなくって

気づけばすぐに家族のようになれた

転校した先の学校は楽しかったけど、あまり行く気にはなれなくて、そんなときは満さんが勉強を教えてくれた


『あれがオリオン座、見えるかい?』

『うん』

『……………………星は、好きかい?』

『あんまり…………でも、いろいろ教えてもらうのは、嫌いじゃない』

『そうか…………ありがとう』

『はぁ?普通こっちのセリフだろ』

『それもそうだね、ははは』


でも、結局ダメ


『光君…………待ってなさい』


玄関の扉の前、ドアスコープを覗きながら満さんが真剣な顔をしている


『満さん?』

『…………ふぅ……………………いや、気にしないでくれ、大丈夫だ』


その笑顔の意味に、気づいていれば


『満さん、何してんの?』

『ん?ああいや、少し整理をしていてね』


それから、満さんはよく部屋の物を整理するようになった

本や小物なんかや、普通は捨てないようなものまで

しばらくして家の中は少しずつ広くなっていった

不思議には思っていたけれど、気にすることはなかった

子供には、わからない


『ただいま~……………………あれ、満さん?』


学校から帰ってきたある日、家に戻ってみると誰もいなかった


『あれ、珍しいな』


満さんは基本的に家の中で仕事をしていて、家を空けることは滅多にない

そのため取り合えずリビングに向かっていったところで違和感に気づいた


『……………………え』


テーブルに置いてあった一枚の紙

そこにはこう、書かれていた


『これは本来僕が背負うべき責任だ、君には本当に申し訳ないことをしてしまった。すまない』


理解できなかった

理解したくなかった


『なんだよ、それ…………』


家を飛び出して、どこへ行くわけでもなく走りだした

胸の奥がどうにかなりそうだった

嫌な予感がずっとしていた

気持ち悪くて、吐きそうだ

ひたすら走って、走って、走って

足が棒になりそうになるくらい走った辺りで、音が聞こえた


『……………………ああ』


赤いランプ

白と黒の車両

寂れたアパートの前

騒がしい野次馬

ああそうだ、救急車も来てたっけ


『ああああああああああああああああ!!!』


その後、警察に事情を聞いた

アパートにいた二人の男女は共に死亡

女が先に包丁を刺した後、男が女の首を絞めて殺害、男はそのまま失血死だったらしい


『……………………』


満さんは俺の実父だった

当たり前だ、養子縁組はそんな簡単にはできない、血縁関係があったから俺は引き取られた

普通、こんな近くに自分と同じ、しかも遺伝性の病気の持ち主なんているわけない

偶然にしたって出来過ぎた、どうして気づかなかったんだろう


『…………君が満の子か』

『……………………はい』


満さんの両親に会った

向こうはあまりいい顔はしなかったけど、最低限はよくしてくれた


『…………どうするかは君が決めるといい、ここに来るのも、元居たあの家に戻るのも』

『ありがとうございます…………でも―――』


満さんは、結構凄い人だったらしい

お金も、かなりの額を残していった

葬儀の日、たくさんの人が集まっていたのをよく覚えている

その時に向けられた目も


『……………………』


家には、ほとんど俺の物しか残っていなかった

満さんが事前に荷物を整理していたからだ

あの日ドアスコープを覗いていたのは、扉の向こうに母親がいたからなんだろう

満さんは、こんなことになるってわかっていたんだろうか


『一体何してるんだろう、俺』


もう、何もわからなかった



ーーーーーーーーーー



『まだまだ、もう一つ』



ーーーーーーーーーー



どれだけ歩いてきただろう

アパートの前から逃げ出して、電車に乗って、行く当てもないまま歩き続けていた


『……………………ここは』


気づけば、前に住んでいた場所の近くに戻ってきていた

まだ母親と父親が離婚する前、幸せだったあの頃

どうしてこんなところに


『はは……………………バカみたいだ……………………あ』


声が聞こえた

路地の向こう側、駅のすぐ近く

ゆっくりと近づていくと、聞き覚えのある懐かしい声が、父親の、声だ


『父さん……………………え』


一体何を期待していたんだろうか

もしかしたら助けてくれるって?

今更、無理に決まってる

だって


『ははは、ほら見てくれ新しいネクタイだ』

『あんまりはしゃぎすぎないでよ』

『そりゃ嬉しいさ、娘が初めてくれたプレゼントだ』

『もう…………しかたないひとね』


そこには、幸せそうな家族がいた

俺と同い年くらいの女性と三十代くらいの女性

そして、幸せそうに笑う、かつての父親の姿


『……………………』


実は父親も浮気していた?

いや、でも同い年くらいの娘もいる、シングルマザーの人と再婚したのかもしれない

まあ正直、どっちでもよかった


『……………………帰ろ』


あそこに俺の居場所はない

きっと、俺はあんな風に幸せになんかなれないって、心底思った



ーーーーーーーーーー



『ははははははははははははは!!!ほんと!笑うしかねぇよなぁ!』



暗闇の中、笑い声だけが木霊する

その点については同意する



『というか?よくこんなことあって今も生きていられるよなぁお前、死にたいとか思わなかったの?』



死ぬかよ、満さんに失礼だ



『そりゃそうだ…………もしかしたらお前が母親を拒絶しなかったら今も生きてたかもな?』



ふざけんな、吐き気がする



『でもお前は悪運だけはいいよなぁ、この後もすぐに助けてくれた人がいたんだから』



葬儀を終え、何もする気が起きなかったが、暇潰しにゲームを始めたのがきっかけだった

半VR

名前は「クロニクル・ノーツ」

そこで俺はとある人達に出会った



『ヤエ先輩にミティカ、それにトール、いい人だったよなぁ?』



偶然入ったゲーム内クラン、そこで俺はその三人とよく組んでいた

みんな精神的に大人な人で、メンタルがぼろぼろだった俺によく親身になって接してくれた



『でも、もう会えない』



ゲーム内の繋がりだったし、何よりも、あの人達は俺が自分たちに依存しないように振舞っていたんだと思う

結局、どこかでお別れがくることはわかっていたんだし



『でも?今はこの通り、あいつに縋り付こうとして失敗したわけだ』



そうかもな

依存、してたかもな



『……………………なぁ、お前これからどうすんの?』



決まってんだろ



『拒絶、されるかもよ』



黒い人影が胸刺さった杭をつかみ取る

気づけばその姿は母の姿に変わっていた



―————関係ない



『彼女は死ぬ』



次は満さんの姿に



―————そうだ



『お前は、幸せになんてなれない』



父親に



—————どうでもいい



『なら、どうして?』



杭がゆっくりと動き始める



「……………………どいつもこいつもこっちの気持ちも考えず勝手なことばっかり言いやがって」



杭を握っていた黒い人影の手は、いつの間にか自分の手に変わっていた



「そもそもふざけんなよ!浮気しときながら泣きまくってしかも自分の息子を間違えるとか!」



最初から人影なんていない、ここにはずっと俺一人だけがいる



「満さんだってそうだ!自分で全部背負い込んで勝手に死にやがって!もっと他に方法だってあっただろ!」



さっきまでの声は、全部俺の中から聞こえていたんだ



「幸せになんかなれないって?!」



杭が、抜ける


____________________


        警告


この操作を行うと二度と元には戻せませんがよろしいですか?


       YES/NO

____________________



「そんな昔のこと!今考えてる暇なんてないんだよ!」



ーーーーーーーーーー



木が地面に落ち、特有の音が周囲に響き渡る

気づけば場所は暗闇ではなく薄暗い大穴の周辺


「はぁ…………はぁ…………はぁ…………はぁ……………………シロ…………」


立ち上がって走り出す

考えなんてない

ただ今は、このまま立ち止まったりなんてできないんだ


「このまま逃がしたりなんかしないぞ!」


迷わずあの暗い暗い大穴へと飛び込んだ

まだ、終わらせたりなんかしない



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