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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第3章:『残念で不幸な僕を、まじめ天使と腹黒軍師が奪い合う件について』
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第17話:天の使いと、軍師の策略(第2節)

 ヴォルク山脈の険しい山道を、スレイプニルの八本の脚が、ガッシャン、ガッシャンと、着実に踏みしめていく。


 平和な車内には、お菓子の甘い香りが満ちていた。


 その時――


ピコーン、ピコーン、ピコーン……。


 魔導戦車の警報魔法が鋭く鳴り響いた。


「――っ、何!? 周囲に高密度の魔力反応。囲まれてるわ!」


 リリアーナの鋭い声が飛ぶと同時に、虚空から現れた巨大な氷の槍が、戦車の鼻先で轟音と共に爆発した。


ズガアアアアアアン!!


「ひゃあああああっ!?」


 外で馬を走らせていたボニーが、情けない悲鳴を上げて落馬しかける。


「な、な、なにごとですかぁっ!?」


 衝撃で『銀狼』が大きく嘶き、彼女は必死に馬の首にしがみつきながら、涙目で周囲を見渡した。


 一行は即座に武器を手に取り、車外へと飛び出す。


 上空を覆う厚い雲を切り裂き、5人の黒い翼を持つ刺客が急降下してきた。


 彼らは迎撃態勢を整えたセレスティアやボニーには目もくれず、ただ一点、一行の背後で超然と佇む銀髪の天使、エーテラだけを凝視している。


「…………」


 無数の刺客たちの殺気が、鋭い針のようにエーテラ一人に集中する。


「天の目を、潰す」

「記録官、排除」


「……なるほど。翼を持つ者を差し向けるとは、合理的ね」


 エーテラが冷徹に呟いたが、内心は少し焦っている。


 天界人は、テレポートで危機を回避する能力を行使できる。だが、テレポート能力は、1日に何度も使用できない。


(天界から転移したばかりの私は、敵の攻撃を自力で回避するしかないわ)


 刺客たちは、エーテラをめがけて、空中から殺到する。


「させないわ!」


 リリアーナが魔導書のページを捲り、杖を振るった。


「そろそろ本気を見せてあげましょう。塵へ還りなさいアトミック・フレア!」


ボウッ!


 放たれた高密度の魔力弾が、背後に迫った刺客を一人撃ち落とす。


「お兄ちゃん、ドナの新しい発明品も見ててよ!」


 ドナは巨大なレンチを肩に担ぎ、不敵に笑う。


「ぎゅんぎゅん回っちゃえー!」


 彼女が懐から取り出したのは、無数の鋭い刃が高速回転する『超振動魔導回転鋸ハイパー・ソウ』だ。


ギャリリリリッ!


 激しい音を立て、投げ放たれた回転鋸が、エーテラに迫る魔力の鎖を次々と切断していく。


「わたくし達が、お守りしますわ」

 セレスティアの剣と、白と青の聖装を翻したリーファの障壁が完璧な防御を敷き、エーテラを包み込む。


 しかし、空からの猛攻が、わずかに逸れた防御の隙を突かれた。


「しまった!」


 リーダー格の刺客が、影のようにエーテラの喉元へ肉薄する。


「危ない、エーテラさんは下がって!!」


 悠真は、自分が剣の扱いすらまともに知らない、ただの高校生であることも忘れ、エーテラの前へと無我夢中で飛び出した。


 大きく目を見開き、震える手で剣を構える。


 それはプロの暗殺者から見れば、あまりにも隙だらけで、滑稽なほどに無防備な姿だったが――、


ギィィィン!


 鋭い金属音が響く。

 悠真の構えた剣に、刺客の刃が中途半端に弾かれた。


(……チッ!)


 刺客のリーダーは舌打ちし、攻撃を躊躇った。


(この男を傷つけることは、ヴァネッサ様が許さぬ……!)


 悠真がエーテラに重なるように立ちはだかったことで、刺客は攻撃の軌道を無理やり逸らさざるを得なかったのだ。


 戦い慣れていない悠真は、その衝撃だけで尻餅をつきそうになる。だが、結果としてその「不格好な守り」が、エーテラの命を救った。


「悠真、貴方……何を。地上人が天界人を守るなど、論理の破綻です」


「理屈じゃなくて、僕の『不幸』のせいで、誰かを巻き込みたくないだけなんだ!」


 悠真はあえて敵の注意を引くように、自らを囮にして刺客たちの懐へと飛び込んでいく。その無鉄砲で、それでいて自分を顧みない献身。


「ゆうゆう、やるじゃない。さすがは、わたくしの王子様ですわ」

「悠真さん、お怪我はありませんか?」


 セレスティアやリーファたちも、彼の意志に呼応するように、エーテラの周囲に鉄壁の防御陣を敷いた。


 エーテラの視界の中で、悠真の背中が大きく揺れる。


「……悠真。貴方は、本当に……」


 エーテラの胸の奥で、記録本には決して綴ることのできない「熱」が跳ねた。


(守られている……? 私が?)


 天界の「規則」によれば、記録官はただの観測者であり、地上の生命から守られる対象ではない。守る、守られるという関係性は、エネルギー効率の悪い感情の産物でしかないはずだった。


 だというのに――


 自分を盾にする悠真の背中を見た瞬間、エーテラは初めて「守られている」という奇妙な安心感を覚えた。

 それは、彼女が「世界を救う正義」と信じてきた天界の法典のどこにも記されていない、酷く不確定で、そして温かな未知の感覚だった。


 そこへ、ようやく馬から転げ落ちるように降りたボニーが割り込んできた。


「ここは危険です! 悠真殿は、私たちが……いえ、私が命に代えてもお守りしますからぁっ!」


 ボニーは半泣きで震える手で剣を構え、強引にエーテラの背中をハッチへと押し込む。


「……貴方、腰が引けているわ」

「騎士だって怖いんですっ! でも今は避難してくださいっ!」


 重厚なハッチが閉まる直前、エーテラはもう一度だけ、敵の刃の前に立つ悠真の背中を見つめた。


 騒がしいボニーの声も、外の戦闘音も、今の彼女の耳には届かない。

 ただ、胸に宿った「規則外の熱」だけが、冷徹なはずの記録官の心を静かに溶かし始めていた。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

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