1旅立ち
初投稿です
拙い文章ですがよろしくお願いします。
VR、ヴァーチャルリアリティ
過去多くの科学者たちが挑戦しながらも、技術や倫理的に問題があることから確立しなかったもの
人間の持つ、味覚、視覚、聴覚、嗅覚、触覚に疑似的に情報を与え、目の前の現実を塗り替えるまさしく夢のような技術
そんなものが搭載されたゲームが発売されてから、もう一年半の時間が流れた
「ッ!…………ありがとうございます!」
「うん、ヒールヒールっと」
二人の男女が広い平原に立っていた
男は鎧姿に剣と盾を持ち、女はローブに長い杖
男の眼前では三メートルは優に超えるような巨大な怪物が棍棒を何度も何度も振り回し、殺意を迸らせながら男を叩き潰そうと迫ってくる
「…………!!」
だが男が持つ盾が、その攻撃をことごとく弾き飛ばしていた
普通ではあり得ない現象、巨大な体格から生まれる圧倒的なエネルギーは一般的な人間では受け止めることはおろか、耐えきることも出来ずに吹き飛ばされるのが関の山だろう
ではなぜ、このような非現実的なことを目の前で繰り広げることができているのか
それはこの世界がゲームだから
―——ただ
「はぁ~~…………やっと終わりましたね、ドレットオーガの討伐…………」
「うん、流石に二人だけではあの耐久オバケの完全討伐は難しいと思っていたが案外やってみればできるもんだ」
頭に被ったヘッドギアのフェイス部分を上げ、目の前のパソコン画面を見る
画面には先ほどの平原とは違い酒場のような場所、髪をポニーテールにした黒髪の女性がテーブルを挟んで座っている
「前衛の役割全部自分が受け持ちましたけどね…………というか、何で先輩は攻撃方法一切皆無なんですか?どういうビルドしてるんですか……」
「私は頭脳派だからね」
「いやその発言が既に頭悪いんですけど…………」
それからあのボスは実は吸血鬼の血を引いているから昼間は弱体化するだとか、前にやったクエストはNPCの男性が錬金術師で娘の病気を治すために狂気の実験をしていたとか、あの貴族のNPCは本当は貴族じゃなくて昔あった災害のどさくさに紛れて本物の貴族と入れ替わった従者の一族なんだとか、他愛のない話を延々と続けていた
「そうそう、村に現れた謎の人形についてなんだが…………」
「あれ、そんなクエありましたっけ?」
「ん?ああすまないね、別の話だった…………おっともうこんな時間か」
「…………そうですね」
時計を確認すればもう昼の十一時半、早ければ昼食をとる人もいる時間帯だ
しかし今日に限っては別の意味を持っている
「しかしこうして見ると結構長く感じてしまうね、もう五年、いや君にとっては一年か」
「はい、自分としては色んなことが沢山ありすぎてあっという間の一年間でしたけど」
「ふふ、若いね少年」
「何様なんですか、本当に…………」
胸がチクリと痛む、こんな日が来るということはずっと前から分かっていたというのに
今までがどれだけ楽しかったとしても終わりというものは必ず来る
それが、もうほとんど誰もログインしていないゲームだとしたら尚更だ
娯楽というものはいつだって刹那的なもので、目標をやり遂げた達成感を味わうその一瞬を全身で感じ取るために長い作業や苦痛にも感じるような日々を選択する
だが、何度も同じような快感では人は満足できなくなっていき苦痛を受けるハードルも上がっていく
「どうしたんだい?」
「分かり切った質問をしないでください、そうやって全部理解していながら聞いてくるのは性格悪いですよ」
「ふふごめんごめん…………そうだね」
「なんですか」
「いや、君はVRに興味は無いのかな、と」
「いまやってるじゃないですか」
「なに、こんな中途半端なものではなくて、本物のVRのことだよ」
「…………といわれましても」
いま自分が頭に付けているものは、全周天型のフルフェイスヘッドギアで今でも世間を賑わせているものとは違いフルフェイスの中に画面を映し、脳波で肉体を動かすものだ
といっても昔あった目元だけに付けるものとは違う
首が疲れるほど重くも無く画面が歪んでしまうこともない
けれど、これが骨董品扱いされてしまうほど本物というのは違うのだ
差し込む光と鳥のせせらぎ、木々の匂いに大地を踏みしめる確かな感触、インターネットに溢れかえる賞賛と感動の体験談が今までにあった常識を覆し、多くの人間が夢見た世界が実現したことを示している
「ちょうどいい機会だ、せっかくだし君もいい加減始めてみてはどうだい?トール君もミティカ君も向こうに行ったみたいだし」
「…………そんなこと言われましても、ゲーム本体はどこも品切れでネットオークションでプレミア価格が付くほど高騰してるんですよ、ゲームにそこまで出しません」
「ああ、うん。だからそろそろかな」
ピンポーン
「え?」
インターホンが鳴る
最近は注文なんかもしてないし知り合いなんかもいない
仮に来たとしても事前に連絡が来るはずだ
ならこれは
「ほら、早く受け取ってくるんだ最近は配達の人も大変だからね」
「ほんっとこの人はもう!一体いつ人の住所を調べ上げたんですか!」
「さっき言っただろう、私は頭脳派なんだ」
悪態をつきつつも玄関へ向かい扉を開けば案の定荷物を抱えた男性が立っていた
荷物の住所欄を確認するとしっかりと自分の本名宛てで、沸き上がる衝動を抑え表情を変えず、言葉に棘が出ないようにしっかりと対応する
配達の人が苦笑いをしていたのはきっと気のせいだったと願いたい
段ボールの封を開け中身を確認してみれば、そこにあったのは先ほどから話に上がっていたとある代物
「これ、なんすか」
「おやおや口調が荒れてるね、いやなに君の思った通りの物だよ」
「いやなんでこんなもん送ってきたのかを聞いてるんですよ」
いま話題のVRヘッドギアは、今じゃ普通には手に入らない 自分も手に入れようと思ったが発売当初は三日もたたずに売り切れた
だがそれがいま目の前に、ある
「まあ、最近仕事が忙しくてね、これからまともにゲームをする時間も無くなるんだ」
「それは…………ならやっぱり」
「そう、私はこのゲームで引退、それは貰い物だったんだが流石にこのまま埃をかぶせておくのもなんだか偲びなくてね」
「でも別にわざわざ自分に送ってこなくても…………」
「君と私の仲だろう?それに君はここ最近、このゲームが終わるこの日までずっと私に付き合ってくれたじゃないか」
「……………………」
言葉が出てこない自分が憎たらしい
言葉に詰まり、少し景色が歪んで見える
「この場所で、君はいつだって私の期待を良い意味で裏切ってきた。いつだって必死で、目の前のものに向き合ってきた。きっと向こうでもやっていけるだろう」
「…………それは…………」
「期待しているんだよ、君にね」
この人はいつも人をやる気にさせるのが上手だ
胡散臭いし、ふざけたことばかりやって、迷惑をかけまくっているし、人の心に土足で踏み込んでくる
でもみんなこの人のことを憎んだりはしなかったし、最後は笑顔でお別れをしていた
楽しそうなんだ、この人のやることが
自分も突拍子もない夢を見ようって思わせてくる
「そういうことなら、ありがたく頂きます」
「ああ、じゃあよろしくね」
画面の中、フレンド同士のチャット欄に一つのURLが貼られる
疑問に思いクリックすると画面に表示されたのは
「……………………………………」
「税込一万四千八百円、よろしくね♪」
「…………………………………………………………」
「いやぁ最近散財したばかりでね、ちょっとした臨時収入が入るのは本当にありがたいよ」
「………………………………………………………………………………………………」
「ふふふ、感謝してくれるといいよ本来なら十倍どころか二十倍以上の値段が付くものさ、それが発売時と同じ値段で手に入るんだ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………」
「どうしたんだいヒカル君、黙り込んでしまって」
「……………………なんかこう、台無しですよ…………………………ヤエ先輩」
悲しい現実
この人は、いつだって空気を読んではくれない
ーーーーーーーーーー
「……………………よし」
箱からVRヘッドギアを取り出す
さっきまで使っていたフルフェイス型とは違い目元を覆う円環型
軽いし、ごちゃごちゃしたパーツなんかも無い
正直こんなコンパクトなものが人間の脳に干渉して仮想の世界を作り上げているとは到底思えない
各種設定を終えヘッドギアを装着、落ちないように固定をしてベットへと倒れこむ
胸に抱えるのは不安と焦りに未知への恐怖、けど確かに存在する期待感
心を落ち着かせ、準備が整った
「…………すぅ…………はぁ」
今まで使っていたもの半VRと呼ぶべきものとは違う、本物
実物を見たのは今日が初めてだが、それが何のために用意されているのかは知っている
机に置かれた筐体が入っていた箱に描かれた一文
スタートコマンドを唱え、多くの人の記憶に刻まれた場所へと挑む
その世界の名は
「…………ゲームスタート」
『World Idea Fragment』




